119 / 284
1人で、行く
しおりを挟む「え?何だって?」
近くにいるのに声の意味が頭に入って来なかった。キレイな声と言葉なのに、音を聞いてるような感じだ。
「私も、ココに泊まりますの。2度も言わせないでちょうだいな」
「お嬢様の本日の寝所はこの部屋とお定めになりました」
「私共も居りますのでユカタ様も安心してお休み下さい。人払いは済ませましたので湯浴みに参りましょう」
もう何を言っても無駄か。メイドさんはマジックボックスから全員の荷物を出して配り終えると、女子達がお風呂セットを取り出すのを待ち、みんなして浴室に出てってしまった。みんなは何も言わないのか?いや、無理か。権力では無く普通に言い負かされるだろう。
せめてベッドだけでも確保しようと、部屋の隅のベッドに荷物を乗せて装備を外す。ベッドの上に平干ししてるのを避けてまで使おうとは思うまい。着替えとお風呂セットを取り出すと、浴室に向かった。
後から行ったのに先に帰って来る。女性は長湯が多いよな。食堂へ降りて湯上りに1杯引っ掛けて…なんて事はないだろうが、1人は暇なので装備の整備。汚れた表面を擦ったり、拠れた革紐を伸ばしたりして過ごしていると、ノックと共に皆帰って来た。
「ユカタお風呂入ったの?早くね?」
「ロシェルは長湯だったのか。足臭いのキレイにしたか?」
「臭くない!」
ズカズカと寄って来てベッドに飛び込んだ。自分のベッドに飛び込めよ。
「整備中だから離れろ」
「臭くないって言えー」
抱き着いて来るロシェルは良い匂いだ。男は長湯してもこんな匂いにはならないのに不思議だな。柔らかいし無視して整備を続けていたが、頭に柔らかいの押し付けて首に腕を巻き付けて来るのが苦しくて、流石の僕もイラッとした。
「このっ。我慢してるって、言ってんだろっ」
「キャッ」
向かい合わせに抱き着くと、柔らかい物に顔を埋めて押し倒す。柔らかい。誰か布団掛けてくれたらそのまま寝ちゃいそうだ。
「おっばい、ずうど?」
「は、恥ずかしい…かな。みんな見てる、し…あ」
何かを察して体を固めたロシェルが抱き着く圧を高めて僕の頭に頬ずりする。
「ユカタ、頑張ってたもんね。ありがとね」
僕は大した事していない。と言うより出来なかった。ほとんど大人と魔法のおかげで帰って来られたんだ。
「整備する?それとも、寝る?」
「…整備」
「アタシもするね」
そう言って離れてくれた。僕はみんなに向き直る事も出来ず、背を向けて整備を続けた。
翌朝は食事をして宿を引き払うとクリスエス商会に直行し、おじいさんと話をしたり買い物したり、昼食をご馳走になって学園に戻って来た。
「はぁ~~~……」
久しぶりの湯の雨が体から疲れを溶かして流し、薄着一丁でベッドに横になる。自然と息が出た。明日はギルドに行って学生用の依頼を請けたいな。女子達は明日、1日休みだと言うので久々のソロ活動だ。
冒険者ギルドの朝は早い。とは言え学生は朝食とお弁当を確保する必要上、日が上がってからギルドに入る事となる。朝の混み合う時間を避ける事でトラブルを減らし、落ち着いてギルドの仕様を学ぶ事が出来る…と悪い笑顔の講師が言っていた。
「んぁ?あンた学園生よね?依頼受けんの?」
うわぁ…。ムルザバに来た時だってこんなに舐めた態度取られた事は無かったぞ。短い列だったのはこのせいか。
「説明受けろって言われたんだけど、面倒なら他に並び直すよ」
「ンならどっか行きな」
「具体的にどこに並び直せば良い?」
「好きなトコ行けよ、ドチビ」
ドチビは離れた所からだと受付嬢さんが見えないので、カウンターに乗り上げて左右を見渡す。あ、目が合った。逸らした。手を振ってみる。無視か。
「邪魔なんだけど?」
「お姉さんがおすすめした所に行くよ?あの人無視したからそれ抜きで」
「じゃあ、あそこ。さあどいたどいたっ。次の方どうぞ~」
あそこか…。
20
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる