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悪役は一人で良い
しおりを挟む夕飯の仕込みが終わり、旦那が昼寝をすると、部屋に女将とティータがやって来た。
「ティータから聞いたよ。ラッテちゃんを治してあげられなかったんだってね」
「原因はギルドだ。今ジョンに頼んで関わった奴等を洗わせてる」
「じゃあ、こっちのお願いもその後になりそうだねぇ」
「そうなるな。まあ、時間は掛けないつもりだよ。女将は家政婦組合に入ってるよな?何とか上の者と話をしたいんだが」
「そりゃあ構わないけど…、ギルドと対抗するのかい?」
「俺の施術はスキルでやるから、人には真似出来んのよ。見ても無駄だってのに見ようとする。見るだけならまだ良い。だが、知った気になって被害者を増やしたくないし、それで金稼ぎしようなんて以ての外だ。だから第三者からの圧力が欲しいんだ」
「ねえ、家政婦組合ってそんなに強いの?」
「馬鹿な子だねぇ、考えてもみな?家に帰って、食事は誰が作るんだい?洗濯は?買い出しは?」
「…お母さん…」
「それだけじゃ無い。女冒険者が結婚して家庭に入るのに色んな便宜を図ってくれるんだ。料理や家事を教えてくれたり、家政婦先を斡旋してくれたり、産前産後のケアとかな」
「男のクセに詳しいねえ。もう利用してるのかい?」
「妻の母が身重でね。俺の子じゃ無いぞ?」
「でもさ、女の冒険者はすぐに結婚しないでしょ?男の冒険者は狩りとかすればご飯食べられるだろうし」
「…できなくした」
「え?ネーヴェちゃん?」
不貞寝するネーヴェを撫でて、再び夢の世界にお帰り頂く。
「街の周りの木を全部引っこ抜いて獲物が隠れられなくしてやった。その先は深い壕を作ったから、狩り尽くしたらもう周辺では仕事出来無いよ」
「そいつは困ったねえ。街から人が居なくなっちまうよ」
「街道に橋を掛けないと出入りも出来ないけどな」
「で、その材料も無いって訳かい。そりゃあ早く解決しないといけないね。家政婦組合には話しておくよ」
「肉が欲しかったら言ってくれ」
女将は家政婦組合に行くと言って部屋を出て行った。ティータは街の外を見て来るって。
「…ぜんぶ、カケルのしわざにした」
「悪役は一人で良いのさ。友達に怯えられるネーヴェを見たくないしな」
寝た振りしてたネーヴェを撫でて居ると、暫くしてティータが帰って来た。
「カケル様、外、大騒ぎだったよ!木が消えたと思ったら、青い光がドワーッて!その先を焼き尽くしたんだって!街の外も草しか生えてないの!」
「肉だけじゃ無く、野菜なんかも便乗値上げされるかも知れないから気を付けるように言っておいてくれ」
「う、うん。わかった」
お駄賃代わりのキスをして、ティータは夕食の手伝いに向かった。ベッドからはグルグルと龍の鳴き声が聞こえる。俺達も夕飯に向かおう。
「カケル、俺も同席して良いか?」
夕飯を食べているとジョンが飯を食いに来た。飯よりも俺と話すのが目的だろう。
「構わんよ。で?」
「話が早いな。飯食わせろよ」
「分かったよ、食いながら話せ」
エールを頼もうとしたので水にチェンジさせた。仕事中だろうが。
暫く後、俺は食い終わって水をチビチビ。ネーヴェはお代わりの肉を頬張る中、ジョンも食べ終わったようだ。
「で?」
「手を尽くしてバルジャンに吐かせた」
「素直に吐いたろ」
「そう仕向けたのか?」
「仕事はミス無く早い方が良い」
「…とんでもねーな」
ジョンの懐から出された生温い獣皮紙を見ると、貴族の名前がある。フレデリン…、これはバルジャンの親か。他にも数名の苗字付きが居た。他には商業ギルド、魔法ギルド、治療院からそれぞれ数名の名前が書き連ねてあった。
「今直ぐ殺して構わないか?」
「貴族殺しは大罪だぞ?と言ってもお前ならバレないか」
「以前ハークの家に行ったジジババはこの中には居ないよな」
「当たり前だ。各ギルドの相談役で隠居の身。ボケて無きゃ、お前の名前が出た時点で警戒するだろうさ」
あのジジババ達はハークとアルアの事が好き過ぎてボケる暇は無いだろうな。取り敢えず、名前の人物を《感知》で探してマーキングし、明日の朝ギルドに集まるように暗示を掛けた。
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