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メイドの、目覚め
しおりを挟む置いてけぼりにした護衛部隊と合流したのは明けて午後。兵士10人、軍馬8頭、2頭曳きの馬車1台の一個小隊だ。前に4騎と軍馬車、両サイドに1騎ずつ、最後尾に2騎と囲まれて、尻を痛めぬ速さで進む。覗き窓から見える馬に乗る兵士…実に良い。
「馬のお尻よりアタシ見てよ」「止めとけ馬鹿ロシェル」
馭者側の席に被り付き、覗き窓から顔を出す僕の背後をロシェルが襲う。合流のついでにこっちの馬車に流れて来たエヴィナの注意を聞かず、覆い被さって抱き着くと腕力で体を締め付けて来た。
「ユカタの旦那。コイツ等オスですぜ?まさか」
ロシェルの声に気付いた馭者も勘違いした言葉をくれる。馬に乗る、兵士を見てるんだよ。僕も馬に乗って誰かを警護したりしたいんだ。騎兵だぞ?格好良いだろ?マントをはためかせて駆けてみたいじゃないか。
「ユカタ君っ節操ないよ!?」
僕のどこが節操無いのか。兵士の仕事ぶりを見てるだけだと言うのに。隣に座るジュンは筆記用具を荷台にしまってある事を悔いて嘆く。僕の行動を誰かに報告するつもりなのか?
「馬じゃなくて、兵隊さん見てるんだよ。僕が兵役落ちて学園入った事、昔聞かせたよね?」
「ひ、一目惚れですか!?停めてください!紙とペン、紙とペンをっ」
「馬鹿言うな馬鹿」「思い出して後で書きな」
騒ぎ過ぎたか、メイドに窘められておる。シュンとしてしまったジュンを見かねてエヴィナが口を挟んだ。
「おい、お前ちょっと外出てコイツの荷物取って来い」
「へい。ですが、何故?」
「へへっ、良いモン見せてやっかんよ。オレは興味ねーけどさ。面白ぇぜ?良いだろジュン」
「は、はいっ是非一読下さいっ」
ジュンの荷物に、一読と言うからには本か何かが入ってて、面白いからそれをメイドに読ませたいって事みたい。そのついでに紙とペン、か。移動中の馬車から出るのは危険なのにも関わらず、メイドが1人外に出て、馭者席を踏み台にして荷物を降ろす。滅茶苦茶高級なマジックバッグの背嚢を、迂闊に天井に置くのはどうかと思う。4人の荷物がそれ1つに収められてるらしい。
「お嬢、お持ちしやした」
「面倒掛けたな。ジュン、見せてやんな」「うんっ」
そして車内は静かになった。何やらヒソヒソしているが、兵隊観察する僕の耳には入って来ない。たまにおおっとか、うほっとか聞こえていた。
「おめやんだんにん」
「や、や、やんだん…?」
「やるじゃねーかって事」
「失礼言うな。こん方ぁ今日から先生だ。先生、コイツァ上物ですぜ。もっと広く知らしめてぇとは、思いやせんかい?」
「ま、回し読むのは…」
「オレの郷にさ、版画ってのがあんのよ。板に彫った線に色着けて紙に写して絵にするって工芸品なんだがな」
「へい。ソイツに文字を彫って、量産出来れば、と。差し出口、すいやせん」
「良い…。それ、良い。レイナちゃんもきっと良いって、言ってくれるよね!?」「はい、必ず」
何か決まったらしい。途中からロシェルに耳塞がれてたからよく分からん。夕方、町と化した元村に着いてその日は1泊。翌日メイドとメイド服達は凄い眠そうだった。
「何してたのさ…」
「金儲けの話してたらしいよ。アタシ寝ちゃったけど。ふぁ~」
全面ベッドになった車内で、起きているのは僕とロシェルの2人だけ。何も起きないハズは無く、僕の肩を枕にしてもたれ掛かる頭が重い。片腕はロシェルの腰に回されて動く事も出来ず、昼の休憩地に着くまで悶々とした時間を過ごす事となった。
「お楽しみにはならなかったようで」
起きてたのかよ。危なかったぜ。迂闊に揉んでたら大変な事になってたな。
オドノヒューの町に着いたのは翌日の昼。今日の僕はエリザベス様の馬車に乗り、癒しの時間を堪能していた。
「あンた疲れてない?そんなに私と結婚したいの?」
あっちの女子トークは何言ってるのか分からないんだよ。
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