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当たり障りの無い話
しおりを挟む久しぶりのエディアルタは、夕方だからだろうか、冒険者の数が多いように感じた。
「事務処理を頼むよ」
「エディアルタへようこそ。ギルド証を預かります」
事務的な会話しかしない受付嬢に当たったが、知り合いでも無ければこんなもんだろう。仕事してくれたらそれで充分だ。
「Cランクのエージャさんにカケルさん…ん?カケルさんはこの街の出なんですね」
「そうだよ。ギルマスに、カケルが属性魔石持って来たと伝えてくれないか?きっとすっ飛んで来るから」
「は?え?属性魔石って、光の棒とか…ですか?」
「そうだよ。増産分を持って来たんだ」
「し、少々お待ち下さい。連絡して参ります」
今日の受付嬢は当たりだ。こんなに嬉しい事は無い。
「あの女が気に入ったのですね。そしてまた私の目の前であんな事やこんな事を見せ付けてお楽しみになるのですかそうですか」
「またクタクタになるまでしてやろうか?」
耳元で囁くと、俺のマントの中に隠れてしまった。抱き着いてニヤニヤするんだろう。暫くしてドタドタと階段を降りる音。胡麻塩角刈りヒゲマッチョ、ギルマスだ。
「カケルか!」
「禿げたな」
「まだ禿げとらん!…こっち来い」
指でクイクイっとするのでホイホイっと付いて行ってしまう俺と、しがみ付いて離れないエージャ。ギルマスの部屋は相変わらずだな。
「女達は元気にやってるか?」
ソファーにドカッと腰を下ろしてギルマスが問う。当たり障りの無い話から始めるのは会話の基本だ。
「嫁がコレでコレモンでさ」
「真面目に働いてるようだが…其奴は新しい嫁か?」
「エージャです。カケル様のお世話係として大奥様に推して頂きました」
「詳しくは省くが嫁の実家の従業員だ。鈍っているけどそれなりに強いぞ?」
「成程分からん。で、今日はどんだけ持って来たんだ?旧ナーバーグに優先して回したからこっちには殆ど回して無いんだ」
「あっちは穴掘り辛いからな」
「掘れんそうだぞ」
「取り敢えずあるだけ全部持って来た。とにかく見てくれ」
《収納》から箱に入った属性魔石を取り出して見せてやる。光と水が各三千、火の鉄板は千あるが出すと床が抜けそうなので一枚だけ出してやる。
「水三千はありがたいな。この鉄板は何だ?魔石が嵌ってるから魔道具なのは予想出来るが」
「火の属性魔石の鉄板だ。火を使わず料理が出来る。一枚三千ヤンで千枚持って来た」
「儲ける気になったのか」
「三百ヤンで放火されたら嫌だろ?」
「…まあな。全て買い取ろう。金のやり取りと搬入は下でやってくれ」
荷物を《収納》して気になった事を聞いてみた。
「転売の件はどうなってる?」
「私が代わりに報告します。当ギルドでの監視の強化と取扱い業務の交代。それにより商業ギルドの取扱い停止。増して、家政婦組合の監査によりエディアルタ、旧ナーバーグでの転売は見られません。流出はゼロでは無いと思われますので他の街でどう取り扱われているかは不明です。それでも住民以外には売らないようにしています」
「他所に流れちゃったら仕方無いよな」
雑談もそこそこに、秘書に連れられ下に降り、倉庫に荷物を搬入した。
「凄い量ですね…」
「鉄板は嵩むからなぁ」
搬入を終えたら宿を取ろう。以前泊まったちょっと良い宿でチェックイン出来たのはラッキーだった。
「カケル様はお酒飲めたのですね」
夕飯に酒を頼んだらエージャがそんな事を聞いて来た。ママ上殿の所でもカロ邸でも飲まなかったからだろう。
「そこまで好きじゃ無いし、沢山飲めないからなー。コレ一杯で充分だし、今夜はもう外に出ないから飲む事にしたのさ」
温目のエールをちびちびやるが、地球のビールのように苦くなく、ちょっと甘酸っぱい。キンキンに冷やしたら危険な気がする。
「飲むか?」
「良いのですか?では一杯だけ…」
酒を飲み、ほんのり赤みを帯びたエージャはちょっと色っぽかった。
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