816 / 1,519
土産
しおりを挟む部屋の中はほんのり薄暗く、奥に座るパパリンと、隣に立つ一人が苦虫噛み潰した顔してる。
「親父、何のつもりだい?灯りまで落としてさ」
ワーリンが部屋の明かりを強くすると、テーブルセットが部屋の隅に立て掛けてあり、何時でも乱闘可能な感じにセッティングされていた。
「言わんこっちゃないぜ~?カケルだったなー。其奴等は親父に雇われた小遣い稼ぎだー。許してやってくれやー」
「そうだな」
下の兄は乗り気では無かったようで、二人の許しを乞いながらワーリンの頭を撫でていた。濃いグレーの体毛がワイルドで、良い体してやがる。《威圧》の纏いから解放された二人は山羊と氈鹿で、如何にもな三下スタイルだ。
「ジロ、お前何ぬけぬけと撫でてやがる!」
パパリンの隣に立つ焦げ茶の犬耳が吠える。締まった体をしているがそんなに大きく無いな。俺と同じくらいか。
「お前さん、紹介するぜ。下の兄貴のジロと、うっさいのが上の兄貴でジュリー。親父は昨日見たよな。そこの二人は知らん」
「知らんのかい。俺はカケル。冒険者だ」
「冒険者だと「話はテーブル出してからだよ!」」
テーブルと椅子を並べて家族が座る。山羊と氈鹿は帰って行ったよ。
「はい、コレ土産な」
テーブル一杯にタオルやら服やら武器に盾。酒に干し肉なんかもあるぞ。土産にしては多過ぎないか?三人も若干引いている。物量に言わせて黙らせる作戦か。
「俺も土産買ってくれば良かったかな」
「構わん。見ず知らずの人種に物を貰う謂れが無い」
上の兄はそう言うが、なんか嫌なので土産をくれてやる事にした。《収納》に入ってる物なんて大した物無いけどな。
「なら見知った記念って事で」
椅子から立ち上がり、ドアへ向かう。黙りのパパリンが帰れコールするのを無視して《収納》から鉄塊を取り出した。
「鉄ー?」「鉄だな。何で浮いてるんだ?」
「この人のスキルだよ。まあ見てなって」
目の前のドアを見ながら練り練りと一回り大きく作る。ほんの少しだけ《収縮》させて、鉄枠の大きさに切り取った穴にドアを嵌め込んで元も大きさに戻す。縦三ハーン、横二ハーンのドアとなった。
「おお!鉄扉だ~!」「デカいな…」
下の兄は直様駆け寄りキコキコ開け閉め。上の兄はその大きさに感心してるようだ。
「ちぃっ、油臭ぇモン付けやがって…」
「親父ぃ、臭く無ぇぞ?つか油注さね~と~」
ワーリンが持って来た土産の油を口に含んで、噛み合わせにピュッピュと吹いて、音が無くなる迄開け閉めしてる。食用油なんだが、まあ良いか。
「カケル~、お前ぇは今日から兄弟だ~!」
「本当ならぶちのめして追い返す所だがな!」
「殺れ!殺っちまえ!俺のワーリンを誑かした人種なんざズリん中ぁ練りこんじまえ!」
「親父ぃ、分かんだろ~?此奴は無理だってぇ」
「カケルだったな。親父よ、よく見てみろよ。こりゃやべぇぞ?」
「んなモン分かっとるわっ。俺が後十人…否百人居れば…」
無理だろ。だがこの三人、何かが見えるようで俺の強さが判るらしい。
「兄弟、俺達ゃ魔力が見えんのさ~。暗い中で魔物と殺り合うにゃ暗視や魔力視が必須でなぁ」
確かに、ランタン持って殴り合うのはスマートじゃ無いよな。
「所で親父、仕事はどうしたよ?」
「んなモン休んだに決まっとろーが。他の組に頭ぁ下げたんじゃ!撫でさせろ」
「ヤダよ親父爪刺さんだもん」
それは嫌だな。渋々爪を鑢で削るパパリンをスルーしてワーリンを撫で回す二人の兄であった。猫可愛がりされてたんだな、犬…狼なのに。
すっかり丸くなった爪をワキワキさせてワーリンに襲いかからんとしていたパパリンだが、ゴインゴインと鉄扉を叩く音で我に帰った。
「誰だ!?」
「ウヴァルか?俺だ。オルグだ。それより何だこの鉄扉は?」
「貰いモンだ、気にすんな。今開けるぞ」
パパリンがドアを開けて中に入って来た者は、二足歩行で立つ、全裸の熊だった。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話
カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます!
お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あらすじ
学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。
ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。
そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。
混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?
これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。
※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。
割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて!
♡つきの話は性描写ありです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です!
どんどん送ってください!
逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。
受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか)
作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。
ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。
木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。
何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。
そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。
なんか、まぁ、ダラダラと。
で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……?
「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」
「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」
「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」
あ、あのー…?
その場所には何故か特別な事が起こり続けて…?
これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。
※HOT男性向けランキング1位達成
※ファンタジーランキング 24h 3位達成
※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。
異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~
丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月
働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。
いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震!
悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。
対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。
・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。
もう少しマシな奴いませんかね?
あっ、出てきた。
男前ですね・・・落ち着いてください。
あっ、やっぱり神様なのね。
転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。
ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。
不定期更新
誤字脱字
理解不能
読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる