上 下
52 / 1,519

なーんかヤな予感

しおりを挟む


 大きい門が閉まってしまった。今夜は泊まるしかない…と思ったら小さい門から出入り出来るとテイカ談。あまり利用して無かったので忘れてましたてへぺろ、と。

飯屋でゆっくり夕飯食って小門に向かうと、小門からカンテラを持ったサミイが入って来た。
なーんかヤな予感。

「家族が帰って来ないのか?」

「あ…、カケルさま!門が閉まっちゃったので外に泊まってると思ったんですけど、居なくて…。」

「街道沿いを来るんだろ?」

「はい…」

俯いてしまった。抱き締めて撫でてやる。

「テイカ」

「お任せ下さい」

話の分かる娘で助かる。テイカはサミイのお世話をしつつお留守番。武器がナイフだけでは心許無いからな。
イゼッタを背負い、装備を持って外に出た。

(クリープして門から逃げる。サミイの親の居る場所まで移動してクリープ)

 真っ直ぐな街道を滑る様に進む。この時間の畑ゾーンは誰も居ない。もしかしたら麦畑でイチャコラしてるカップルが居るかも知れんが。

(人が居なければ高度四百ハーンまで加速)

すんなりと空に飛び上がった。
街道沿いを真っ直ぐ行くと森に入る。ここからは野獣とモンスターの縄張りだ。
程無くして減速した。この下に居るのか。
真下に移動すると馬車的な何かが一台倒れてる。馬的な動物は十匹程度の犬っぽい野獣にお食事されている。人はどうやら外には居ないようだ。

「イゼッタ、やれるか?」

「愚問」

背負った肩から両腕を突き出すと、指先から放たれた十本の電ノコが犬っぽい野獣をバリバリ切り裂いて行く。野獣の悲鳴が無くなると、辺り一面血塗れの肉片だらけに成り果てた。
なるべく血の着いて無さそうな場所に降りる。

「サミイが心配してたので来た冒険者だ。生きてるかー?」

家族の名を出せば警戒心も和らぐだろう。
馬車的な乗り物から声がした。

「もっ、もう大丈夫なのか!?」

「荷を引く家畜は食われちまったし、辺り一面血の海になっているが大丈夫だ」

「早く逃げないと血の匂いで新しいのが来る」

「た、助かうわ!なんじゃごりゃあ!?」

女の声で出て来るとは現金な奴め。

「荷車を捨てるか起こすか選べ、時間は無いぞ」

「お、起こすから手伝ってくれ!」

岩を担いで鍛えた怪力が火を吹…重いぜ…。
ほぼ俺の力で何とかドカッと起こしたが馬的な動物も居ないし、押すか引くしかないんだよな。

「キャッ!」

「中に居るだろうとは思っていたが奥さんの方も無事だったようだな」

「あんた、何でそんな事まで知ってんだ…?」

「俺はサミイのトコの客だからな。知り合いでも無きゃわざわざ助けに来るかよ」

「そ、そうか…」

取り敢えずイゼッタと親父を乗せて馬的な動物の代わりに荷車を牽く。さて、命掛けない程度に頑張るか…。

(この場から街に向かって死なない程度の速度で逃げる!)

バキッ

「うぐぇぇぇ…」

人体が出すべきでない嫌な音と共に、荷車が出した事の無いような速度で走り出す。

(馬具の革帯を肩に掛けてて良かった。腹だったら内臓飛び出てたわ。けどこれ鎖骨折れたな)

痛みで逆に冷静になる。脳内物質もドバドバ出てるのだろう。街まで脂汗たらたら飛び続け、街に辿り着いた。

「カケル様!」

「カケルさま!パパママー!」

テイカに抱き抱えられる俺と、娘と抱き合う父母。門兵も慌てて飛び出して来た。

「ダワンにメリダ!一体どうした!?」

「魔獣に襲われてた」

イゼッタとサミイの父母が状況を報告している間、俺はとても痛かった。テイカに抱かれて落ち着く努力はしているが、イゼッタ早く来てくれー。

「カケル!今終わった」

「イゼッタ様、カケル様は鎖骨を折っているようです」

「すぐ診る」

折れた右鎖骨を見て手を添えたイゼッタだが、回復魔法だと折れたままくっったかないか?

「イゼッタ、このまま回復させたら、折れたままになりはしないか?」

「任せて」

「任せた愛しい妻よ」

指から光のビームが患部に優しく突き刺さる。
湖でやったあれの応用か。骨が動く感覚がして、次第に痛みが消えて行く。イゼッタがホッと息を吐く。
俺もホッと一息、術式終了のようだ。

「明日まで安静」

「仕方ないな。宿が取れれば良いが…」

「宿の事は心配しなくて良い。家に来てくれ」

新しい動物を連れて来たサミイの父ダワンがそんな事を言ってくれた。金はあるけど甘える事にしよう。
特別に門を開けてもらい、動物を荷車に付けて戻って来た。住民特権だな。
そして皆で寝具店へ向かった。

サミイの家でお茶と軽食を振る舞われ、謝辞を受けた。その言葉だけで充分な成果だ。

「パパ、ママ、わたし、カケルさまの所に嫁ぎます」

「…だ「良かったわねサミイ」…」

「うん!直々帰って来るね!」

妻力…。その後ダワンは無口になった。
俺も無口にならざるを得なかった。

「カケル…」

「第二夫人おめでとうございます」

愛妾がとんだ出世だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...