301 / 1,516
退職金はギルド証に入る
しおりを挟む《洗浄》したり回復したら、飯を食って一息着いた。その間ずっとシャリーの視線が離れない。
「どうした?するか?」
「カケル様がなさりたいのでしたら何時でも…」
「何か暗いな」
「だって、カケル様、帰られるのですよね?」
「家あるし、妻も妾も居るからな」
「……」
「お持ち帰りしてやろうか?妾で良いなら」
「一緒に居て下さるなら…」
「偶に一人で出掛けるけど、ダメか?」
「帰って来て下さるなら…」
「なら、ギルドを辞めて家においで」
「ぅあい」
飛び込んで来る小さな体を受け止めた俺は、涙を拭うハンカチになった。よしよしよしよし。
「所でシャリーよ、お前幾つだ?」
「うぐっ、おんだにどじをぎぐなんで、でいがじーがあいばじぇん…」
「未成年じゃ無い事は判ってんだ。周りの女にお酌される程度には年季が入ってんだろ?」
「ぐすっ、ずず…、中々しゅるどいですね、ずずっ、二十八です」
「シャリーさん先輩…」
「嫌な言い方しないで下さい!…ギルドでは十年、その前は貴族様の御屋敷で七年程お子様のお世話番としてお世話になっておりました」
「苦労してたんだな」
「常に子供扱いでしたからね。ギルドで五年働いて、やっと大人として見られました。職員にだけですが」
「これからギルドに向かおうと思うが、心残りは無いか?」
「問題ありません。庶務全般でしたので引き継ぎもありませんし」
「ならばギルドを退職したら買い物して家に行こう。寄り道する街もあるけどこっちでも買っておきたい」
「承りました。退職してもギルド証は残るので、店の見当と割引きはお任せ下さいませ」
「頼もしい先輩だ」
「ぎにゅぅー、辞めて下さいー」
もう一度、俺達含めて《洗浄》し、部屋の中身を《収納》したら手を繋いで商業ギルドへ向かう。今朝迄あれだけヤったのに、元気に仕事に来てる受付嬢に驚いた。今日で帰る事に寂しげだったが、シャリーを宜しくと念を押された。
退職金はギルド証に入るのか…。
退職のやり取りを終わらせて、街で色々買い物したらお昼過ぎ。最後に冒険者ギルドへ挨拶して街を出た。
「驚く程入りましたね、スキルの《収納》ですよね?」
「俺なんて、まだまだ使いこなせて無いんだぜ?」
「まさか。…所でカケル様の御屋敷は何処ですか?」
「驚く程遠いぞ」
「それなのに歩いて街を出た事に先ずは驚きです」
「ちゃんと門を出ないと怒られるからなー」
《収納》から背負いカバンとノーズコーンを取り出して、草を食むタマゲルを十匹とご飯になる草をたっぷり詰め込んで背負う。そして浮かせたノーズコーンにシャリーを押し込み、股の間に頭を突っ込んだ。
「よ、予想外過ぎて驚けないのですが…」
「これで移動するんだ。トイレしたくなったら教えてくれ」
「タマゲルなんて、どうなさるおつもりですか?」
「俺んち、タマゲル居なくてさ。屎尿処理に役立ってもらうんだ。では行くぞ」
「成程…。何か、浮いてませんか?」
「さっきから浮いてたろ。加速するから安定するまで口を閉じてれ」
徐々に加速し高度千ハーン。そして水平飛行でバルタリンドに飛んで行く。
「速度が安定した。もう口を開いても良いぞ」
「目の前に…、空があります…。雲が、凄い勢いで…」
「驚いたか?」
「逆に冷静になれますね。飛行魔法なんて初めて見ました」
「実は魔法じゃ無い。スキルなんだ」
「ふぇ~、それも初めてです」
「バルタリンド迄はまだ暫く掛かるから寝てて良いぞ」
「初めて聞く地名?…街の名ですか?」
「街の名前だよ」
それからは、仮眠したり空の上でおしっこさせたりしてヒズラー大陸に入ったのは夕方になる少し前だった。ギリギリ行けるかな?
「何とか街に入りたいからかなり急ぐぞ。口閉じてろ」
「んぐ!」
音速は怖くて出せないが、かなりの速度でかっ飛ばしバルタリンドの門前に着陸した。当たり前だが門兵が騒がしい。
「お騒がせしてすまん。俺だ」
「なんだお前か」
サッと掃けた。慣れって怖くね?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
130
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる