上 下
521 / 1,519

可愛い弟分

しおりを挟む


「なあ、敵対して来る奴は殺しても構わんのだろう?」

「そうだねえ。けど、コイツ等のなーばりに入っちゃったオレ達も悪いし、頭下げてずらかるのも一つの道、かな?」

俺の意見にワーリンが答える。ワーリンは人間が出来ているな。

「だってよー。あたい等はその気無いけど、そっちがやるってんなら大変な目に遭うよー?」

シトンの言葉に森の中から殺気が膨らむ。馬鹿なのか?此方が折れてるのに伸し掛って来るとは、全く度し難い。

「ご希望通り、大変な目に遭わせてやろう」

「あにきぃ…」

ガットが不安そうな目で見て来るが、安心せい。直ちに死にはしない。
俺は木を引っこ抜いた。一本、十本なんてちっぽけな数じゃ無い。周囲二十キロハーンに生える全ての植物を根から掘り上げ宙に浮かせて全てを《集結》。練り合わせて雑木の塊にして《収納》した。木の上に居た者は尽く地べたに振り落とされ、幹の裏に隠れていた者は間抜けな姿を晒す事になる。彼奴等の集落だろうか、少し遠目に丸太で作った壁がある。ちょっかい出さなきゃ見て見ぬ振りしてたのになぁ。

「どうだ?大変だろう?」

「お前等こそ身を隠す場所を無くしたな!」

「お気楽な馬鹿だな。後の事考えろよ?獲物を狩るのに二十キロハーンは歩いて森に行かにゃならんのだぞ?大変だな」

「な…!?」

「村の周りにゃなーんにも無いぞー。魔物に囲まれたらどーなっちゃうのかねー?頑張って柵でも建てまくってくれ。その材料も遠くまで取りに行かにゃならんがな~」

男共を《威圧》して動けなくしてやったら更地になった森に別れを告げる。何も無い所を歩くなんて無駄でしか無いので、魔道車を出して皆で乗り込み移動した。

「兄貴ぃ、あれじゃ森が死んじまうぜ…」

「そうだな、木を植えないと死ぬだろうな。お前等は優しい子だ。だが間違えるなよ?お前等は冒険者だ。命を奪いに来る相手には容赦するな」

「「「うん…」」」

「なあシトン、此奴等ってまだ野盗の討伐してないんじゃないのか?」

「まあね。まだ子供だってのもあるけど、運がいーのか野盗に出会してないんだよ」

「飛び級でランクを上げた弊害か」

「可愛い弟分だけど、何時までも可愛いままじゃ、ダメなんだよね」

ワーリンが三人を抱き締める。苦しそうだが真ん中のガットは役得だな。

「可愛くて強い弟分になってもらおうか。これから野盗を殺しに行くぞー」

「「「えー!」」」

「えーじゃ無い。俺が見てる内に済ませとけ。人は強いし練習も出来んのだからな。死ななきゃ治してやるから安心して死に掛けて来い」

「ミーネ様よりえぐいぜ…」

「今夜の飯は美味いぞー」

食えればな。
更地の端まで走るのも億劫なのでとっとと空飛んで行っちゃう。上空から《感知》で見下ろすと、街道から程近く、断崖の麓にある洞窟を加工して住み込んでる奴等を発見した。
入口が分かりにくいように作ってあったり、脱出用なのか出入口が複数ある。通路の広さも充分で、待ち伏せ用の隠れ場や四角く整えられた部屋まである。土魔法が使える奴が居るのかも知れないな。
付近に居る者は全てで三十二人。内八人は捕まった女だ。多分男は殺されて捨てられている事だろう。

「逃げないように入口一つ以外は塞いでやる。皆頑張れ」

「殺らなきゃ、殺られる…」「うう…」「人は…、なんで人を殺すの?」

「獣が同士討ちしないと考えてるならそれも間違いだ。餌の取り合い、雌の取り合い、自分の命を守る為、色んな事で同族同士殺しあってるぞ」

「彼処に居るのは人じゃ無い。唯の野獣なんだよ。人を殺して餌と雌を奪ってる」

「戦う力の無い人が野獣に襲われないように、兵隊や私達冒険者が駆除しなきゃいけないのよ」

「ダーニーガーが前、オレ達はサポート」

「「「うん…」」」

ワーリンが隊列を指示し、リーダーがワーリンに変わったようだ。少年隊を戦闘に集中させたいからだろう。
俺は旅館オナホでもらった果実を切り分け、皆に振舞った。元気出して行こうか。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生スキル【ぬいぐるみテイム】でふかふかもふもふエルフの森スローライフ!~双子幼女エルフと動くふかふかぬいぐるみとのんびり暮らす~

メルメア
ファンタジー
事故から女の子を庇って異世界に転生したケント。 転生特典のスキルは、あんまり強そうじゃない【ぬいぐるみテイム】でした。 でもこれがびっくり。 いろいろな動物やモンスターの“ぬいぐるみ”が呼びだせるし、しかも呼びだした“ぬいぐるみ”は動くことができたのです。 そして何よりも、ふかふかもふもふで触り心地も抱き心地も最高でした。 そんな【ぬいぐるみテイム】を持つケントが暮らすことにしたのは、深い森の中にあるエルフの村。 自堕落で無気力だけどちょっぴり天才なリルと、元気いっぱいで頑張り屋さんのミルという幼女エルフ双子姉妹をはじめ、エルフのみんなと森の奥でスローライフします。 村の問題も、たまーに出てくる悪い奴も、全部ぬいぐるみパワーで吹き飛ばして、楽しい仕事と美味しい食事で満たされる異世界生活のはじまりはじまり~。

異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。 そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。 とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする? パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。 そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。 目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。 とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。

聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。

MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。 カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。  勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?  アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。 なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。 やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!! ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

私、獣人の国でばぁばになります!

家部 春
ファンタジー
(この家に私の居場所は無いの? 仲良し家族と思っていたのは私だけだったの? )    四十三歳にして家事手伝い。結婚も就職もアルバイトさえした事が無い葉月は家を出て自立する決心をする。  腰まで伸ばしていた長い髪を肩口まで切り、古い手鏡の前に置くと女神が現れた。『誰も知らない所に行って普通の人になりたい』という願いを叶えてくれると言うのだ。それに、手鏡を通していつでも女神と話ができるらしい。葉月は手鏡と共に異世界に転移する事に決めたのだった。  どことなくアジアを思わせる剣と魔法のファンタジーな世界に転移して、獣人の国に保護されたが、奴隷となってしまう。しかも、激安で叩き売りされても買い手はつかない。平均寿命約40歳の獣人の国では葉月は老い先短い老人でしかないのだ。  ……それなら、好きに生きても良いよね!  誰かに必要とされ愛されたいと願う葉月の居場所はどこにあるのか。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ご都合主義です。ゆるい設定です。 女性の年齢に対して偏見のある異世界です。了承していただけた方のみお読みください。 ※他サイトにも投稿しております。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...