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目から鱗
しおりを挟む「割れないと良いな。俺なら《洗浄》を使う」
《洗浄》を掛けると、裸に剥かれた丸太がビシャッと水気を帯びて、乾いた。《収納》の枠で縦に真っ二つに切り、芯を触ってみる。…サラサラだ。
普段、体を洗う為の《洗浄》だが、何処を洗うかを指定してやると恐ろしいスキルに変わる。木の細胞の全てを洗う、なんて細胞の概念の無いシルケ人には及びも付かんだろうがな。
「我等は常に浄化されている故、こんな事にも気付かなんだ」
丸太の芯を触るボーデンフェルトは素で感動していた。乾燥した材を仕舞って部屋に戻ろう。とは言え部屋に出すには長過ぎるので、良き大きさに切って出す。
「先ずは枠となる四本の角材を用意する」
十ドン四方の角材を用意して、窓枠に九ドン程の溝を掘る。上だけは更に五ドン程深く掘った。左右の材を長さを見ながら嵌め込んで、上下の材を現物合わせで切り嵌める。上の材は嵌めても落ちるだけなので置いておく。
「枠は、それで良いのか?」
「一先ずな。此処で窓を作る」
二ドン厚の板を切り出して、現物合わせでピッタリサイズに調節したら、板と枠の上下の端に一ドンΦの穴を開ける。そして板の片面、今回は外側となる角を丸く削り、穴より少し細い棒を下から刺して組み上げて行く。上の溝を多めに掘ったのですんなり嵌ってくれた。
「開かぬよな?」
「切ったら開くぞ。取っ手が無いから閉まらんがな」
真ん中に切込みを入れて、その左右に穴を開ける。此処にロープを通して端を結べば取っ手兼、縛って留め具になる。
「釘を使わず作ると言う事か。成程考えたな」
窓を押し込むとグッと力が籠り、パッと開かれる。板の面取りもしておいた方が良さそうだな。軽く削っておいた。
「どうだ?やれるか?」
「石を掘るのは我しか出来ぬが、それ以外は街の者でも出来るだろう」
「なら次は扉だな」
「同じように作れば良いのだろう?」
「少し違うな」
「そ、そうか…」
部屋の入口に来た俺が、何故違うのかを説明すると、オッサンの目から鱗が落ちた。とっとと作るぞ?
扉に使う十ドン四方の枠材は三本だ。下は使わない。なので石に溝を掘るのも三箇所だ。左右の枠材を調節して嵌め込み、上の材を現物合わせで切り出す。
「ちょっと持ち上げててくれ。俺は浮かせられるが他の人だとそうは行かないからな」
「うむ」
持ち上げた高さで現物合わせした二ドン厚の板にRを削って面取りをして、上枠、そして床に一ドンΦの穴を開け、丸棒を付けて組み上げる。最後に上枠の解放部側に楔を打ち込みキレイに切って、丸材でドアノブを付けたら扉の完成だ。
「鍵は内鍵しか付けられん。鍵職人ではないのでな」
「それは此方で何とかしよう」
面取りをしたので此方はシュルシュルっと開閉出来た。下を少しだけ浮かせてあるのが効いているな。そのうち削れてしまいそうだが、直せる技術はあるから問題無いだろう。
「良し。バラしてみよう」
「は?」
「石の削り寸法さえ間違えなければ同じ大きさで作れるだろ?バラして組み立てて、構造を深く知るんだ。より良い発想も出るかも知れんしな」
「理屈は分かった」
臍組でもしてくれれば良いんだが。大工が居ればその辺は簡単にこなしてくれるだろう。
ボーデンフェルトと別れてリーム達が寝てる部屋に向かうと、起きてしまっていたようで既にもぬけの殻だった。
《感知》で探すと二人共海の上に居るみたい。魚でも獲るのだろうか?見に行ってみるか。
「おーい。ネーヴェー、リームー。何してんだー?」
空に上がり近寄ると、ネーヴェが神妙な面持ちで口を開く。
「あれ、船」
指差す先には三隻、此方に向かって来ている。そして《感知》には害意と殺意に満ち満ちていた。
「ちと見てこよう」
「いつでもやる」「我は見ていよう」
ネーヴェは殺る気満々だ。リームは一歩引いてるようで、ネーヴェの取りこぼしを見逃さないと言う意思が見て取れる。二人共目が据わってて怖いぞ。
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