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しでかす

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 先触れが戻るまでの退屈な時間をヒラウオの巻き上げる泥を見て過ごす。何となくだが、大きさは三十ドンくらいだろうか?採れたてを調理しても泥臭い為、十日程泥吐きさせると言うのは日本の鰻や鯉に通ずる物があるな。

「取ったらダメなのか?」

ワーリンよ、勝手に取ったらダメだろう。それに十日は食えないぞ?売ってるのを買った方が断然美味いと俺は思う。

「坊っちゃま、先触れが戻りますのでお席にお着きを。カケル殿等は此処よりお言葉遣いにお気を付けくださいませ」

「お心遣い感謝に絶えませぬ」

「カケルさんって意外とオーバーよね」

「大雑把だとは思う」

これでも繊細なボールコントロールで鳴らしたものなんだがな。

「総員出発ーー!」

先触れが帰って来て隊列に加わり、門に向かってゆっくり常歩なみあしで歩き出す。俺も雪を蹴ってる振りして進む。五百ハーンそこらの距離に十リットもの時間を掛けて、漸く門に辿り着いた。

「開門ーー!」

ゴゴゴゴギギギギ…っと、重そうな音を鳴らしながら奥と手前に設置された門が垂直に上がって行く。中世のお城みたいに閉じ込めて殺すタイプの門だな。この国なら、熱した油より冷水ぶっ掛けた方がダメージデカそうだな…、なんて考えながら黒光りする鉄格子を抜けて街に進入した。門の中は雪が無く、格子越しに見える街並みも雪を掃き清めてあるのでここからは歩きで移動する。ワーリン達は丸太の姿で歩くのか?お前等が良いなら良いけど。

 街の中はとても静か。と言うより大通りの端に平民達がズラリと並んでて、バルタリンドでの凱旋よりとてもお行事が良い印象を受ける。騒ぎに乗じて何かをしでかさないように、静かに見守るのだと三号車の馭者は言う。《感知》には色んな所に人が隠れてるのが見える。屋根の上だとか路地の隙間とか。しでかすのか?と思えど害意も悪意も無い。ならば、しでかす奴を探す係なのかも知れないな。チラっと見ると、スっと隠れる。

北から南に城へと続く、一直線の大通りの先には再び壁と門が立ち塞がる。此処からは貴族街。そして護衛依頼の終了となる。

「此度の働き見事であった。この書状を王都の冒険者ギルドに渡し報酬を得るが良い」

「ありがとうございます。また良しなに」

ゾーイ車から降りて書状を渡すブルランさんに、代表のキュルケスがとても自然に返答する。流石先輩慣れてるっすね。必死に手を振るハークきゅんにホッコリし、後詰の護衛が中に入り門が閉ざされるのを確認したら俺達は宿屋探しだ。ヒラウオ食べてみたいしゆっくり寝たいのだ。それにワーリンとキュルケスが左右の腕に絡み付いている。ご無沙汰だったし俺もしたい。
門前に立つ二人の門兵に宿屋の場所を聞いてみるが、ジモピー宿屋に行かないし、宿舎のある兵隊さんなら尚更行かないのが宿屋である。食事処や酒場なら知ってると言うので場所を聞き、後は自分達の足で探す事にした。

「此処、魚っぽい匂いする」

飯屋はワーリンの鼻ですぐ見付ける事が出来た。一般のご家庭でも魚くらい調理するだろ?って思うのだが、何故かちゃんと料理屋を探せるのが凄い。よしよしよしよし。しかし南天には暫く時間があるし、ワーリンもお腹空いて無いみたい。この店はキープにして昼までは宿を探そう。
こう言う時、冒険者ギルドが有るととても役立つのだが、旧王都に冒険者ギルドは無く、有るのは商業ギルドと家政婦組合だけだそうな。

「商業ギルド、行く?」

「そうだな。歩き回るのは明日でも良いし」

キュルケスの一声で側道を東に抜けて、北東の大通りに向かう。民家であろう集合住宅に一×二ハーン程の板が沢山並んでる。これは盾なのか?それとも雪かきにでも使うのだろうか?

「魚の匂いがするね」

俎かも知れん。日光に当てて除菌するとか言うしな。
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