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情け無い、僕

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 乗り合い馬車を守っていた男はそれからしばらく頑張っていたが、喉をやられたのか悲鳴が止んだ。ロシェル曰く、両足をウォリスに噛まれて仰向けにされ、ブフリムに馬乗りにされて身動きが取れなくなったそうだ。

「外のは全員殺られたよ!どうすんのさー?馬も殺られてるよー?」

 馬車屋の稼ぎは馬がいなくては始まらない。稼ぎ頭がダメになっては馬車屋の損失は尋常ではないだろう事が予想出来る。

「ユカタ、情けをかけてお上げなさい」

 エリザベス様は仰るが、絶対気分を害するだろう。

「僕は情けない男になっても良い。けど後悔しないね?」

「後悔?民の命を守る事に後悔等ありはしないわ」

「分かった。エリザベス様は明かりを。ジュンは穴。マキ、エヴィナ、僕は前に出るから、ロシェルは僕等の隙をカバーして。レイナは周りの警戒、セーナは…ここの守りかな」

「「「おう」」」「おし、殺んぜ」「ベス。ですのに」

「ま、良いわ」

「開けるよっ」

 エリザベス様の火魔法が敵のいる真上に発生すると、敵共は一斉に警戒の向きを変える。その隙を突いて敵の死角に開けられた穴から外に出ると、各自狙いの1匹に向けて駆け出して武器を振るって行った。

「ウォリス8、ブフリム10。周囲には居りませんわっ」

 エリザベス様から索敵の報告が上がる。これくらいなら何とかなるな。僕は槍でウォリスの腹を貫くと、武器を剣に持ち替えて首を斬る。トドメは刺せていないが戦力外にするだけで今は十分だ。エヴィナとマキもウォリスを1匹減らしたようだが、囲まれるのも時間の問題だ。

「ウォリス4、ブフリム9。レイナは前衛の援護を」

「承知」

 前衛女子を囲もうと集まる敵共の背後を取っって剣を振る。女を目にして頭がおかしくなったブフリムなんて敵じゃない。左回りで数を減らす。

 レイナの手持ち投石器はウォリスに向けられた。毛皮に阻まれ殺傷力は無いが、前衛女子がウォリス2匹を相手にしないように、片方の出鼻を挫く撃ち方をしている。

「ブフリム終わったー」

 遊撃のロシェルが声を上げる。ロシェルは最初にウォリスを1匹殺ってからはずっとブフリムを減らしていた。戦いは数である事を理解しているからだ。

「残りウォリス3。周囲無しっ」

「僕が出る。ロシェルはトドメ刺して」

「あ~い」

 ウォリスと人のタイマンならば、ウォリスに負ける事は無い。それくらいの鍛錬はして来たからね。ロシェルが丁寧にトドメを刺してる間に3人の戦闘は終わった。

「皆、死体を集めて剥ぎ取りを。ジュン嬢は穴をお願いしますわ」

「承知ですっ」

 ブフリムは、袋から中身を出し、討伐部位を切り取る。ウォリスは皮を剥ぎ、後ろもも肉だけ確保してそれぞれ穴へ投げ込んだ。人の死体も同様に、持ち物を検めて穴へ投げる。穴が埋まり、ロシェルは感想を述べた。

「血の匂いで新手が来そうだね」

「ええ、今はまだ。けれど処置はしなければ。皆、周囲を燃やします。前衛は汚れを落としたら戦闘区域の外へ」

 そこらの葉っぱで血糊を拭い、土壁の傍に集まると、エリザベス様は照らしていた火球を動かして、地面を燃やして行く。瞬間的に、焼けた血の匂いが立ち込めて、僕等は顔をしかめる。

「コレじゃあ遠くの敵が気付いてしまうわ」

 セーナはそう言うと風魔法で戦闘区域につむじ風を発生させた。風と火が交わって、火の粉が空に上がってく。匂いを上に飛ばしてるんだな。

「セーナ嬢、かたじけなく思います」

「貴女なら出来るわね?」

「次はお手間を取らせませんわ」

 辺りを焼け野原にして熱が収まると、ようやく乗り合い馬車から人が出て来た。

「助かった…」「おい!馭者はどこだ!?」「馬が殺られたって、うわ…」「俺達どうやって帰れば良いんだっ」

 生き残ったと知って騒がしくなるお客達。それでも誰1人僕等に感謝の言葉は無い。助けてくれなんて頼んでないから、礼をする言われは無いのだ。




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