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忘れ物は無い
しおりを挟む朝、起きて、艶々になったシトンの頭臭をチェックする。クンカクンカ…よし。良い朝だ。そそくさとアズも起き出し、ベッドから離れたので寝坊助共をベッド毎《洗浄》で叩き起して食堂へ向かった。
仕事前でカロはシャキッとしているが、シトンとアズは《洗浄》されるのが好みではないようだ。なんせ冷水だからな、直ぐ乾くとは言え、気持ちは解る。
食堂ではアルネスとシャリーが食事の仕度を済ませて待っていた。
「おはようアルネス。シャリーも手伝ってくれたのか、ありがとな」
「御屋敷で働いていた頃からの習慣になってますので問題ありません」
「おかげでとても助かりました」
朝食を終えたらタマゲル小屋を片付けて、ひーふー…十匹居るのも確認したら草と一緒に背負いカバンに詰め込んで、飛行特化型荷車を《収納》して準備完了。見送るアルネスに行ってきますのべろちゅーをたっぷりしてカロ邸を後にした。
「カケル様、折角拵えた鎧は着けないのですか?」
「あんなのギルド行く時と狩りする時くらいしか着ないって。この街じゃ俺だってバレてるしな」
「カケルさん、鎧作ったんだ?見たい!」
「そのうち一緒に依頼を受けようか。その時見せてやるよ」
ベッタリくっ付いて来るシトンから女の子の香りがする。これが真のシトンなのだろう。良い事だ。
ギルド前、カロと冒険者は右に俺等は左に。こんにゃろ、しれっとシャリーを連れて行こうとすんな。名残惜しげなカロと別れて寝具店へ向かう。
「皆さんおはようございます。お待ちしてました!」
「カケル様とお別れカケル様が行っちゃうやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ…」
エージャが壊れかけてるので《洗浄》して頭も体もスッキリさせてやる。何より怖い。
サミイ達が用意した毛布とクッションを、取り出した特化型に敷いて行く。クッションはまあ良いとして、毛布十枚も居るのかなぁ…?載せられてしまったので買うしかあるまい。サミイに渡した金で足りると言うので残りはママ上殿に差し上げた。
「このお金で輿入れ道具を買えと言うのですね?」
「この金を俺だと思って大事になさって下さい」
「硬いですけど…、短いですよ?」
「野菜でも買って下さいね。また食べに来ますから」
「はい、また食べに来て下さい。ふふっ」
意味深な言葉を敢えてスルーして、親父殿にも挨拶したら特化型を再び仕舞って門前へ。
「カケルよ、また変な乗り物持って来たな」
失礼な事を言う門兵だが、四角に車輪の世界に円筒形は新し過ぎるよな。飛べるし。
「すげーだろ?飛ぶんだぜ?これ秘密な?」
「秘密ならこんな所に出すなよ」
「最もだが、秘密にしたらまたあンたらが騒ぐだろが」
「仕事だからな!」
「こっちは門を潜らなくても街に入れるんだぜ?」
「仕事を増やすな?」
「今から飛ぶから給料分は驚いてくれ。じゃあなー」
特化型に乗り込んで…、靴脱ぐか。扉を閉めて、閂掛けて、準備良し。
「忘れ物は無いよな?」
「大丈夫です。トイレも行きました!」「同じく」
巨大な砲弾が空に向かって飛び上がる。門兵も冒険者も、街の住民も見ているだろうが気にしない事にした。千ハーンも上がれば互いに見えなくなるからな。
「水平飛行に入る。試乗も兼ねてるから徐々に速度を上げてくぞー?」
「「はーい」」
返事を受けて島へと飛んだ。
加速を続けて途中から、窓のガタツキが気になった。窓の部分は凹んでるから、空気抵抗があるのかも知れない。
「ちょっと直すから一旦停めるぞ?」
一人外に出て窓の補修。柔らかくしたゲル版を窓にみっちり埋め込んで、鉈で均して凹みを無くす事七ヶ所。内側を削って軽量化するには時間が惜しいのでこれで補修完了とした。再び乗り込み加速すると、今度はガタガタしなくなった。
「静かになりましたねー」
次に作る時は板の時点でゲル版を付けちゃおうと思った。
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