剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる

文字の大きさ
上 下
177 / 297

仕事の、成否

しおりを挟む


 水樽を抱えた2人が扉に水を掛ける。粗方冷めていたようでジュージュー言う事は無かったが、触るのはためらうくらいのお湯になってる事だろう。

「援護頼むぜ」「おうよ」

 ミルコが扉を蹴り押すと、開いた隙間からシューッと空気の流れる音がした。

「中に入らないで」

「お、おう」

 開け放たれた扉の前から、3人が中を覗き込む。マッチョ兄弟はどんな顔しているだろう。奥で倒れる塊に、僕は駆けて行きたい気持ちを堪える。

「学生、だな」「兄弟、行かないのか?」

「息を止めて行こう。部屋の中で息すると倒れるかもだから」

 兄弟達はあまり分かってなさそうだけど、取り敢えず大きく息を吸って入って行った。炭焼きで起こる事故と同じにならなきゃ良いけどな。

 マッチョが2人ずつ抱えて、僕は1人引きずって部屋を出る。袋小路の入口まで持って来て、ダメだと判断された。とても貴重な回復魔法が効かなかったのだ。これでダメなら僕達に人を生き返らせる手段は無い。

「エリザベス様、私の魔法では…」

「そう。せめてお家に帰してあげたいわ」

「あの、私の背嚢に…」

 それは、人が物になった事を意味する。ジュンの言葉にエリザベス様は少し考え、否定した。

私のわたくしのポーチにて持ち帰ります。学園の術師であれば…いえ、期待は持ち過ぎぬ事にしましょう」

 来た道を引き返し、学生の屯する階段前へ。エリザベス様の声に賛同したレイド達と合流し、街へ、学園に帰って来た。時間はまだ、昼にもなっていなかった。

「ここからは私の仕事ですっ。エリザベス様は救護室へ。私は担当を呼んでおきます」

 コラリーさんは門前でそう言うと、返事を待たず学舎へと走って行った。

「俺達も急ごうぜ」「抱えて行こうか?」

「おいおい、首が飛ぶぜ?」

「エヴィナ、冗談はおよしなさい。それに慌てる必要は無いの。普通に急ぎましょう」

 そう言ってエリザベス様は走る。街中で走れなかった分を取り戻すのだろう。元デブと気になる2人、3人衆と取り巻き達を引き離し、先行して学舎に着いたのは男3人にガサツが2人。そしてガサツに押されて速度を増したエリザベス様とコラリーさん。

「ひっ、ふっ、運動っ、しなきゃっ…ぎひっ」

「体力ないと結婚出来ないよ?」

「あ、明日からっ。今はそんな事よりっ」

 コラリーさんは事務所に入ると誰かと話してるみたい。僕達は救護室で待つ事にした。

 遅れた面々が玄関前でハァハァしてる間に、救護室に大人達が入って来た。救護室の職員に、魔法講師が2人。そして学園長と秘書の女性。部屋が狭くなると言うのでマッチョ兄弟は部屋を出た。

「エリザベス嬢、この度は面倒を」

「冒険者となればいずれ来る事でしょう。私達わたくしがまだ冒険者でないのが残念ですが。まずは診断を、治せるものならお願いします」

 ベッドに向かい、ポーチの中から2人ずつ取り出すと、すぐに大人達が診察を始めた。首元に手を当てたり顔に耳を近付けたり。僕には何をやってるのか分からないが口を開けて風魔法を流し込むのは分かった。強制的に息をさせているようだ。

「エリザベス嬢、皆も。後は学園が対処しよう。明日に備えると良い」

 学園長はそう言いながらも風魔法を生徒の口に出し入れする。その表情にエリザベス様は頭を下げ、戻りましょうと僕達に退室を促した。

 多分だけど、ダメだと思う。けどやるだけやったのだから納得しなければ。整備室に上がり、明日に備える。

「私がやれると言ったから…よね」

「許可したのは私でわたくしす。私にわたくしも責任があるのだから貴女1人の責ではなくてよ」

「他にやれた?みんなでバチボコする以外で。30はいたよ?」

 ロシェルは敵の数を把握していたようで、ウォリスが20にブフリム12は居たと言う。中には大きい種も居たそうで、バチボコするには分が悪いと続けた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

禁忌地(アビス)に追放された僕はスキル【ビルダー】を使って荒野から建国するまでの物語。

黒猫
ファンタジー
青年マギルは18才になり、国王の前に立っていた。 「成人の儀」が執り行われようとしていた。 この国の王家に属する者は必ずこの儀式を受けないといけない… そう……特別なスキルを覚醒させるために祭壇に登るマギルは女神と出会う。 そして、スキル【ビルダー】を女神から授かると膨大な情報を取り込んだことで気絶してしまった。 王はマギルのスキルが使えないと判断し、処分を下す。 気を失っている間に僕は地位も名誉もそして…家族も失っていた。 追放先は魔性が満ちた【禁忌地】だった。 マギルは世界を巻き込んだ大改革をやり遂げて最高の国を建国するまでの物語。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

処理中です...