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ユカタ、死す

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「きっ!騎竜だ!!」

 昼飯を食べに外へ出て、誰かの声が聞こえると、間を置かず配置に着いていた職員が声を上げて鍛錬場に居た者等を排除する。

「アレが騎竜?デカいね」

「アタシも初めて見たよ。けどそれよりご飯食べちゃお?」

「先行して待つべきでは?」

「食えるだけ口に、入えおう」

「ユ、ユカタ君、はしたないよ…」

「不敬罪は嫌だし、急ぎましょ」

 飯時に来るの方が失礼だよな。しかし貴族は理不尽なモノ。こんな事で首を撥ねられたくは無い。ロシェルに目配せして立ち上がると、モグモグしながら学園長の元へ向かった。

「我が国の宝をよくぞ取り戻してくれた。国王陛下並びに造幣院院長に代わり感謝を伝える」

 玄関前にある石版と同じ物でキレイな姿に戻された王金貨を恭しく手に収め、キレイな箱へと納めた竜騎士が居並ぶ僕達に感謝の意を告げる。僕達は頭を上げず、学園長と竜騎士の話してるのを聞く一方だ。

「して、この子供等が見付けたのだな?」

「うむ。実地訓練として町の外周へ散策に出た時に見付けたと報告を受けている。ブフリムの袋に入っていたそうで、その状況は壁守の衛兵2人が確認している」

「衛兵共はその場で袋の中身を検めなかったのか」

「生徒達の上がりを奪うのを良しとしなかったのであろう。怠慢、なれど優しさでもあるのだろう。咎める事を私は良しと思わぬ」

「…確かに。我等もブフリムの袋の中身を一々集めては居られんからな。横領せず、職務に忠実であったと伝えよう」

 堅苦しい言葉の応酬が終わり、竜騎士はガシャッと敬礼して部屋を出た。音しか聞こえなかったけど。

「もう顔を上げて良いぞ」

「ふえ~」「はしたないよ、ロシェルちゃんっ」

 はしたないロシェルの長い吐息に、学園長も息を吐く。連帯責任の恐怖から開放されたのだ。はしたなくもなるだろうよ。

「それにしても、よく欲に目が眩まなかったモノだ。価値を知らぬだろうが金貨だぞ?」

「さる貴族様に見せてもらった話はしたよね?」

「移動中での話だな?だがそれでもだ。他の者と奪い合いになってもおかしくはなかったハズだ」

「学園長様、私とロシェルも王金貨を目にした事があるのです」

「成程。元とは言えウェストモーア家だな。しかしそちらのロシェルは平民。首が繋がったままなのを鑑みるに、さる貴族は学園生、か?」

「私の友人は見せびらかす様な方ではありませんよ」

「…分かった。詮索はせん」

 しなくても判ってるんだろうなぁ。レイナが友と呼ぶ貴族なんてエリザベス様だけだろうし。



「おのれ小僧!よくも我が孫娘を危険に晒してくれよったなっ!?」

「お爺様っ!止めてっ!」

 7日経ち、休みの2日目。学園にクリスエス商会の会頭こと、ジュンのおじいちゃんが勝ち込んで来た。昨日ジュン達3人衆が祖父の元に遊びに行って、我慢話をしてしまったそうな。事務室に呼ばれて早々に、胸ぐら掴まれ締め上げられた。最愛の孫娘の言葉も届かない程に顔が真っ赤になっている。僕は逆に青くなってると思う。

「うぐぇ…、ざわらぜだい、ようぎ、じだもん」

「人の言葉で話せ小僧っ!」

「離さなきゃ話も出来ないよ!?離しててーっ!」

 ジュンが僕達の間に割り込んで抱き締めて来る。苦しくて、柔らかい。

「お、おおお…、我が孫が、馬の骨なんぞに…」

「離さないとお祖母様に言い付けるからっ!」

 お祖母様と言う言葉でやっと頭に血が回る。僕はジュンに抱き抱えられたまま脱力してしまった。柔らかい…。

 そこへトントンとノックがあり、静かに引き戸を開けて誰か入って来た。

「あら。殿方がはしたなくてよ?ジュン嬢も殿方を奮い立たせるのが淑女の嗜みですわよ?」

「「奮い、立たせる…」」

「いっ、いかんぞっ」「ユカタ君、立って!」

 結局僕は、隣の救護室で回復魔法を受けた。



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