106 / 210
覚悟を、問う
しおりを挟む宿屋に付いて来てくれたメイドさんは、宿屋を開ける鍵であり、僕等の荷物を保管するカバンでもある。マジックボックスから僕とロシェルの荷物を取り出すと、ロシェルは早速オヤツの干し肉を引っ張り出して齧りだす。僕はロシェルの死角を探し、大部屋の端にあるベッドの影に陣取った。
「ロシェル。無防備な姿を晒すのは恥ずかしいんだ」
「んぐんぐ」
「だからこっち見て干し肉食うな。咀嚼音で返事もするなよ」
「んぐ…、アタシの裸見たクセに」
「ほう。その様なご関係で」
メイドさんが興味津々な様子で割り込んで来るが、敢えて無視する。
「ロシェルはその時恥ずかしかったか?」
「んぐ……」
「恥ずかしかったなら察してくれ。僕はまだ女の人とそう言う事、した事無いけど、女性は孕んだら冒険者出来なくなるんだろ?」
「多分、まあ、そう、だけどさぁ」
「しなきゃ良いって思うなら、させないようにして欲しいんだ」
「…だってぇ」
「だって何だ?」
「ユカタ様、お湯が届いた様です」
メイドさんの言葉の通り、すぐにドアがノックされ、女性従業員が湯の入った桶とカゴを持って来た。話は中断。重いだろうから急いで受け取りに行き、死角へ戻った。
「みんな、ユカタとイチャイチャするんだもん…」
「ソレってさ、お前等がベタベタして来るから他の女性もくっ付いて来るんだろ?僕はベタベタしても大丈夫な子だよって思わせてんだ。ロシェルがベッタリしなかったら、レイナ達、特にジュンは勘定教えて~、なんて寄って来なかったんじゃないか?」
「う…」
「ほれアッチ向け。前にも言ったけど、僕だって我慢してんだから」
「ユカタ様、お背中お拭き致します」
話聞いてなかったのか?よくこの流れでそんな事言えたものだな。貴族は風呂に入るのにもお供を付けると言うし、仕事の1つなのだろうけど僕は平民だ。
「したら僕は割符をこの場で捨てて帰るから。みんなとの関係も解消させてもらう。見たきゃ見ろ!拭きたきゃ拭けっ!」
僕は防具を脱いで行く。ロシェルは干し肉を咥えて背中を向けた。メイドさんは頭を下げて僕の死角に向かったようだ。
「稼ぎも無いのに子育てなんて、絶対イヤだよ…」
荷物から乾いた服を出し、体を拭いて服を着る。ただそれだけの事で無駄に疲れた。皮装備はもう少し干しておいた方が良いのでベッドに寝かせておく。
「ユカタ様、お済みでしょうか」
「終わったよ」
「洗い物は宿が洗浄しますので、お預かりしてもよろしいでしょうか?濡れた装備も整備してもらえます」
そのためのカゴだったようだ。とても助かるのでお願いすると、間を置かず従業員がやって来て、汚れ物と桶を運んでくれた。なぜ分かったのか?
「この紐を引くと下に分かるように出来ております」
なるほどな。鳴子の罠を引っ張ってるような物か。
「それではロシェル様、お留守番をよろしくお願いいたします」
「うん…。ユカタァ」
「この宿はお風呂があるんだろ?たっぷり浸かって疲れを落としとけ。良い子にしてたら干し肉買って来てやるから」
「アタシ飼いウォリスじゃないよぉ」
「ウォリスもロシェルも可愛いよ」
愚痴るウォリスを撫でてやり、メイドさんに連れられて部屋を出た。大型のウォリスも立ち上がるとロシェルくらいあるよな。人馴れしたウォリスは抱き着くともふもふして柔らかいんだ。ロシェルも違った意味で柔らかいが。
「はぐれるととても面倒です。貴族街までお手を取らせていただきます」
宿屋を出たメイドさんがそんな事を言って僕の腕に組み付いた。
「柔らかいんだけど、今投げ捨てても良いんだよ?」
「では手を繋いでも?」
妥協させる手口か。僕1人で貴族街に行くと多分だが衛兵詰所に連れて行かれるだろう。妥協せざるを得ない。手を繋いで大通りを歩いた。
10
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる