剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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名乗り、名乗られ

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 疲れた頭を休ませて、減らしたお腹を満たすべく、みんなお弁当を広げる。

「ユカタァ、もしかして、今日は1つっきり?」

「自分の食べる以上には取らないよ。ロシェルこそ、食堂の人に多くもらえるか聞いたら良いんだ」

 僕をケチ呼ばわりしたロシェルは自分の弁当を食べ始める。しかし僕だって空気が読めない男じゃ無い。出来れば2つ欲しかったが、弁当入れに『本日1人1つまで』と書かれてしまっていたのだから仕方が無い。その代わり弁当の包みが昨日より大きかった。

「ん…、昨日の余り物だなコレ」

 包みを開けると昨日のアカナスと豆のソースが潰した茹で芋と混ぜられて角パンに挟まれてるのが半分入ってた。それと野菜と肉の挟みパンで2種類。1.5倍増量だ。

「こっちの赤いヤツならくれてやるよ」

「もあう!」

 飲み込んでから話せ。まだ右手に食べ掛けを持ってるのに左手で僕のお弁当に手を出すと、似たような色をした具の挟みパンを交互に食べ始めた。行儀が悪い。僕と3人衆は同じ事考えてるに違いない。

 食後はその場で食休みをして、再び資料室で勘定の勉強。勉強させるのはロシェルだけで、僕達4人はロシェルに解き方を教えながら、互いに問題を作って解きあった。ジュンの作った問題が細か過ぎて1番時間が掛かった。高々勘定の問題に出て来る人物に、設定を盛るのはやめて欲しい。誰だよネコパンチ伯爵夫人って。

「設問と言うより物語ね」

「ジュンは創作がお好きですものね」

「うん…。いずれは冒険譚とか、書いてみたいなーって」

 ネコパンチ伯爵夫人がどう言う冒険をするのか見物みものである。

 午後を過ぎ、ロシェルがダウンしたので本日はお開き。とは言えまだ寮に帰るには早かったので森に戻る。見取り図には演習地と書かれてた。ウロウロしながら植生や野草を見て回る。

 取り敢えず採取はしないが薬草や食べられる野草、実なる木なんかが生えていて、植生はちょっと不自然に感じた。けど色んな場所を想定するならコレはコレでありなのかも知れないな。動物に関しては鳥とネズミの仲間がいっぱい。獲って食う訓練があるから増やしてるのだろうか。それとも逆に無いから増えてるのか?

「見付けましたわ」

 どうやら僕は誰かに見付かったらしい。しかし森の中なので声しか聞こえない。

「隠れた方が良い?」

「そちらの声は届きません。今そこに行きますからお待ちなさい」

 それなら出口に来いと言って欲しいのだが、仕方無い、待つか。その場から離れない程度に散策の続きをしていると、ガサガサと下草を鳴らし、昼前に遭遇した貴族が現れた。

「取り巻きが居ないけど、良いの?」

「居たら話も出来ないでしょう?私はわたくしエリザベス。姓は省きますが、よろし?」

「これはこれはご丁寧に。お名前を頂きありがとうございます。私めはオック村のユカタにございます」

 相手が名乗るなら、こちらも名乗らなければならない。腰を折り深々と頭を下げて、村の大人から口酸っぱく教え込まれた挨拶をする。

「スミヨン辺境伯様のご領地ね。理解したわ。言葉を戻して構いません」

「大丈夫?村焼かれない?」

私にわたくしその様な権利はありませんよ。相応の侮辱を受けたらその限りでも、ですが」

 怖や怖や。

「で、お嬢様が僕に何か用?」

「レイナ嬢へは名前で呼ぶのに」

「お嬢様とは初対面だし、現貴族様だからね」

「…まあ良いでしょう。貴方が気を使っている事は理解しました。戻りが遅いと心配されますので本題を。貴方、レイナ嬢達と仲がよろしいわね?」

「半ば無理矢理なんだけどね。パーティー組んでやるから勘定教えろって」

「出来れば仲良く、なさって欲しいわ」

「それは構わないのだけど、そちら様の取り巻きも何とかしないと」

「分かっております。私のわたくし手が及ばぬばかりに、心苦しく思います」

 お嬢様は、良い貴族のようだ。







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