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働く、筋肉

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 清掃依頼は、集合場所に集まって道具を借りて場所を聞き、現地に向かって掃除をして帰って来ると言うモノで、アッゼニに住む子供や老人の小遣い稼ぎの場でもある。僕みたいに土地勘の無い者にとっては土地勘を養い人望を高める経験を積む場ともなる。子供と老人の中にそびえ立つ筋肉に注目が集まる。

「俺ぁ、場違いだよな」

 筋肉に見合わず不安そうな声で呟く。

「名前が売れるよ。それにお年寄りには娘や孫娘、子供には姉やお母さんがいるかも知れない」

「…仲良く、しねぇとな」

 やる気が出たようで、係員から話を聞くと、荷物を担いでノシノシと歩いて行った。妄想に筋肉が震えているチョロマッチョを追い掛ける。

「何だ?ドブさらいって聞いたがえらく澄んでるじゃねぇか」

「ああ、昨日魔法使いさんが浄化の魔法を使って下さったのさ。今日は底に溜まったのを掘り上げて、西の森に捨てに行くのさ」

 ミルコの拍子抜けした言葉に老人の1人が答える。排水路は定期的に浄化する事で匂いや病気の蔓延を防いでいるんだって。

 裸足になるのは危険なので靴のまま水に入り、借りて来たスコップで水底の泥を掬ってはバケツに流す。老人と子供の何人かはバケツの中身を荷車に移すのを繰り返す。そして荷車に一杯になると、数人掛かりで西の森に捨てに行く流れとなる。

「面倒臭ぇが、臭くねぇだけマシだな。腕に効きやがる」

 ミルコは泥をバケツに入れる役を買って出た。僕は子供達と排水路の幅に列を成し、上流からミルコの所へ泥を送る係となった。ミルコは場所が空いて来ると下流に移動し、子供等と僕は追従する。

「やはり手力たぢからがある人がいると助かるねぇ」「アタシが後10年若かったら口説いちまうよぉ」

 マッチョはお年寄りに受け入れられたようだ。マッチョは後20年とか言ってるが、20年で良いのだろうか。

「兄ちゃんすげぇな!」「俺もムキムキになって兵隊に入るんだ!」

 マッチョは子供達にも受け入れられたようだ。主に男の子にだが。お姉さんかお母さん、紹介してもらえると良いな。

「お兄ちゃん達、早く~」「もうこっち掃き終わっちゃったよ~?」

 僕はと言うと、水路を掃いて細かな泥を下流に流す女子達にせっつかれている。僕等がしっかり泥を押してるからなのだが、女子は暇になると姦しい。男のがなり声よりずっとマシだけどさ。

 僕等の持ち場は昼を少し過ぎて終わった。街の外まではもう少しあるのだけど、ここから先は人や敵の侵入を防ぐため急深になっていて、人の仕事はここまでなんだって。最後の荷運びを終えて集合場所に集まると、仕事をこなした証の割符を貰って解散となる。

「兄さんみたいなお人とならまた仕事がしたいねぇ」「また来ておくれよ?今度は妹も連れて来るからさっ」

「兄ちゃん俺に武器の使い方教えてくれよ!」「俺の兄貴になってくれよ!?な?」

 マッチョは半日掛からず人気者だ。

「こりゃああくまで学園から出てる休み中の依頼だからな。何度もは出来ねぇし、武器振る前に体を鍛えろ。それに弟は1人居りゃあたくさんだ」

 マッチョは安請け合いしない。冒険者はいつ死ぬか分からない商売だから迂闊な約束はしないものだと学園で教わっているのだ。

「母さん達、もう終わったの?」「お爺ちゃん!迎えに来たよー!」

「で、次はいつやるんだ?予定が合えばまたやろうぜ」

 マッチョは安請け合いした。娘や孫娘に良いトコ見せたかったのだろう。子供達を迎えに来たお母さん達の前で子供を担ぎ、筋肉をピクピクさせてアピールしていた。

「依頼、お疲れ様。良い仕事をしたようね」

「ミルコのおかげで仕事が早かったよ」

「そ。良い仕事をする男は嫌いじゃないわ。次も頑張ってね」

「はい!自分、充実した仕事が出来ました!」

「ルイよ。覚えておいて」

「「はいっ」」

 ミルコに釣られて僕まで元気に返事してしまった。





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