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集中と、疲労
しおりを挟む草薮をザワつかせる突風が、ゆっくりと進む火球を追い越しながら火の粉を撒き散らして行く。元々大きい火球は風を受けてさらに勢いを増し、伸びた炎となって伸び放題に茂る草薮を燃料に変えて行った。
「そうですわ。そう。集中。ゆっくり、ゆっくり…」
風音と一緒に聞こえるのはエリザベス様の声か。レイナにアドバイスしながらも、自分の集中を切らさない。
火を着けるのに速さは時に邪魔をする。焦らずしっかり火を着けて、後は種火に仕事をさせれば良いのだ。街道の半分側を火の海に変えて、敵に変化があったようだ。
「お嬢様、周囲の敵は撤退したようです」
「ご苦労さま。移動の支度を」
馭者さんからの索敵結果にエリザベス様は警戒を解かず指示を出す。誰一人焼けずに撤退したのだ。安心出来るハズがない。
「アタシが行くよ」「私も行きます」
ロシェルとマキが街道内にある柵を壊しに行くとメイドさんとジュンが集まって来る。
「お嬢様、レイナ様」
呼ばれても応じない2人は未だ集中の最中。
「そう、通り過ぎて。折り返したら合図と同時に放ちなさい」
「はい…」
魔法操作が不得手なレイナは顔中汗で凄い事になってる。疲れて降ろしそうな両腕を支えるのはエリザベス様だ。メイドさんがハンカチでレイナの汗を拭い、火球が折り返す。
「今」
合図と共に放たれた火球はいつもより速い速度で飛んで行き、小さな悲鳴と共に火柱となった。敵がいたのか。
「長居は無用かと」「そうね、乗り込み次第出発なさい。レイナ嬢の介抱を」
どこかやられたのかと思ったが、魔力操作のし過ぎによる疲労だそうだ。横にしたいだろうから、僕は馭者席にお邪魔して出発してもらった。
「お疲れ様。手綱代わろうか?」
「お優しいですね。下心が透けておりますよ?」
そう言って手綱を変わってくれた。横隊の曳馬なんてやった事ないから気になってたんだよね。街道はそんなに曲がりくねったりはしないが、馬がヨレたりして軌道修正は必要だ。両端の2頭は加減速の幅が大きくなるので負担を掛けさせないように操縦する必要がある。その事を教わりながら休憩地に到着した。
「ここで迎え撃つか。それとも無理をさせて村へ向かうか。皆の意見を述べなさい」
休憩地に着いてすぐに設置されるのはジュンの土の壁。馬車の頭以外が囲われて、さながら屋根のない家のようだ。馬に食料と水を与える時間を使い、エリザベス様はこの後の進退について意見を求めた。
「馬の体調から意見具申申し上げます。出来るだけの休養は必要であると考えます」
「では安全管理から。魔力の残量に不安があります。戦闘は控えるべきでしょう」
馭者さんとメイドさんから意見が上がる。馭者さんは馬に重きを、メイドさんは人に重きを置く発言で、どちらも必要な考えだ。
「敵の動向が気になるよね。だいぶ慎重みたいだし、多分寝込みは外さないと思う。ロシェルはどう思う?」
「え~…、ん~…」
少し唸って出た意見は、なるべく早くここを離れるべき、との意見だった。
「どうしてそう思ったの?」
「なんかさ、狩人か地走りか、それか傭兵みたいなんだよね」
貴族とメイドは傭兵と聞いて緊張する。僕は地走りと聞いてなるほどと感じた。狩人と地走りはどちらも狩人だが、地走りは人との接触を避ける獣臭い人達だ。レイナに撃たれて焼けた奴は狩人。村人に毛の生えた程度の者なのだろう。
「音も気配も匂いもさ、気取られるようなヘマしないもん。アタシ真っ先に殺られちゃうよ」
強い者や統率者を先に潰すのは傭兵によくある事だそうで、地走りにも言える事だ。
「周囲に敵が居ないとなると、他所でまた罠を張っている可能性がありますわね」
エリザベス様の言葉に、なればこそ罠の少ないうちに、敵と罠が固まってるうちに通り過ぎてしまいたいとメイドさんは続けた。
「馬が落ち着いたら出ます」
エリザベス様は決断した。
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