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覚悟を、問う

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 宿屋に付いて来てくれたメイドさんは、宿屋を開ける鍵であり、僕等の荷物を保管するカバンでもある。マジックボックスから僕とロシェルの荷物を取り出すと、ロシェルは早速オヤツの干し肉を引っ張り出して齧りだす。僕はロシェルの死角を探し、大部屋の端にあるベッドの影に陣取った。

「ロシェル。無防備な姿を晒すのは恥ずかしいんだ」

「んぐんぐ」

「だからこっち見て干し肉食うな。咀嚼音で返事もするなよ」

「んぐ…、アタシの裸見たクセに」

「ほう。その様なご関係で」

 メイドさんが興味津々な様子で割り込んで来るが、敢えて無視する。

「ロシェルはその時恥ずかしかったか?」

「んぐ……」

「恥ずかしかったなら察してくれ。僕はまだ女の人とそう言う事、した事無いけど、女性は孕んだら冒険者出来なくなるんだろ?」

「多分、まあ、そう、だけどさぁ」

「しなきゃ良いって思うなら、させないようにして欲しいんだ」

「…だってぇ」

「だって何だ?」

「ユカタ様、お湯が届いた様です」

 メイドさんの言葉の通り、すぐにドアがノックされ、女性従業員が湯の入った桶とカゴを持って来た。話は中断。重いだろうから急いで受け取りに行き、死角へ戻った。

「みんな、ユカタとイチャイチャするんだもん…」

「ソレってさ、お前等がベタベタして来るから他の女性もくっ付いて来るんだろ?僕はベタベタしても大丈夫な子だよって思わせてんだ。ロシェルがベッタリしなかったら、レイナ達、特にジュンは勘定教えて~、なんて寄って来なかったんじゃないか?」

「う…」

「ほれアッチ向け。前にも言ったけど、僕だって我慢してんだから」

「ユカタ様、お背中お拭き致します」

 話聞いてなかったのか?よくこの流れでそんな事言えたものだな。貴族は風呂に入るのにもお供を付けると言うし、仕事の1つなのだろうけど僕は平民だ。

「したら僕は割符をこの場で捨てて帰るから。みんなとの関係も解消させてもらう。見たきゃ見ろ!拭きたきゃ拭けっ!」

 僕は防具を脱いで行く。ロシェルは干し肉を咥えて背中を向けた。メイドさんは頭を下げて僕の死角に向かったようだ。

「稼ぎも無いのに子育てなんて、絶対イヤだよ…」

 荷物から乾いた服を出し、体を拭いて服を着る。ただそれだけの事で無駄に疲れた。皮装備はもう少し干しておいた方が良いのでベッドに寝かせておく。

「ユカタ様、お済みでしょうか」

「終わったよ」

「洗い物は宿が洗浄しますので、お預かりしてもよろしいでしょうか?濡れた装備も整備してもらえます」

 そのためのカゴだったようだ。とても助かるのでお願いすると、間を置かず従業員がやって来て、汚れ物と桶を運んでくれた。なぜ分かったのか?

「この紐を引くと下に分かるように出来ております」

 なるほどな。鳴子の罠を引っ張ってるような物か。

「それではロシェル様、お留守番をよろしくお願いいたします」

「うん…。ユカタァ」

「この宿はお風呂があるんだろ?たっぷり浸かって疲れを落としとけ。良い子にしてたら干し肉買って来てやるから」

「アタシ飼いウォリスじゃないよぉ」

「ウォリスもロシェルも可愛いよ」

 愚痴るウォリスを撫でてやり、メイドさんに連れられて部屋を出た。大型のウォリスも立ち上がるとロシェルくらいあるよな。人馴れしたウォリスは抱き着くともふもふして柔らかいんだ。ロシェルも違った意味で柔らかいが。

「はぐれるととても面倒です。貴族街までお手を取らせていただきます」

 宿屋を出たメイドさんがそんな事を言って僕の腕に組み付いた。

「柔らかいんだけど、今投げ捨てても良いんだよ?」

「では手を繋いでも?」

 妥協させる手口か。僕1人で貴族街に行くと多分だが衛兵詰所に連れて行かれるだろう。妥協せざるを得ない。手を繋いで大通りを歩いた。






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