剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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1人で、行く

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「え?何だって?」

 近くにいるのに声の意味が頭に入って来なかった。キレイな声と言葉なのに、音を聞いてるような感じだ。

私もわたくし、ココに泊まりますの。2度も言わせないでちょうだいな」

「お嬢様の本日の寝所はこの部屋とお定めになりました」

「私共も居りますのでユカタ様も安心してお休み下さい。人払いは済ませましたので湯浴みに参りましょう」

 もう何を言っても無駄か。メイドさんはマジックボックスから全員の荷物を出して配り終えると、女子達がお風呂セットを取り出すのを待ち、みんなして浴室に出てってしまった。みんなは何も言わないのか?いや、無理か。権力では無く普通に言い負かされるだろう。

 せめてベッドだけでも確保しようと、部屋の隅のベッドに荷物を乗せて装備を外す。ベッドの上に平干ししてるのを避けてまで使おうとは思うまい。着替えとお風呂セットを取り出すと、浴室に向かった。

 後から行ったのに先に帰って来る。女性は長湯が多いよな。食堂へ降りて湯上りに1杯引っ掛けて…なんて事はないだろうが、1人は暇なので装備の整備。汚れた表面を擦ったり、拠れた革紐を伸ばしたりして過ごしていると、ノックと共に皆帰って来た。

「ユカタお風呂入ったの?早くね?」

「ロシェルは長湯だったのか。足臭いのキレイにしたか?」

「臭くない!」

 ズカズカと寄って来てベッドに飛び込んだ。自分のベッドに飛び込めよ。

「整備中だから離れろ」

「臭くないって言えー」

 抱き着いて来るロシェルは良い匂いだ。男は長湯してもこんな匂いにはならないのに不思議だな。柔らかいし無視して整備を続けていたが、頭に柔らかいの押し付けて首に腕を巻き付けて来るのが苦しくて、流石の僕もイラッとした。

「このっ。我慢してるって、言ってんだろっ」

「キャッ」

 向かい合わせに抱き着くと、柔らかい物に顔を埋めて押し倒す。柔らかい。誰か布団掛けてくれたらそのまま寝ちゃいそうだ。

「おっばい、ずうど?」

「は、恥ずかしい…かな。みんな見てる、し…あ」

 何かを察して体を固めたロシェルが抱き着く圧を高めて僕の頭に頬ずりする。

「ユカタ、頑張ってたもんね。ありがとね」

 僕は大した事していない。と言うより出来なかった。ほとんど大人と魔法のおかげで帰って来られたんだ。

「整備する?それとも、寝る?」

「…整備」

「アタシもするね」

 そう言って離れてくれた。僕はみんなに向き直る事も出来ず、背を向けて整備を続けた。

 翌朝は食事をして宿を引き払うとクリスエス商会に直行し、おじいさんと話をしたり買い物したり、昼食をご馳走になって学園に戻って来た。

「はぁ~~~……」

 久しぶりの湯の雨が体から疲れを溶かして流し、薄着一丁でベッドに横になる。自然と息が出た。明日はギルドに行って学生用の依頼を請けたいな。女子達は明日、1日休みだと言うので久々のソロ活動だ。



 冒険者ギルドの朝は早い。とは言え学生は朝食とお弁当を確保する必要上、日が上がってからギルドに入る事となる。朝の混み合う時間を避ける事でトラブルを減らし、落ち着いてギルドの仕様を学ぶ事が出来る…と悪い笑顔の講師が言っていた。

「んぁ?あンた学園生よね?依頼受けんの?」

 うわぁ…。ムルザバに来た時だってこんなに舐めた態度取られた事は無かったぞ。短い列だったのはこのせいか。

「説明受けろって言われたんだけど、面倒なら他に並び直すよ」

「ンならどっか行きな」

「具体的にどこに並び直せば良い?」

「好きなトコ行けよ、ドチビ」

 ドチビは離れた所からだと受付嬢さんが見えないので、カウンターに乗り上げて左右を見渡す。あ、目が合った。逸らした。手を振ってみる。無視か。

「邪魔なんだけど?」

「お姉さんがおすすめした所に行くよ?あの人無視したからそれ抜きで」

「じゃあ、あそこ。さあどいたどいたっ。次の方どうぞ~」

 あそこか…。




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