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国益
しおりを挟む「カケル、どーだった?」
「主人の許可はもらえたよ」
女子達の輪の中に入り、胡座の上にネーヴェを乗せる。
「今日は診るだけだから、不安がらなくても良いよ?」
「治してくれないの?」
「急に死ぬ事もなけりゃ、急に喋れるようにもならないだろうし、診ても治せない事だってあるんだ。先ずはじっくり診て、原因を探したい」
「なるべくいそぐ!」
「そうだな。治せそうな時はネーヴェにも手伝ってもらうよ?」
「わかった!」
やる気満々のネーヴェを膝から下ろし、ラッテの傍に行くと、明らかに固くなってる。転がってるお人形さんを浮かせて踊らせてやると其方に集中したようだ。人形を見て、俺を見て、驚きを隠せないのは部屋に居る人全てであった。
突然立ち上がり、走って部屋を出て行ったラッテに、メイドとバルジャンは戸惑って居たが、子供達は動じない。俺も何となく予想出来ている。ラッテが笑顔だったから。
何処からか帰って来たラッテに、これ!っと言わんばかりに押し付けられたのは使用感強めの熊っぽいののぬいぐるみだ。地球のヤツと作り方が一緒なのに驚く。
「そこに寝かせて」
ブンブン頷いてぬいぐるみを絨毯の上に寝かせると、よっこらしょっと立ち上がるのを見て感動して抱き締めてる。動けなくしてどーすんだ?と思ったら俺の膝の上に座って来た。俺とぬいぐるみにサンドイッチされたラッテは凄く嬉しそう。今のうちに診てみるか…。
頭の表面を診回して、確かに傷は完全に消えている。頭蓋骨も凹む事無く癒着しているな。しかし脳の左側、中央付近に何か固まってる。…これは、血か。回復して傷は塞がったが、既に出血した物は取り除けなかったようだな。こいつが脳を圧迫して障害を発生させていたのだろう。これを取り除いてリハビリすれば、多分いずれきっともしかしたら治るかも知れないと思う。
「カケル…」
「え?」
いつの間にかラッテの頭を撫で回していたようだ。事案である。撫でられていた方は俺の手を両手で押さえて離すまいとしてるので事案は回避された。なでなで。
「カケル様、撫でてないでどうなのか教えてよ!」
「ラッテは治るのですか!?」
「………」
視線が痛いので正直に話して聞かせる。
「…と、そんな訳で脳に残った血溜まりを取るのは簡単だ。その後で、声を出す練習を頑張るのはラッテ次第って事になる」
「信じられませんね…。どうして見えるのか、どうやって取り出すのか、予想も出来ません」
メイドと並んで部屋の隅で見てたバルジャンが言うが、スキルの賜物としか言いようが無い。だからこそ、信用が大事なのだ。詐欺師扱いされないために。
今回は診るだけなので帰る。ティータは昼営業の手伝いがあるので一緒に帰るそうで、ネーヴェと揃って付いて来た。
「カケル様、施術する時は治療師を立ち会わせて下さい」
「技術を真似るってか?」
「国の、街の、人々の為です」
「拒否。見ても真似られんし、無償でやる事を金稼ぎの道具にしてもらいたく無い。それに、間違った技術で死人を増やしたく無い。そして国等に知られて無駄に召喚されたく無い」
「それは、国益に背く行為です」
「俺この国の人間じゃないもん。それに、王は欲深なクセに自分では欲しがらず、周りの貴族に搾取させる。そんな奴等の溜まり場みたいな謁見の間に行きたくない」
「ドラゴンを献上させられたのでしたね…」
「おかげでランクも上げられず、泣いて家に帰ったんだ」
「でも、私とカケルが会えた。ぐっじょぶ」
「私とも会えた。ぐっじょぶ」
「私はサブマスになれました。…ぐっじょぶ?」
あれのおかげでジョンも少しだけ真面目に働くようになったそうだし、町にとっては良い事づくめだ。ダンジョンは俺を嫌ってるのでは無く、この街や国をコントロールしたいのかも知れない。
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