637 / 1,519
在り来り
しおりを挟む初めての声を聞き、膝を着いて祈る者、静かに隣の者と喜びを分かち合う者、ひっそりと涙する者、皆が皆、声の主の誕生を喜んだ。
「パパ!旦那さまっ、見に行きましょ!?」
「ま、待てサミイ、呼びに来るのを確か待つ筈だ。お前の時もそうだった気がする」
「俺は立ち会った事が無いから何とも言えんが、洗ったり温めたり色々するんだろ?」
「サミイ、慌てたらダメ」
「イゼッタさまぁ…」
「二人目が産まれる事もあるしな。所で双子って悪し様に言われたりはしないよな?」
「王家では男の子の場合忌み子とされております。女の子では特に言われてはおりませんね」
王家だとお家騒動の的だからなぁ、仕方無い的な所もあるだろう。地球でも似た話一杯あるしな。
「平民はそんな事全然ありません!だよねパパ?」
「そうだな」
それなら良かった。
「極々稀にだが、一つの卵から二匹孵化する事がある。が、気にした事も無いな」
オチをありがとう。目玉焼きがダブルになってる事って稀にあるよね。
「のんびり待つしか無いって事だな。テイカ、お茶を頼む」
「直ちに」
「私は妻の体が心配です…」
「それは全く心配要らないぞ?死なない限り絶対直せる者が此処には六人も居るんだからな。それにフラーラとノーノがあっちで待機してる。何かあればすっ飛んで来るよ」
「カケル様、龍の皆様、よろしくお願い申し上げます」
「ふふっ、ママ上殿は寿命以外では殺らせませんよ」
「娘の料理の師匠でもあるしな」
「この家の母子は龍に好かれやすいようだな、良かったな親父よ」
「ご飯美味しい」
龍の四割が胃を掴まれてるな。俺もだが。
茶を啜り、漸くしてフラーラが降りて来た。慌てる様子でも無いので無事な事は予想出来る。
「全て終わりましたので静かに移動されますよう」
「では行こうか、親父殿、サミイ」
「あ、ああ…」「行きましょー!」
ゾロゾロと一列で産室へと向かい、浄化の光を浴びながら待っていると、徐ろにドアが開いた。
「先ずはご主人様から。他の方はお一人ずつ順番にお願いします」
「あ、ああ。では、お先に」
「次はサミイだな」
「楽しみですっ」
「次は?次は?」
イゼッタ、リア、ネーヴェ、リュネ、ミーネ、リーム、最後は俺だ。シャリーとテイカはフラノノの交代要員として出入り自由なのでカウントしない。
「カケル様、見てあげてください」
ママ上殿がベッドの横で寝てる小さな命に視線を移す。シワシワで、小さくて、それでも人の腹から出て来るには大きくて。小さな寝息を立てている。
「おめでとう。在り来りで済まないが」
「うふふ、みんなそんな物ですよ」
「リュネ、健康状態はどうだ?」
「疲れてはいますが問題無いですよ」
「ちなみに、性別は?」
一斉に、女達の視線が刺さる。なんぞ?
「カケル、分からない?」
「顔しか見えないし、感知で見てる訳でも無いし。予想で良いなら男だと思う、多分」
「アナタはどっちだと思う?」
「え!?私は男の子だと嬉しいが…、女の子であっても勿論構わんよ?」
「で、どっちなの?」
「良かったですね、男の子ですよ」
「「ふぅ…」」
男二人、安堵の息を漏らした。その後泣き出しておっぱいの時間と言う事で居間に戻った。
「改めて、おめでとう」
「ありがとうございます」
「名前はどうするんだ?」
「カケル様…」
「俺はネーミングセンス無いからダメだよ。それに先祖の名前を一文字使うんでしょ?俺親父殿の先祖の名前知らないし」
「父の名前はダーレンです」
「ダとンを取ってダワン?」
「祖父がダーダだそうです」
「ぶはっ、ダしか取れないじゃん。ダを付けるのは確定なの?」
「難儀したそうですよ、ふふ」
「頑張って難儀してください」
「寝ながら考えてみます。それではこれにて」
親父殿が客間を出て行き一人になった。一人の名前を考えるのに難儀するなら俺はどんだけ難儀するのか…。今から名前のストックを作っておかないとヤバくね?
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる