上 下
583 / 1,519

雲丹

しおりを挟む


 一応バジャイには声を掛けておこうと思い、木の上の巣に行ってみるとぐっすりお休み中だったのでそっと出掛ける。
ノーズコーンに乗り込んで高高度に上がり、人の集落から遠い森を指示すると、東に進路を取った。方向的にはキネイアッセンか。
一直線に進んで行くと足元に街が見えた。馬鹿高い壁に黒い船が…ひーふー…十隻くらいはあるな。戦争用の船に違いない。あちゃー、街から何か飛んで来た。多分トカゲだと思うけど、どうせ追い付けっこ無いので無視して行こう。転移を含めずだが、この世界で一番速く移動出来るのは俺のコレだと自負してる。事実、一瞬で見えなくなったよ。
 暫くして移動は止まった。だが下に降りてデッドサーチャーと鉢合わせたく無いので、その場に留まり《集結》で広範囲の木を引っこ抜いて《収納》した。殺しても魔石にしかならない上に、取り出すのも面倒臭い。下草や種等はそのままだし、そのうち立派な森に戻るだろう。場所を変えて三回程回収して街へ帰る。後を付けられても嫌なので、今度は少し迂回して帰ろうか。

 島に帰って来たのは夕方。バジャイも起きてて飛び付いて来た。

「カケルーさま!どこ行ってたぁーっ!?」

「寝てたから起こしたくなかったんだよ。良い子にしてたか?」

「バジャイいーこ!はっ!ネべさまが、呼んでたぞ!」

ネべ…ネーヴェか。飯食う所に居ると言うのでしがみ付くバジャイを引き摺って向かうと、女達が食堂と厨房を行き来してた。どうやって戻って来たんだ?

「カケル、おかえり」

ネーヴェが飛び付くとバジャイはパッと逃げる。そんな間合いじゃ瞬殺だぞ?

「ただいま。雑木を採って来たんだ」

「ん、女の匂いしない。ゆるす」

許された。女達はUFOに乗せて浮かせて来たのだそうだ。

「主様、お帰りだな。今女達と夕飯を作っていた所だ」

「ただいま、リーム。後で属性魔石を作るから手伝ってくれ」

「心得た」

夕食の支度に向かう二人に付いて行き、配膳等を手伝う。

「カケル様、あそこは良い街だね…」

「そうなのか?」

女の一人が話し掛けて来た。帰宅希望者の一人だったか。余所者でも暖かく迎えてくれて、皆気さくに接してくれる。そして子供達に笑顔がある。自分の居た街はそんなの無かったと言い、料理を持ってその場を離れた。多分島の何処かで拉致された者だろう。

 夕飯食べて、片付けて、今日も皆で話し合う。帰宅不能の二人の子供はマシュエル夫妻が引き取っても良いと言う事になった。子供達も納得しているので異議は無い。帰宅希望の子供達は意見変わらず。だが、それで良い。残留希望の大人も意見変わらずである。
帰宅希望の大人には少し変化があった。未婚の女八人が残留を希望した。飯作ってる時に話し掛けて来た女も居る。
戻っても食糧難な故郷より、生きやすいこっちを選んだそうだ。既婚者や、親が心配な者はやはり帰りたいと言う。

「そう言えば、昼過ぎにキネイアッセンに行って来たんだが、デカい港街があった。誰か知ってる人居る?」

「どんな街だい?」「港の大きさは?」

「壁が無駄に高くて、船は十隻くらい停めてあったな。あと、ドラゴン飛んで来た」

「ああ…、ソイツは街じゃないよ」

「そうだね、ありゃあ要塞さ。アソコから軍艦出して、兵隊を送り込んでたのさ」

「街じゃなかったのか」

「よく生きて戻れたね…」

「俺はあんなドラゴンより速く飛べるからな」

「冒険者ってのはバケモノ揃いなのかい?」

否定はしない。人の癖にヤバい奴結構居るからな。
明日の予定を決めよう。キネイアッセンのあれは街じゃなかったので、先ずはウラシュ島で拉致された者を集落に帰す事となった。島内の何処かに帰る者は七人、キネイアッセンに帰る者は十人となった。

「私もついてく」

ネーヴェが同行すると言う。

「ならバジャイはお留守番だな。良い子にしてろよ?」

「うにー…」

雲丹、こっちにも居るのかな…。山葵醤油で頂きたい…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...