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エリザベス様は、ドレス

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 時が経ち、今日は卒業の日。魔法鍛錬場に集まった卒業生は皆、思い思いの装備で自らを着飾って整列している。実地訓練の最中に亡くなった者、学園を去った者も居て、居並ぶ数は50を切った。背後の観覧席には誰かの親兄弟であろう部外者が家族の晴れ姿を見に集まっているらしい。僕は誰も呼んでない。依頼でもなきゃ会う事も村に行く事も無いだろう。

 学園長の話が終わり、そのまま解散となる。簡単なモノだ。卒業生はこれから部屋を空にして、夕方までに出て行かなければならないから。前もって空にしている生徒は多くないし、荷物の多い生徒は大変だ。僕は武器と背嚢くらいしか持って行く物ないけどね。

「ユカタ、よろし?」

「よろしいよ」

「馬車の支度は出来ているけど、私のわたくし荷物の搬出にもうしばらく掛かりますの。お待ちになって」

 エリザベス様は鍛錬場を出ようとする僕を捕まえて、出発が遅れると言う。エリザベス様の馬車なら誤差でも1日2日にしかならないので気にもならない。ゆっくり午後からでも構わないと告げた。

「あら、ユカタ。可愛い彼女とどこかにお出掛け?」

「え?」「見知らぬ方ね。どなた?」

「ユカタの母です」「あら、お母様でございましたか。てっきりご姉弟かと思いましたわ」

「嘘吐け。ってかセーナ来てたの!?」

 振り向いて、なぜここにセーナが?魔法使いの格好してたので全然分からなかったし、どこかの家族の兄弟かと思ってた。装備には卒業生の出で立ちとは明らかに違う高級感はあるが、そんなのパッと見じゃ分からない。

「セーナ様?」「本当だ。マキちゃん、セーナ様だよっ」「まあ」

 セーナと言う言葉を聞いて3人衆が、それ所かセーナの名を知る者が反応を示す。元1クラスの者に講師の一部が僕の近くに居るセーナに注目した。

「人の目が多いわね。場所を変えましょ」

「セーナ嬢、私もわたくしご一緒させて頂きますわ」

「はいはい、よろしくてよ」

 私も私もと3人衆も付いて来て、なぜか僕の部屋。部屋を空にしてる最中とは言え女子寮に男は入れないそうなので僕の部屋になったのだが、女性が男子寮に入るのは問題無いのだろうか。

「なーんにも無いわね」

「装備新調するのと食費にくらいしか使わないもん」

「セーナ嬢。私、わたくしエリザベスと申します。家命によりお2人を王都へお連れする任を任されております」

「そうなの」

「本当はこれから馬車でムルザバに行って、セーナを迎えに行く予定だったんだ」

「先に来ちゃったって訳ね」

 エリザベス様の苦労が半分近く無駄になってしまったな。

「ここまで30日は経ってるよね?おばあちゃんは元気?」

「あまり元気では無いわね。けど遅かれ早かれ養老院の世話にはなっていたわ。ま、あっちでお友達が出来たみたいで私が帰ってからもちょくちょく連れてってあげてたけど」

「セーナ様、私達の事、お覚えですか?」

「ウェストモーア家のレイナです」

「カナロア商会のジュンですっ」「マキです」

「ウェストモーア、覚えてるわ。あの時カバンをこさえてあげた子達よね?」

「はっはい。まだ使ってますっ」「私は、父に譲りました」

「そ。で?誰がユカタの良い人かしら」

「アターシー」「オレだオレオレー」

 窓の外から声がする。ガサツな1人は木に登り、もう1人は少し下にいるのだろう。アタシ奥さんになるって声は、寮の壁を面した部屋全体に届いてしまった。

「あンた、ああ言うのが好きなのね」

「盗賊堕ちさせると手強いから、僕が養わなきゃって…」

 どっち?と聞かれてどっちもと答えたいが、1人は貴族だ。

「人に言えた義理じゃ無いけど、お節介で結婚するのはどうかと思うわ。ここ狭いし、荷物担いで下に降りましょ」

「セーナが結婚出来なかったら僕がもらってあげるからね?」

「稼ぎ次第ね」

 嫌味を嫌味で返したら軽く流された。






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