138 / 297
湯浴みの、時間
しおりを挟む「旦那に傷モンにされちまったし、さ。今すぐじゃなくて良いから、さ」
「アタシもしょっちゅう殺されてっし、傷モンだよ傷モン」
キズモノってそう言う使い方で良いのだろうか。それに、ロシェルにしょっちゅう殺されてるのは僕の方だ。それはともかく、メイド達はどうなんだ?向かい合わせの椅子に座る2人を見遣る。
「お嬢が、それを望むなら」
「貴族殺りに来る平民なんざ見たの、戦争以来ですぜ」
僕は一代貴族にされてしまいそうだ。だがこのケンカをして、エヴィナとは腹を割った話が出来るようになった。
2つ目の村…だった所は、短い間に様変わりしたように見える。兵士が多いのもあるが、しっかりした土壁を建造しているのだ。村にはそんな事出来る余力は無い。きっとこの村は村ではなくなるのだろう。
「ユカタさんも湯浴みしなよ。またアイツに臭ぇって言われっぜ?」
「1つしか無いんだし、僕はタライで良いよ」
「オレは一緒でも良いんだけどな」
「エヴィナ様、当家のお嬢様はよろしくありませんので、ご容赦くださいませ」
エリザベス様のメイドが口を挟むが、当たり前だよな。ちなみに今まで立ち寄った村々では、彼女達が湯浴みしてる時間、僕はお湯や水を張ったタライとタオル1枚で済ませてた。彼女達の後で僕まで湯浴みしてたら時間が掛かってしまうからだ。
「あ、お湯で水の壁作れば浴びれるな」
「ソレって、火魔法と水魔法の複合魔法か?無理じゃね?」
「私も同じく思います」
「お湯の近くで使うとお湯になるんだよ」
思い出して出た言葉を信じない人に簡単な説明をしてやるが、2人は半信半疑な様子。エリザベス様のお世話中な水魔法のメイドさんに来てもらう事になった。
「1時間も持ちませんが、よろしいので?」
「1時間も入らないもん。それに水なら水でも構わないし」
兵士用テントを借りて、タライにホカホカのお湯を用意してもらい、メイドさんに水の壁を唱えてもらう。
「…お湯ですね。だいぶぬるいですが」
「浴場でやると浴槽のお湯と変わらない温度になるんだけど。量か温度が足りなかったみたいだね」
「では、ごゆっくり」
「うん。ありがと」
「…………」
「出てってよ」
「お気になさらず。別邸で経験済みでしょう?」
気になるので背中向けて装備を外し、服を脱いでぬるま湯の壁に突っ込んだ。ぬるいけど水より良いや。
「後で問い詰められても知らんからね」
「では、背中を向けておりますので」
退く気は無いか。諦めて体を擦った。
「ユカタ匂い嗅いでよ」
「何だよもう」
馬車に戻ると馬鹿が馬鹿な事を言って裸足を僕の太ももに乗っけて来た。
「エヴィナ、嘘偽り無く答えてあげなされ」
「嫌だよ蹴飛ばされそうだしさ」
そう言うと立ち上がり、前の座席を伸ばしてベッドに変えて横になる。そんな風になってたのか。
「靴も魔法で洗ってもらったもん。臭くないって言え!」
「それなら靴で良いだろ」
「それはそれで恥ずかしいじゃん」
どちらも恥ずかしいと思う。離れた所に脚を伸ばされ踵を頭に乗せられる。コツコツされるのが地味に痛い。
「大人しくしないと馬車変わるからな」
「ぐぬ~」
「しつこいと嫌われるぜ?」
ロシェルは窘められると両脚で僕の胴体を挟み、脱力した。ちゃんと座って靴を履け馬鹿。
出発からずっと、敵の出現が無かったのはこの手厚い警護があったからだそうで、メイド達だけでやれると言うのも然りだった。だからと言っておんぶにだっこは出来ない。やるって言っちゃったからな。
「へー。そんならそうって、言えば良いのに」
「ユカタ様のやる気を、買わせて頂きやした」
ロシェルの問いにメイドは答える。
「オレも今知ったんだけど」
「お嬢にはお話させて頂きやしたぜ?」
「そっか。なら忘れてたぜ」
まさかとは思うけど、あっちの女子達はおんぶにだっこしてないよな?昼食の時に聞いたらうふふと笑われ、理解した。
20
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
禁忌地(アビス)に追放された僕はスキル【ビルダー】を使って荒野から建国するまでの物語。
黒猫
ファンタジー
青年マギルは18才になり、国王の前に立っていた。
「成人の儀」が執り行われようとしていた。
この国の王家に属する者は必ずこの儀式を受けないといけない…
そう……特別なスキルを覚醒させるために祭壇に登るマギルは女神と出会う。
そして、スキル【ビルダー】を女神から授かると膨大な情報を取り込んだことで気絶してしまった。
王はマギルのスキルが使えないと判断し、処分を下す。
気を失っている間に僕は地位も名誉もそして…家族も失っていた。
追放先は魔性が満ちた【禁忌地】だった。
マギルは世界を巻き込んだ大改革をやり遂げて最高の国を建国するまでの物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる