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俺の負け

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「範囲魔法は狭めて使えよ?ガラスが割れたら寒くて寝られんからな」

「うん!行くよ!」

上段構えで飛んで来るハークを右に避けてフルスイング。見え見えなスイングなのでハークは回避していたが、一振りしかしてないのに既に汗だくだ。

「どうした?」

「カケルの事、こんなに怖いと思ったの、初めて…」

どう言う事だろう?

「カケル殿は武器に感情を、いえ、行動に一切の感情がありません。殺意の無い攻撃程怖い物は無いと言う事を坊っちゃまはお知りになったのでしょう」

「まあ、体が真っ二つになっても死んでなきゃ治せるしな」

「あーはーははーん、カケルに傷物にされちゃうよぉー」

あ、泣いた。俺の負けである。小手調べに全力で返した結果、俺の負け。解せぬ。抱き寄せ撫で付けあやし付ける。一緒にお風呂に入らないと許してくれないそうだ。困ったな。


 ハーク邸の風呂は浅い。洗い場はある物の、旧王都にあるホテルニュー王都の風呂に近い。浴槽に胡座をかくと腹から上は湯に浸かれない。横になっても潜望鏡だけは外気に晒される事になる。
なんでこんなに浅いのかと言うと、浴室で飲食する為なのだと言うが、多分、それだけじゃないと思う。
腹這いになって出来るだけ全身を温めようとしていると、可愛らしいおちんちんをぷらぷらさせたハークがメイドを率いてやって来た。

「貴族は風呂にメイドを呼ぶのか」

「洗ったり拭いたりするでしょ?」

「自分一人でやってこそ一人前の男と呼べるんだぞ?」

「それより、カケルはなんで首だけ出してるの?」

「全身を温めてるんだよ。俺の使ってる風呂はもっと深いんだ。座って肩が出るくらいな」

「お湯が沢山必要だねそれ」

「魔法や属性魔石が無いと維持出来んな」

「カケル様。お飲み物は如何にしましょう?ハーク様は何時ものでよろしいですね?」

「それで良いよ」「俺は酒じゃなきゃ何でも。おすすめあるかな?」

「でしたら、黒糖水はいかがでしょう?最近この街に出回りだした黒糖なる甘い物を水で溶いて飲めるようにした物です」

「それ、俺が売ってんだ。けど黒糖水なんてのは初めてだな。それでよろしく」

「黒糖?何それ?」

俺の背に乗り質問して来るハークきゅんのおちんちんが当たってんのをメイドがアヘ顔して見てる。「完全に入ってる」入って無いから。

 ハークのいつものは搾った果実に砂糖を添加した高級品。俺のは黒糖を水で薄めたの。

「カケルの、茶色いね…」

「黒糖水だからな。お茶とそう変わらん色だ」

「美味しいの?」

「ハークが退いてくれないから飲めないんだ」

背中から降りて、横に陣取るハークはメイドから受け取った高級ドリンクをゴクリと行った。

「やっぱりこれかなー」

俺はと言うと、体を逸らして黒糖水を受け取り、一口…。
少し薄いが飲めなくは無いな。甘味不足のシルケ人なら喜んで飲むだろう。

「ほんの少しだけ塩を入れてみろ。もっと甘く感じるぞ。指で摘んでパラパラってな」

「塩ですか?そう言えば安い塩が出回っているようですが…」

「ああ、それも俺が売り出してる」

「もしかして、焼いた種も?」

「煎りマメな。種って聞くと食べ辛いだろ」

「種?食べるの?」

「食べられる種もあるんだよ。スープに入れても良いし、甘く煮ても良い」

「カケルは凄いね!」

「まあな。所でハークに頼みたいんだが、貴族に買い占めさせないでくれるか?」

「なんでさ?」

「貴族には白糖があるだろ?平民には手が届かないから黒糖を作ったんだ。焼塩や乾燥野菜は品薄で、暖かくなるまで値上げされ続けてるそうだしな」

「そうなの?」

「はい。砂糖は黒糖の四倍程の値段となっております。塩等は値上げ前の値段で売られておりますね」

メイドが集めた情報を聞いて納得のハークきゅん。高級ドリンク一杯の値段で黒糖水が二十杯は飲めるんだぜ?

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