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馬の、危機
しおりを挟む柔らかい。柔らかい?ロシェルは防具脱いだのか?
「ロシェル、装備脱ぐなよ?」
「脱いでな~い」
「じゃあ僕の腕に乗ってる柔らかいのは何だ?」
「わ…私、です…」
ロシェルじゃなかった。布っぽいのはローブだったようだ。
「なら、良いか…」
馭者さんが敵わない敵が出たら僕達が戦わなくてはいけない。そんな時に装備無しで外に出るのは無謀だし、着替えの時間で外にいた誰かが死んでしまうかも知れない。それよりは全然マシなので考える事を止めた。
「皆様、お昼にございます」
メイドさんの言葉と明るくなった車内に体を奮い起こそうとするが、絡み付く柔らかさに腕を持って行かれる。
「ジュン、ご飯だよ」
ロシェルならコレで起きるのだが、ジュンには何が効くのか分からない。
「起きないとおっぱい切り落とすよ?」
ロシェルが怖い事を言う。流石に切り落とされるのは嫌なのか、薄目を開けて口を開く。
「…切ったら、もらってくれる?」
寝惚けておられる。
「くっ付いてるのが好きだから、大事にしてね」
「…好き、なんだ…。起きるね」
誰だってくっ付いてる方が良いに決まってるだろ。どうやって保管したら良いんだよ。寝惚け相手に言っても仕方ないので無言で腕を引き抜いた。
「朝方は恥ずかしい所を見せました。お忘れになられて」
恥ずかしいかは置いといて、そう言われたら忘れてやるのが優しさだ。昼食と休憩を取り、椅子に戻った車内に乗り込むとすぐにその場を離れる。馭者さん曰く、なるべく明るい内にあの不穏な村へ着いておきたいそうだ。出来る事なら村にも行きたくないのだが、馬を替える必要があるので行かない訳にも行かないと言う。
「衛兵には報告してありますが、働くかどうかは予想出来ません」
「捕らえても報酬が出る訳でもありませんから」
盗賊を捕まえたり処分すれば幾許かの報酬は出る。しかし出るのは依頼や懸賞のある盗賊だけで、ましてや子供には支払わえない。馬鹿な子供を死なせないための決まりだと言うが、子供が襲われたら本当に襲われ損である。
馭者さんと馬達の努力もあって、不穏な村に着いたのは夕方。食事を取らず、馬の交換だけしてすぐに離れる予定だ。
「兵士が不在?当家の兵士ですよ?」
「村の危機に快くお立ち上がり下さりました。全く感謝に耐えませぬ」
馭者とメイドが外に出て、村の者と何やら揉めている。
「兵が居ない?馬を替えるのに時間を取られてしまうわね」
「エリザベス様、それだけでは無さそうです」
皆で聞き耳を立てる中、エリザベス様は呟いて、レイナは更に予想を立てる。他に何かあるのか?
「ええ。私、命を狙われているのかしら」
「ど、どう言う…」
思わず口を開いてしまったジュンだが、僕も同じ事を思ってた。
「兵士の方々は…、あまり悪く考えたく無いですが」
マキの発言に皆黙り込む。けど黙ってて事を成す事は出来ない。動かなければ。
「僕馬替えて来るよ」
「ユカタ、危険ですが、出来て?」
「替えるだけならね。ロシェル、頼めるかな?」
「村人殺すの?」
「村人は貴族様を襲わないよ。村焼かれちゃうもん」
「ユカタ君、私も」
「マキは守備。詠唱時間を稼ぐんだ」
「……はい」
「中の指示は任せて。私の魔法じゃ馬が焼けてしまうから」
よろしく頼むと外へ出る。村の者の目付きにこりゃダメだと気付いた。
「馬替えるなら僕出来るよ。とっとと済ませてご飯にしようよ」
「ユカタ様…」「承知しました。貴方方に割く時間はありません。お引取りを」
「チッ、ガキが…」
聞き逃さないぞ?遠巻きで見てる野次馬に警戒を悟られぬよう、外に繋ぎっ放しになってる馬を馬車まで連れて行く。
「ガレちゃってる」
「痩せてる…と言う事でしょうか」
「桶に水お願い。それと、多分走れないから4頭曳きにするよ。連れてかないと売られちゃうかも」
痩せ馬を買ったら軍馬だった、なんてのは戦後よくある話だ。
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