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いざ、本番
しおりを挟む今日はレイドでのダンジョン探索の日。まだ暗い内に寮を出て学舎の玄関前に向かうと早起きのロシェルが1人待っていて、僕達に気付いて早速愚痴を垂れた。
「遅~い」
集合時間前なので遅くはない。
「おはよう。お嬢様方はまだなの?」
「おめかしすんだってさ」
「ロシェルはおめかししないのか?」
「アタシそんなんしなくても可愛いもん」
「ハイハイ可愛い可愛い」
女性の準備は時間が掛かると言うのが世の常なので、朝食用のお弁当を齧りながらお嬢様方の到着を待つ。2つ入りの挟みパンを1つ食べた所でご機嫌ようと声がした。
エリザベス様は新調した白いブーツを鳴らして先頭を進み、後ろには3人の取り巻きを従えている。その後ろに3人衆と気になる2人が続き、暗くて見えないが殿にエヴィナがいるのだろう。
「ご機嫌よう。食事はした?」
「いいえ。歩きながらでも済ませようかと」
歩きながらのお食事なんて無作法、許されませんわ。なんてもう言わない。エリザベス様は成長しておられるのだ。
初めてレイドの練習をしてから21日。皆それぞれに冒険者らしくなった。稼いだ10万Uを使って装備や道具の買い増しもした。エリザベス様は白いブーツを突貫工事で作らせて、今日まで履き慣らしていたと言う。取り巻き達は魔法の発動体を買ったそうで、足りない分エリザベス様に出してもらったと言っていた。3人衆の前衛、マキはついに細剣を買った。何度か試合ったが間合いが離れてやりにくくなったし、突きが怖い。レイナとジュンはローブを新調し、厚手の物に変わった。更にレイナは手持ち投石器が完成し常用している。気になる2人は戦闘に耐えうる中型のナイフを新調した。ロシェルとエヴィナは知らん。
男の方はと言うと、元デブの2人は盾に金属板を打って補強して、鈍色の鉄が端と十字に鋲付けされている。マッチョ兄弟は貯金中。金属鎧は高いのだ。そして僕は、頼んであったグリーブとヴァンブレスが完成した。お値段は据え置きの10万Uだそうで、もしかしたら足が出ちゃったのかも知れない。今回の分はいずれ作る他の部位も頼む事で補ってもらおうと思う。
どちらの装備も見た目は革装備。金属に革張りする事で多少曲がるようにしてあって、脚と腕に密着する。革張りで目立たなくしたのは、硬そうな部位を狙う馬鹿は居ないから。だって。確かに。
職員用玄関前で付き添いの講師と合流する。するのだが、講師では無かった。
「貴女、事務員ですわよね?」
「ええ。コラリーと申します。本来でしたら3クラスの担任が付く予定だったのですが、逃げまして」
「そう」
あのマッチョ、逃げたのか。逃げたのなら仕方ないな。講師も人だ。死ぬのは怖かろう。
「よろしくね、コラリーさん」
「ああユカタくぅん!魔法職を付き添いにするって冗談じゃ無いわよ~」「はーなーれーろー」
ロシェルに引っ張られても剥がれないコラリーさんは意外と鍛えてるのかも知れない。僕の腰にしがみ付いてる大人の頭を撫でてやる。
「よしよしよしよ~し。みんなでコラリーさんを守るからね~。危なくなったら逃げるからね~。よしよしよ~しよし」
「うう…、妻にしてぇー」
「この。肩から斬り落とすぞ」「首にしてやれ」
「やーん怖ーい」
ロシェルとエヴィナが物騒な事を言い出すので茶番はここまでにしておこう。二の腕に手を添えて立ち上がらせた。
「とにかく行こう。市軍と王都の騎士団も動いてくれてたみたいだし、深く潜らなければ何とかなるよ」
今回の探索では地上部は素通りし、地下に潜る。地下4層までは行って良いそうだ。要するに、市軍と騎士団はその奥に追いやったと言う事になる。相手も相手だし、どこまで押せてるかは疑問だ。
冒険者と学生の列に加わり街道を西へ。途中分岐を南に曲がってダンジョンへ向かった。
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