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財布の中身

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「ハァハァ…ふぅ~。ステータス見てなきゃ即死だったぞ…女神ェ…」

 時速約二百キロからの急減速は、生前に落ちてきた植栽ブロックの半分程の重みが体にのしかかる訳で、ぶっちゃけ死ぬかと思った。
加速・減速は慣れるまでは徐々にやらんとヤバい。教習所で急ブレーキを踏んで頭でクラクション鳴らしたのを思い出したわ。
ほろ苦い思い出と、口の中に広がる酸味を唾液で洗い流し終えた頃には地面に着地していた。

 降り立った草原は上から見てたのとは違い草丈が高く、俺の腰くらいまである。四つん這いでハァハァ言ってるので完全に隠れている状態だが。

人が手入れをしなければこんなものだろう。
大食らいな草食獣も居なそうだが、もしかしたら野獣も食えない程の毒草なのかも知れない。
女神がモンスターやら野獣が居る的な事を言ってたし、一先ず安全を確保しなきゃ。
高い木に登ればここより少しはマシだろうと思い立ち、中腰姿勢で辺りを見回す事しばし、草原の端に森との境目を見つけた。

(あの木のてっぺんに落ちるように逃げる…イメージ湧かないな)

着地しようとした木がトゲだらけかも知れないし、まずは根元まで行ってみよう。
足元を見つめ頭の中で言葉にする。

(今居る地面から時速五キロで二メートル真上に浮き上がり、その高度のままあの木の五メートル手前まで時速十キロ、二メートル手前までに徐々に時速五キロに減速し、真下の地面に逃げたい)

ゲロをぶちまけてる時に気づいたが、この『逃げる』と言うギフトは空を飛べる。
初めに地面から逃げてから移動すれば体力を無視して移動出来る。
それにしても念じる言葉が長い!発音するよりマシだけど緊急時にこれでは話にならん。

結果、移動する事は出来た。だがだいぶ失敗した。
時速五キロとは言え急に動くとガクッとする。
時速十キロで更にガクッと。
そしてチャリンコ程度の速さなので遅い!
ジャンプ力のある野獣が居たらカモにされてた所だ。
減速は上手くできたが二メートルの高さから自由落下した!しかも低木生えてた!地味に痛い。
使い方次第では結構楽出来そうだが慣れるまでは大変だ。

目の前の木はトゲも無く普通の木みたい。樹齢などわからんが幹も枝もだいぶ太い。
上の方に蛇とか蜘蛛とか居なそうなのを確認した。
今度こそ!

(今居る地面からゆっくりと木の幹に沿って逃げる。座れそうな枝を見つけたら速度を維持したまま枝の真上に逃げる)

今度は成功だ!
木の幹をぺたぺた触りながら登って行き、十メートル程登った先に良さげな枝を見つけて座ることが出来た。
新しい事も発見出来た。
逃げながら木登りすると移動速度が早くなる。
普通に木登りするより疲れない。
素早く安全に登れはしたが、人力介入しなくて済むようにしろよとセルフツッコミを入れておく。

 取り敢えずの安全を確保したので衣食住を何とかしたい。服はあるが食える物は飴三つ。川の水を飲むのは抵抗あるが、知らない世界では木の実すら食うのを躊躇う。

川は落下中に見えた。
歩いて行くのはかなりキツいが空で見かけた街に行くよりは近い。街に行っても金無いしな…金?

「財布あんじゃん!」

ジャンパーの内ポケットから財布を取り出して中身を確認する。
財布の中身は空だった。

「おい女神!財布の中の一万二千円と小銭返せよ!!」

天に向かって吠えた。
シルケでは使えない金。
それでも地球で汗水垂らして稼いだ金。
硬貨として使えなくても素材のアルミや銅、白銅なら換金出来たかも知れないのに…。
流石に俺もキレて良いよな?

革の財布を内ポケットに仕舞い直し溜め息一つ。

「そうだ、川に行こう」

川に移動するために出来るだけ効率の良い方法を考える事にした。
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