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バット

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 受付の奥、受付嬢の列に隠れるようにひっそりと口を開ける薄暗い下り階段を降りて行くと、火の魔石をたっぷり使った暖炉のような施設がある。此処で温めた暖気をギルドの隅々に届けるそうで、所謂ボイラー室なのだろう。で、酸欠しない為の広い空間が訓練場を兼ねている。

「マリョクロ壊すなヨ?」

「そう言うのはジョンくんに言ってくれ」

「武器はこっちだ」

ルイスが指差す先には籠があり、剣やら盾やら木で作られた武具が雑多に入って溢れて転がってる。

「あへうー、あーくやおーべー」

ソーサー咥えたジョンくんは無視だ。
籠の中をガサる俺とヤシンくん。ヤシンくんはナイフやダガーを持てるだけ持ってベルトに挟んでる。俺は何にしよう…。使うなら鈍器だな。槍、杖、短杖、棍棒、どれも振り回したら折れそうなボロさ。ヤシンくんは壊れても良いように沢山確保したのかも知れん。
《収納》の中で雑木を練り固めて一振りの棒を作り出す。

「ヤシンくん、これ使っても良いかな?」

「オレにクン付けするナ!長い棍棒カ、好きにシロ」

その棍棒は、膨らんだグリップエンドから細身のグリップが伸びて先端に向かって太くなり、先端は丸みを帯びていた。思わず振りたくなるデザイン。念願のバットを手に入れた。

「当たったら痛いから気を付けろよ?」

「当タラナケレバイイ。…ジョン退け!」

両手のナイフを振り回しジョンくんを追い出すヤシンくん、やる気満々だな。そこだ目を狙え!当たらなければ…を地で行くジョンくんはソーサー食いながら余裕の顔で避けている。此方もウォーミングアップでもするか。グリップとフォームを確認しながら始めはゆっくりと、慣れたら素早くしてく。スパイク履きたい。

「オマエ、早くコイ」

邪魔者ジョンくんを追い出したようで、広間の真ん中で待っている。

「死ぬ覚悟はしてあるか?」

「当テテからイエ」

「次は俺だぞー」

「ジョンくん、殺しそうになったら止めてくれ」

「乱入して良いんだな?」

「そんな事したら口聞いてやらん」

「サッサとコイ!」

ヤシンくんが煩いので徐ろに近付いて袈裟斬りにぶっ叩いてやった。左の鎖骨は多分折れたな。
驚くAランク組にドン引きのCランク、Eランクは何だが喜んでるな。

「「ヤシン!」」

駆け付けるルイスとマリーバ。ポーション掛けたり飲ませたりして治してる。

「あンた!なんて事すんのよ!?」

「え?力を見せろと言われたから見せたんだが」

「だからって加減って「止めろマリーバ」ジョン!?」

「Eランクに加減されるAランクが居てたまるかよ?避けられない状態にさせられたヤシンの負けだ」

ジョンくんは感覚的に解ってるみたい。《威圧》と《纏う》の合わせ技で、ヤシンくんの周りに《威圧》の空間を纏わせて動きを封じたのだ。Aランクとなると直接《威圧》しても効かない可能性があるからな、念を入れてみた。

「ウウ…、くそっ!まだヤレル」

回復されて目が覚めたヤシンくんだが、ジョンくんに窘められて渋々諦めた。

「カケルくぅーん、邪魔者は居なくなったよぉ?」

自分が戦いたいだけだった。

「お前さーん、頑張ってー」

頑張りたくないでござる。

「ジョン!ヤシンの仇取っとくれ!?負けたらサブマスの話は無しだよ!」

何ぞそれは?

「カケルくーん、俺が勝ったらギルマス変わってくれよ」

「あ?ギルドに許可無くそんな条件出すな!ギルドはお前の玩具じゃねーぞ。それに女、調子乗ってやりもしねーくせに煽ってんじゃねーよ!勝っても負けてもお前はサブマスになるんだよ!!」

ついカチンと来てしまった。たれ流された魔力と《威圧》が無差別に放たれた。

「カケルさん!抑えて!」

「お前さんっ!!」

ジョンですら片膝を着いていた《威圧》の中で、ワーリンだけは必死に俺に抱き着いて来た。
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