剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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膨らむ、期待

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「そ、そちらの女性は?」

 翌日、ギルドに寄ってルイ姐さんから依頼を請けて目的地に向かい、依頼人に挨拶するとこんな事を言われる。

「後ろのは依頼請けて無いから気にしないで」

「あンたがあの子達の親戚ねぇー」

 達、では無くペニーの親戚な?ロシェルはチンピラみたいに下から上へと舐めるようにアーケードさんを繰り返し見ているに違いない。他にも昨日宿に泊まった女子がみんな付いて来てしまった。

「依頼人のアーケードさんだ。失礼な事言うなよ」

「お掃除の依頼と聞いて手伝いを名乗り出ましたマキと申します。メイド経験もありますので、本日はよろしくお願いします」

 マキが名乗りを上げて、今日は2人で依頼を請ける。ルイ姐さんに押し切られたんだけどね。一緒に付いて来た4人はただの野次馬だ。帰れ。

「じゃあマキと僕は仕事だから。みんなは街で遊んでると良いよ。んじゃ」

 半ば強引に皆と別れ、集合住宅へマキを押して行く。こうでもしないと中まで付いて来そうだし。

 依頼内容は短く言えば掃除と家具の処分や配置換え。細かく言うと、家具の中身を全部出して要る物と捨てる物に分別。次に空の家具を分別、要る物は部屋から出して掃除し、要らない物はバラして部屋から出す。空になった部屋を掃除して、要る家具を再配置と言う感じ。

「服は売れるけど、どうするの?」

「服は全部捨てます。夫の服が他の男性に着られているのを見たくないので。まとめて縛りますのでこちらに」

「装飾品はどうしますか?」

「捨てたいですが、多少の価値もあるので売ります。こちらの箱に入れてください」

 最初の分別はそれ程時間は掛からなかった。服なんてそんなに枚数無いからな。問題は要らなくなった家具。ベッドの寝藁を捨てるシーツで包むが、1回では出し切れない。長い間使ってないと言うので虫共が入ってるし、一昨日ここで寝ていたらと思うとゾッとする。

「外に荷車を用意してあるので持って行きましょう」

 重くはないけど嵩があるので依頼人と一緒にシーツの塊を支えて階段を降りる。藁はまだあるのでシーツは再利用だ。何往復もして寝藁を荷車に敷き詰めた。

「ベッドはどうする?」

「ユカタ君が下宿に来てくれるなら残すけど…」

「1つのベッドで、とはしないのですね」

「男の人ってね、1人の時間も必要なのよ」

「するつもりはあるのですね」「うっ」

 僕何されちゃうの?下宿するかは置いといて、ベッドの枠は簡単にバラせるのでいずれ再配置すると言う事になり、部屋から出されて清拭された。同様にクローゼットにテーブルと椅子、コート掛けが再配置のため清拭される。

「掃除は私が」

「僕水汲むよ」

「いえ、部屋の掃除は私でも出来ますので、お2人は荷車に乗ったゴミの処理をお願いします」

「厩舎の近くのアソコだよね?」

「荷車もそこのですから、この鑑札を持って受け渡ししてください」

 鑑札を受け取り荷車に向かい、ゴミ捨て場へ荷車を引いて行く。マキには乗せたのが落ちないかの確認をしながら後ろから押してもらった。ゴミ捨て場に着いたらゴミを捨て、職員に鑑札と荷車を返してアーケードさんの所に戻る。掃除してたアーケードさんを手伝ったり家具の再配置をしてお昼をちょっと過ぎた。

「もっと時間が掛かると思ったけど、やればすぐに終わるモノね。ミートケーキを焼いてあるからお昼を一緒に食べましょうよ」

 ミートケーキ。僕は初めて聞く料理だ。薄く伸ばしたパン生地を円柱の型にたるませるようにして被せ、中に調理したミンチ肉を詰め込んで、円柱からはみ出たパン生地で包んで焼いた物だそうだ。

 食卓のあるキッチンは1階。素通りしてたので見てなかったがこの家オーブンがあるのか。中で薪を燃やすタイプじゃなくて焼けた炭を入れるタイプだそうで、金属のトレイに乗せられた金属の円柱からは茶色く焼けたパンが膨らみ期待も膨らむ。





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