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逆鱗に触れる
しおりを挟む街の門からは兵士や冒険者が出て来て集まってる。徒党を組んで調査に乗り出すって事だろう。一方城の周りでは、結界に阻まれ出入りの出来無い
兵士等が武器で結界に挑んでいたり、貴族がメイドに向かって無様に喚いたりしてる。
「リュネ、頼むね」
「は~い…。終わりました。中に入りましょう」
その瞬間、喚き散らしていた貴族が大人しくなった。兵士は相変わらず結界を啄いてるけど。
「今のが、洗脳…?」「規模が違い過ぎて…」
龍の実力の一端でしか無いが、暗部の二人は驚きを隠せ無いようで固まってしまった。リュネは背中から降りると、静かに佇む貴族とメイドを集めて指示を出す。《阻害》が効いてて兵士達は気付いて無さそうだ。
「今城に居る洗脳された者を、全て謁見の間に集めなさい」
「「「はい」」」
メイドと貴族は返事をすると、城の奥へと歩いてく。
「私達は上から行きましょう。カケルさん、お願いしますね」
「はい」
洗脳されてる振りしてフラフラと結界を越えようとすると、鱗を一枚押し込まれた。痛い!
「カケルさぁん?洗脳は解けましたかぁ?」
「痛いよぅ」
逆鱗に触れる、なんて言うが、龍にそんな物は無い。無いけど鱗を押し込まれると痛い。何処の鱗でも痛いんだとさ。勿論引っこ抜かれても痛いそうだ。痛いのをなでなでされて謁見の間の外壁に着いた。多分三階だろう。《収納》で壁を切り抜いて、風通しを良くしてやると、中に居た多分騎士が抜剣して待ち構えた。騒がれても煩いだけなので《威圧》して倒しとく。
バタバタと倒れる騎士達だが、集まりつつある面々は気にする様子も無く部屋の隅に固まっている。玉座に座るのは王で、その隣が宰相かな。微動だにせず佇んでいた。
稍あって、メイドの一人から全員集まったと報告がある。
「外に出ている貴族は居るか?」
「はい。城壁の外に屋敷を構える方が十八家族二十二名おります」
其奴等には後で城の者から説明させる事にしよう。
「王と宰相に問う。何故勇者を召喚しようとした」
「はい。侵攻が、あったからです」
主語述語の王に宰相が合わせる。
「補足します。二年前、街が一つ、跡形も無く消えました。イデロン・アッテウス・ナーバーグ伯の治める領都、ナーバーグです。現在は復興が進み、ムルシエレルと名を変えて平民共に自治をさせています」
「それ、俺がやったんだ。魔王では無いし魔王は封印から出て来ない。だから勇者を拉致する必要は無い。良いな?」
「「はい」」
まさか俺のせいで勇者を召喚する事になろうとはな。だが気になる事を聞いた。
「イデロンは本当にナーバーグなのか?」
「はい」
「ナーバーグ家の三女、イゼッタは知らないと言っていたぞ?しかも襲われて他の家族は殺されたと言っていた。街の者も知らんようだったし、誰も知らない親戚が居たと言うのか?」
「分かりません」
「戸籍と家系図を調べさせます」
宰相はメイドを呼び付けると、書物庫であれやこれと指示を出し、メイドを二人下がらせた。一人は瓶底眼鏡。多分ノーノと同じ穴の狢だろう。
その間に、この場に居る者にイデロンについて聞く。ざっと百人程度居る中で、其奴を知って居るのは三人だけ、多少口を聞いた程度の二人は王と宰相で、ナーバーグ領を治めるに当たり謁見を許しただけだと言う。最後の一人はたまたま同じ日に謁見の許可が下り、待合室で自己紹介等したのだそうだ。
「よくもまあ、知らん者を城に入れたモノだ」
「良い服を着て、偉そうにしていれば中々バレないものですよ」
「メイド服を着て気配を薄くしているだけで気にも止められませんでした」
成程笊警備。言ったもん勝ちの世界な事はある。眼鏡が重そうな本をカートに乗せてもう一人のメイドと書物庫から戻って来た。
「此方が国が管理している家系図、此方は戸籍謄本と、イデロン伯から提出された家系図に、ナーバーグ家からの紹介状となります」
物持ちが良いな。公文書だから当たり前か。
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