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ロシェルと、ベッドで

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 貴族様が退出されてようやくホッとする。息を吐いて、再び絨毯に腰を下ろす。

「ふぃ~、殺られるかと思った」

「上手く受けたな。避けたら魔法が飛んで来てたぜ?」

 それは予想済みだ。貴族の中で魔法が使えない者は多くないと聞く。ソファーに胡座をかいているガサツ者は、かなり稀な1人であると言える。あの時僕が避けていたら、ニコラ様を逆上させてしまうだけだっただろう。代わりにエリザベス様が逆上遊ばされたのだが。

「その時は私がぶっ飛ばしてたわよ」

 セーナは強気な事を言うが、エリザベス様が悲しむ顔は見たくない。逆上した顔も出来れば見たくない。

「怪我は?してたら治してあげるけど」

「鎧の皮が切れたかも。治せる?」

「死んでる物は治せないわね。こっち来て見せてみなさい」

 セーナの横に座って背中を見せると、やっぱり皮に切り傷が出来てたみたい。名誉な負傷になってしまったな。その後、いくら待ってもエリザベス様が帰って来ないので離れに移動させてもらう事となり、メイド服達と合流する。

「ロシェル、ドレス着ないの?」

「ヤダよお股がスースーするじゃん」

 メイド服だってスースーしてただろうに。離れの客間にはメイド服から着替えた面々が、メイドさんから頂いたドレスを着て華やかな感じになっていた。しかしロシェルだけは普段着のズボン。これじゃ護衛の冒険者みたいだ。

「ユカタ君、どうかな?」

「良く似合ってるよ」

「口が達者になったのね」

 ジュンの問いに答えると、セーナはすまし顔で嫌味を吐く。1年も女性パーティーに混ざっていたのだ。多少の機微は分かるようになったつもりだ。どうかなと聞かれて否定出来る程、僕は空気の読めない人間じゃない。

「旦那、家のお嬢はまだあちらに?」

「うん。面倒臭いけど貴族は貴族で集まってないとな。だって。のんびりしててって言ってたよ」

「そう言う事でしたら、私等も下がらせて頂きやす」

 馬車付きのメイドさんに馭者達は既に休んでいるようだが、エヴィナのメイドはいつ呼ばれるか気が気じゃないのでずっと待機してたそうな。休めと言われ、ようやく肩の荷が降りた2人は休みを取りに部屋を出て行った。

「ユカタ、着替えたいからついでに着替えに行きましょ」

「セーナ様、それでしたら湯浴みなさると良いかと」

「私達も頂きました。疲れが和らぎますよ」「はい」

 ドレス達はお先に一風呂頂いたと言う。

「ユカタも一緒に入っちゃいなよ」

「僕は後で。なんなら食後でも良いし」

「へへっ、へたれ~」

「ユカタが盛りのついたウォリスみたいになったら、お先に失礼しちゃうわよ?」

「アタシも入ろっかな。汗かいちゃった」

「メイドさん、洗浄の魔法使える?」

「ご要望とあらば」

 僕とロシェルを洗ってもらった。その後はセーナが湯浴みしてる合間に着替えに行って、夕飯は離れの食堂で食べた。デカい鳥の丸焼きがその場で薄切りにされて供される。赤いソースが濃厚で、柔らか過ぎるパンとの相性が堪らなかった。

「食べ過ぎた、かも」「僕も」

 僕とロシェルはとことん平民だ。美味しいものが好きなだけ食べられるなら遠慮なく食べてしまう。おかげで2人、客室のベッドに並んで寝てても何も無い。食べ過ぎて動けないからだ。

「食べた分、働かないと、太るな」

「明日やる。寝る」

 ぐっすり寝て、まだ暗い中起こされた。

「ユカタ、行くよ」

「トイレか?」

「鍛錬。トイレも行く」

 トイレに行くなら僕も行く。夜廻のメイドさんに見付かってトイレに連れてってもらい、外の森で鍛錬する事を伝えると、うろつかれるよりはと案内されたのは訓練場。この家の兵士が使ってるそうで、広さ自体は学園のと近いが四方が壁なので狭く感じる。そして暗い。星明かりでは互いに人影としか認識出来ないだろう。

「走るか」「だね」

 四角い訓練場の端々に向かうと、互いに左回りで走り出す。追い付かれたら負けの全力持久走だ。







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