上 下
61 / 250

人を、殺す

しおりを挟む


「ユカタ君、助太刀しますっ」

 そう言って殴り込んで来たのは細剣のマキ。10周終わって休み無しで来たのか息が荒く、剣先をチョンと撥ねられ体を崩していた。

「少し休みなよ」「だよだよ」

「不甲斐なく、思います」

「私もです」「うう…」

 不甲斐ない3人衆が合流したので一度杭から離れる。他の人に順番回してやらないとね。

「ユカタ君の走りっぷりは見事だったな」

「先行した彼、走者の家の方ですよね?」

「押して走ってくれたら…」

 1人不穏な事を言うが、パーティーを置いて行けない状況ではそう言う状況も起こるかも知れない。

「お姫様みたいに抱っこしてもらったら良いかも」

「それは…憧れる、けどっ」

 お姫様を抱っこした事の無い僕でも解る。そんな状況有り得ないと。けどジュンはコッチをチラチラしてる。抱っこなんて赤ちゃんがされるモノだろ?憧れる所あるのか?

「ユカタ、君…。私、重いけど…」

「僕がムキムキになってからなら良いよ?」

「ムキムキは、ちょっと…。スッキリで、お願いします…」

 スッキリって何だよって思ったが、馬車で相席した僧兵2人は確かにスッキリに見えたな。デカくは無いけどギュッと詰まった筋肉してた。なるほど、あの感じか。

 3人衆の息が整い、さあやるぞと思ったが杭が無い。仕方ないね、全員ゴールしちゃったし。叩ける杭が無い生徒達はやる気に満ちた表情でサボってるか、生徒同士武器を打ち合っている。僕等もそうするか。

「怪我しない程度にやるか」「だねー」

 言うが早いか、ロシェルのナイフが腹を刺す。僕は、死んだ。

「良しっ」

「僕死んだから倒れてるね?」

「生きて鍛錬してください。レイナ様はユカタ君と。ロシェルは私とお願いします」

「私、死んでおきます…」

 ジュンは死なずにマキと組み、ロシェルと対峙する事となった。すぐに死んでたけど。

「あの子、後ろに目が付いてるの?」

「感知スキル持ってるって言われても納得だな」

 杖代わりの棒で木剣を打つレイナがロシェルについての感想を述べ、僕もそれに応える。レイナの棒は殴る武器じゃ無いのだけど、安い杖だと殴るのにも使われてるそうで、杖術なんて戦い方もあるそうだ。棒一本で生き延びる術なので、自ら殴りに行くよりは、いなして反撃がメインな戦い方なんだって。確かにコチラから仕掛けて見ても、いなし切れずに受けてる感じが多く、ロシェル並にいなされたら相手は疲れるだろうなと感じる。そして長さのある杖を前に伸ばしての牽制は槍に次ぐ間合いの長さだ。そこから魔法が飛んで来るかも、と思わせると牽制力は剣に及ぶ。

 木剣を杖に押し当て間合いを詰める。胸を突き刺して僕の勝ちだ。

「残念ながら、死にました」「レイナ様、おいたわしや」

 既に死人のマキがよよよと泣き真似をする。よよよなんて泣き方初めて見たぞ。それから生き返ったマキと剣を交えて殺されたり、ジュンの大振りで間合いが詰められなかったりして鍛錬の時間を終えた。

「汗かいちゃったね、ユカタ」

「着替えたいな…。制服でやる授業じゃ無い気がするよ」

 鍛錬の授業は借り物の武器の他に荷物を持っての授業であった。カバンの中のお弁当が心配だし、制服の中は嫌な感じだ。借り物を返却し、生徒達の流れに乗って歩いて行くと、皆が玄関の奥に何枚もある石版を触ってから1階の奥へ向かってく。ロシェル達も触ってるので僕も倣う。

「乾いた!」

「ユカタ君、知らなかったのですか?」

 知らなかったよ。この石版。壁の装飾じゃ無かったようで、洗浄魔法が付与された石版なんだって。触った本体と身に付けている物の汚れとか湿り気を取り去るって、マキに教えられた。寮の玄関にもあったのだけど、もしかして、お風呂で洗濯してたのって、無駄だった?みんな自室を干し物だらけにしてると思ってた…。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

処理中です...