剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる

文字の大きさ
上 下
112 / 297

馬の、危機

しおりを挟む


 柔らかい。柔らかい?ロシェルは防具脱いだのか?

「ロシェル、装備脱ぐなよ?」

「脱いでな~い」

「じゃあ僕の腕に乗ってる柔らかいのは何だ?」

「わ…私、です…」

 ロシェルじゃなかった。布っぽいのはローブだったようだ。

「なら、良いか…」

 馭者さんが敵わない敵が出たら僕達が戦わなくてはいけない。そんな時に装備無しで外に出るのは無謀だし、着替えの時間で外にいた誰かが死んでしまうかも知れない。それよりは全然マシなので考える事を止めた。

「皆様、お昼にございます」

 メイドさんの言葉と明るくなった車内に体を奮い起こそうとするが、絡み付く柔らかさに腕を持って行かれる。

「ジュン、ご飯だよ」

 ロシェルならコレで起きるのだが、ジュンには何が効くのか分からない。

「起きないとおっぱい切り落とすよ?」

 ロシェルが怖い事を言う。流石に切り落とされるのは嫌なのか、薄目を開けて口を開く。

「…切ったら、もらってくれる?」

 寝惚けておられる。

「くっ付いてるのが好きだから、大事にしてね」

「…好き、なんだ…。起きるね」

 誰だってくっ付いてる方が良いに決まってるだろ。どうやって保管したら良いんだよ。寝惚け相手に言っても仕方ないので無言で腕を引き抜いた。

「朝方は恥ずかしい所を見せました。お忘れになられて」

 恥ずかしいかは置いといて、そう言われたら忘れてやるのが優しさだ。昼食と休憩を取り、椅子に戻った車内に乗り込むとすぐにその場を離れる。馭者さん曰く、なるべく明るい内にあの不穏な村へ着いておきたいそうだ。出来る事なら村にも行きたくないのだが、馬を替える必要があるので行かない訳にも行かないと言う。

「衛兵には報告してありますが、働くかどうかは予想出来ません」

「捕らえても報酬が出る訳でもありませんから」

 盗賊を捕まえたり処分すれば幾許かの報酬は出る。しかし出るのは依頼や懸賞のある盗賊だけで、ましてや子供には支払わえない。馬鹿な子供を死なせないための決まりだと言うが、子供が襲われたら本当に襲われ損である。

 馭者さんと馬達の努力もあって、不穏な村に着いたのは夕方。食事を取らず、馬の交換だけしてすぐに離れる予定だ。

「兵士が不在?当家の兵士ですよ?」

「村の危機に快くお立ち上がり下さりました。全く感謝に耐えませぬ」

 馭者とメイドが外に出て、村の者と何やら揉めている。

「兵が居ない?馬を替えるのに時間を取られてしまうわね」

「エリザベス様、それだけでは無さそうです」

 皆で聞き耳を立てる中、エリザベス様は呟いて、レイナは更に予想を立てる。他に何かあるのか?

「ええ。私、わたくし命を狙われているのかしら」

「ど、どう言う…」

 思わず口を開いてしまったジュンだが、僕も同じ事を思ってた。

「兵士の方々は…、あまり悪く考えたく無いですが」

 マキの発言に皆黙り込む。けど黙ってて事を成す事は出来ない。動かなければ。

「僕馬替えて来るよ」

「ユカタ、危険ですが、出来て?」

「替えるだけならね。ロシェル、頼めるかな?」

「村人殺すの?」

「村人は貴族様を襲わないよ。村焼かれちゃうもん」

「ユカタ君、私も」

「マキは守備。詠唱時間を稼ぐんだ」

「……はい」

「中の指示は任せて。私の魔法じゃ馬が焼けてしまうから」

 よろしく頼むと外へ出る。村の者の目付きにこりゃダメだと気付いた。

「馬替えるなら僕出来るよ。とっとと済ませてご飯にしようよ」

「ユカタ様…」「承知しました。貴方方に割く時間はありません。お引取りを」

「チッ、ガキが…」

 聞き逃さないぞ?遠巻きで見てる野次馬に警戒を悟られぬよう、外に繋ぎっ放しになってる馬を馬車まで連れて行く。

「ガレちゃってる」

「痩せてる…と言う事でしょうか」

「桶に水お願い。それと、多分走れないから4頭曳きにするよ。連れてかないと売られちゃうかも」

 痩せ馬を買ったら軍馬だった、なんてのは戦後よくある話だ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

禁忌地(アビス)に追放された僕はスキル【ビルダー】を使って荒野から建国するまでの物語。

黒猫
ファンタジー
青年マギルは18才になり、国王の前に立っていた。 「成人の儀」が執り行われようとしていた。 この国の王家に属する者は必ずこの儀式を受けないといけない… そう……特別なスキルを覚醒させるために祭壇に登るマギルは女神と出会う。 そして、スキル【ビルダー】を女神から授かると膨大な情報を取り込んだことで気絶してしまった。 王はマギルのスキルが使えないと判断し、処分を下す。 気を失っている間に僕は地位も名誉もそして…家族も失っていた。 追放先は魔性が満ちた【禁忌地】だった。 マギルは世界を巻き込んだ大改革をやり遂げて最高の国を建国するまでの物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...