女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

おかえりなさい、カケル様

　朝食を終え、お茶で一息付きながら本日の予定を話し合うのが日課になっている。物が色々無い家だからどんどん作っていかなきゃならない。
今日のメインはフェルト作りの続きで、シート状にして乾かす所までやりたい。
イゼッタにはフェルト作りに使う板を作って貰う。
メイドと王女はフェルト踏み。テイカは家事雑務。俺は釣具作りだ。
作業はイゼッタが理解してるので任せて良いだろう。

イゼッタが製材したり癒着してるので、ついでに丸太を一本加工してもらう。三ハーン程の長さに切り、丸太の樹皮を剥いて、両端を尖らせ、真ん中に穴を開ける。真ん中に蔦を通して縛り、バランスが取れれば完成だ。
はい、イゼッタ作の釣具が完成しました。俺指示しかしてねぇ。

せめて釣果で仕事をしよう。しかし餌が無い。
ではどうするか？
先ずは丸太の片方の先端を下に向けて軽く持ち、蔦の端はしっかり持って海水面に近付いて行く。
するとヤバい大きさの魚が食いつこうと大口開けて飛び上がるので、食われる寸前に蔦だけ持って絶対に回避する。ここ重要。
魚が丸太を咥えたら魚ごと逃げて陸揚げする。
完璧な作戦だが慢心はしない。丸呑みされても良いようにナイフは研ぎ直して装備しておく。

丸太を持って海面に近付いた瞬間、目の前が真っ暗になった。失敗である。
丸呑みで良かった…。喉に歯のある魚なら死んでたな。魚の胃の中から家に飛んで帰った。

「おかえりなさい、カケル様」

テイカのナイフは俺のナイフより百倍は切れる。サクサクと腹を割いての第一声がコレである。

「また餌にされたよ…」

「お風呂は沸いてますから着替えて来て下さいね。それまでに捌いておきます」

なんと頼り甲斐のある言葉か。
体を洗って着替えて戻ると三枚になってた。早いな。皮を引いて柵取りしたら終わりじゃないか。俺の早風呂が早過ぎると不服申立てされたが、男の風呂なんてそんなもんだぞ？
夜にしっかり洗ってくれと言ったら満更でもない顔してた。

魚の切り身は夕飯と干物にされるそうで、テイカは作業に戻ってしまった。

　さて、フェルトの方だが家の前で板の上に解したフェルトを置いて、水を掛けて踏み踏みしてる。
俺より軽いからふわっとしたベッドになりそうだな。それはそれで良し。

シート状になったフェルトを干し場に吊るし、キャッキャしながら働く女子を見て癒された。
風の魔法に砂と嫉妬が混ざってる気がする。
愛い奴め、胡座の上に乗せて抱き抱えてやった。

昼飯を挟んでフェルトのシートを量産し、十ドン厚のシートが四枚出来た。前回は三日くらい掛かってたな、倍なら七日は見ておくか。
一枚は乾いたので家に取り込んで、寝室に敷いた。柔らかくてふわっふわ。もうコレで良くね？イゼッタでなくても寝てしまいそうだ。
因みにベッドの寸法は大体三×八×〇.五ハーン。十五枚は必要だが五十ドンも厚み要らんよな？と言うか、元々おが屑を入れる為の深さだった。
横になって目を閉じて考えてたら意識を持ってかれた。

目覚めると王女に授乳されていた。お乳出ないけど引き続きちゅぱって居るとテイカもやって来て夕飯だと告げられた。
皆が揃わないと食べ出さないから悪い事したな。
魚と野菜のスープはマタルの種がぷりぷりで、とろみも付いた食べるスープだ。美味し。
その後はテイカにしっかり洗われ、しっぽり咥え込まれてふわふわの上で寄り添って寝た。寝心地良いから皆直ぐに眠りに落ちてしまったのだ。
久しぶりにちゃんと寝られた…。