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在り来り

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 初めての声を聞き、膝を着いて祈る者、静かに隣の者と喜びを分かち合う者、ひっそりと涙する者、皆が皆、声の主の誕生を喜んだ。

「パパ!旦那さまっ、見に行きましょ!?」

「ま、待てサミイ、呼びに来るのを確か待つ筈だ。お前の時もそうだった気がする」

「俺は立ち会った事が無いから何とも言えんが、洗ったり温めたり色々するんだろ?」

「サミイ、慌てたらダメ」

「イゼッタさまぁ…」

「二人目が産まれる事もあるしな。所で双子って悪し様に言われたりはしないよな?」

「王家では男の子の場合忌み子とされております。女の子では特に言われてはおりませんね」

王家だとお家騒動の的だからなぁ、仕方無い的な所もあるだろう。地球でも似た話一杯あるしな。

「平民はそんな事全然ありません!だよねパパ?」

「そうだな」

それなら良かった。

「極々稀にだが、一つの卵から二匹孵化する事がある。が、気にした事も無いな」

オチをありがとう。目玉焼きがダブルになってる事って稀にあるよね。

「のんびり待つしか無いって事だな。テイカ、お茶を頼む」

「直ちに」

「私は妻の体が心配です…」

「それは全く心配要らないぞ?死なない限り絶対直せる者が此処には六人も居るんだからな。それにフラーラとノーノがあっちで待機してる。何かあればすっ飛んで来るよ」

「カケル様、龍の皆様、よろしくお願い申し上げます」

「ふふっ、ママ上殿は寿命以外では殺らせませんよ」

「娘の料理の師匠でもあるしな」

「この家の母子は龍に好かれやすいようだな、良かったな親父よ」

「ご飯美味しい」

龍の四割が胃を掴まれてるな。俺もだが。

 茶を啜り、漸くしてフラーラが降りて来た。慌てる様子でも無いので無事な事は予想出来る。

「全て終わりましたので静かに移動されますよう」

「では行こうか、親父殿、サミイ」

「あ、ああ…」「行きましょー!」

ゾロゾロと一列で産室へと向かい、浄化の光を浴びながら待っていると、徐ろにドアが開いた。

「先ずはご主人様から。他の方はお一人ずつ順番にお願いします」

「あ、ああ。では、お先に」

「次はサミイだな」

「楽しみですっ」

「次は?次は?」

イゼッタ、リア、ネーヴェ、リュネ、ミーネ、リーム、最後は俺だ。シャリーとテイカはフラノノの交代要員として出入り自由なのでカウントしない。

「カケル様、見てあげてください」

ママ上殿がベッドの横で寝てる小さな命に視線を移す。シワシワで、小さくて、それでも人の腹から出て来るには大きくて。小さな寝息を立てている。

「おめでとう。在り来りで済まないが」

「うふふ、みんなそんな物ですよ」

「リュネ、健康状態はどうだ?」

「疲れてはいますが問題無いですよ」

「ちなみに、性別は?」

一斉に、女達の視線が刺さる。なんぞ?

「カケル、分からない?」

「顔しか見えないし、感知で見てる訳でも無いし。予想で良いなら男だと思う、多分」

「アナタはどっちだと思う?」

「え!?私は男の子だと嬉しいが…、女の子であっても勿論構わんよ?」

「で、どっちなの?」

「良かったですね、男の子ですよ」

「「ふぅ…」」

男二人、安堵の息を漏らした。その後泣き出しておっぱいの時間と言う事で居間に戻った。

「改めて、おめでとう」

「ありがとうございます」

「名前はどうするんだ?」

「カケル様…」

「俺はネーミングセンス無いからダメだよ。それに先祖の名前を一文字使うんでしょ?俺親父殿の先祖の名前知らないし」

「父の名前はダーレンです」

「ダとンを取ってダワン?」

「祖父がダーダだそうです」

「ぶはっ、ダしか取れないじゃん。ダを付けるのは確定なの?」

「難儀したそうですよ、ふふ」

「頑張って難儀してください」

「寝ながら考えてみます。それではこれにて」

親父殿が客間を出て行き一人になった。一人の名前を考えるのに難儀するなら俺はどんだけ難儀するのか…。今から名前のストックを作っておかないとヤバくね?
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