剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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湯浴みの、時間

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「旦那に傷モンにされちまったし、さ。今すぐじゃなくて良いから、さ」

「アタシもしょっちゅう殺されてっし、傷モンだよ傷モン」

 キズモノってそう言う使い方で良いのだろうか。それに、ロシェルにしょっちゅう殺されてるのは僕の方だ。それはともかく、メイド達はどうなんだ?向かい合わせの椅子に座る2人を見遣る。

「お嬢が、それを望むなら」

「貴族殺りに来る平民なんざ見たの、戦争以来ですぜ」

 僕は一代貴族にされてしまいそうだ。だがこのケンカをして、エヴィナとは腹を割った話が出来るようになった。

 2つ目の村…だった所は、短い間に様変わりしたように見える。兵士が多いのもあるが、しっかりした土壁を建造しているのだ。村にはそんな事出来る余力は無い。きっとこの村は村ではなくなるのだろう。

「ユカタさんも湯浴みしなよ。またアイツに臭ぇって言われっぜ?」

「1つしか無いんだし、僕はタライで良いよ」

「オレは一緒でも良いんだけどな」

「エヴィナ様、当家のお嬢様はよろしくありませんので、ご容赦くださいませ」

 エリザベス様のメイドが口を挟むが、当たり前だよな。ちなみに今まで立ち寄った村々では、彼女達が湯浴みしてる時間、僕はお湯や水を張ったタライとタオル1枚で済ませてた。彼女達の後で僕まで湯浴みしてたら時間が掛かってしまうからだ。

「あ、お湯で水の壁作れば浴びれるな」

「ソレって、火魔法と水魔法の複合魔法か?無理じゃね?」

「私も同じく思います」

「お湯の近くで使うとお湯になるんだよ」

 思い出して出た言葉を信じない人に簡単な説明をしてやるが、2人は半信半疑な様子。エリザベス様のお世話中な水魔法のメイドさんに来てもらう事になった。

「1時間も持ちませんが、よろしいので?」

「1時間も入らないもん。それに水なら水でも構わないし」

 兵士用テントを借りて、タライにホカホカのお湯を用意してもらい、メイドさんに水の壁を唱えてもらう。

「…お湯ですね。だいぶぬるいですが」

「浴場でやると浴槽のお湯と変わらない温度になるんだけど。量か温度が足りなかったみたいだね」

「では、ごゆっくり」

「うん。ありがと」

「…………」

「出てってよ」

「お気になさらず。別邸で経験済みでしょう?」

 気になるので背中向けて装備を外し、服を脱いでぬるま湯の壁に突っ込んだ。ぬるいけど水より良いや。

「後で問い詰められても知らんからね」

「では、背中を向けておりますので」

 退く気は無いか。諦めて体を擦った。

「ユカタ匂い嗅いでよ」

「何だよもう」

 馬車に戻ると馬鹿が馬鹿な事を言って裸足を僕の太ももに乗っけて来た。

「エヴィナ、嘘偽り無く答えてあげなされ」

「嫌だよ蹴飛ばされそうだしさ」

 そう言うと立ち上がり、前の座席を伸ばしてベッドに変えて横になる。そんな風になってたのか。

「靴も魔法で洗ってもらったもん。臭くないって言え!」

「それなら靴で良いだろ」

「それはそれで恥ずかしいじゃん」

 どちらも恥ずかしいと思う。離れた所に脚を伸ばされ踵を頭に乗せられる。コツコツされるのが地味に痛い。

「大人しくしないと馬車変わるからな」

「ぐぬ~」

「しつこいと嫌われるぜ?」

 ロシェルは窘められると両脚で僕の胴体を挟み、脱力した。ちゃんと座って靴を履け馬鹿。



 出発からずっと、敵の出現が無かったのはこの手厚い警護があったからだそうで、メイド達だけでやれると言うのも然りだった。だからと言っておんぶにだっこは出来ない。やるって言っちゃったからな。

「へー。そんならそうって、言えば良いのに」

「ユカタ様のやる気を、買わせて頂きやした」

 ロシェルの問いにメイドは答える。

「オレも今知ったんだけど」

「お嬢にはお話させて頂きやしたぜ?」

「そっか。なら忘れてたぜ」

 まさかとは思うけど、あっちの女子達はおんぶにだっこしてないよな?昼食の時に聞いたらうふふと笑われ、理解した。




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