剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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貴族と、平民

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「ユカタ君、風魔法よ」

「風魔法で声を届けておいでです」

 レイナとマキが口を揃える。5人組の話し掛けて来た子は現貴族のエリザベス様。男爵家の次女で、レイナとも顔見知りだと言う。で、後の4人は取り巻きだと。

 僕は場違いだなと感じた。元貴族はまあ、食べてかなきゃいけないからまだ分かる。貴族様ならココに通わなくても家で剣を振れるのでは無いか?武具の手入れとかも使用人に任せれば良いし、野外活動も従者を付けたら良い訳で、学園に来て学ぶ必要は無いと思った。それに普通は嫁ぐものだろうし。

 けど口には出さない。もちろん顔にも。僕は筆記具をカバンに仕舞うと、皆が片付け終わるのを待って席を離れる。敢えて5人を迂回して。

「貴方達っ、エリザベス様に挨拶も無いとは失礼よ!?」

 取り巻きの1人に声を掛けられ、3人衆はスッと頭を下げたが、ロシェルは分からないようで素通りする。僕は頭を下げないのが決まりだと教わっているので下げない。

「そこの2人!無礼よ!?」

 他の女が寄って来て、僕の前に立ち塞がった。なんで僕なんだろ?

「無礼じゃ無いよ。僕はオック村の出だから、領主様と徴税役、騎士様にしか頭を下げちゃいけないんだ。もっと上の貴族様には会う事無いし、領主様の決めた決まり事を破れないんだよ。村が焼かれるからね」

「うへ、ユカタってヤバいトコ住んでたんだね」

「他の村も似たり寄ったりでしょ。自分の所を治める人以外には頭下げちゃいけないの」

「チビが生意気言うんじゃ無いよ!」

「名乗るのは貴族様からだよ。下の者から挨拶すると首が飛ぶんだぞ?生意気とか関係無いしチビでも無い。それが決まりなんだ。挨拶して欲しかったらお前が許可をもらいにに行けよ。挨拶してやるから」

「きっ、生意気っ」

 ズカズカと足音を立てるような格好で元の場所に戻って行ったが、静音魔法のおかげで静かなもんだ。

「さ、行こうか」

 そう言って場を離れる僕に、3人はすごすごと、1人はポカーンと付いて来る。取り巻き達は何事か言っていたが、貴族様は気にも留めない様子だった。

「あ、後が怖いです…」

 怯えた様子でレイナとマキにくっ付いて泣き言を漏らすジュンだけど、自分達の時はどうだったのさ。聞いたらやっぱりレイナから名乗ったと。当のレイナはお父様に言われて挨拶した、と。

「僕の言った通りだったな。ちなみにアレで挨拶行っても首落ちるから」

「何でよ?」

「何だっけか。外だと身分を隠してるとか何とか」

「ええ。野外で名乗るのは身分をひけらかす行為として、下の者が無礼を働いたと見なされます」

 貴族との挨拶と言えばレイさんは貴族だったけどその場では知らなかったし、苗字を名乗ったレイさんの落ち度だ。元気に旅を続けてるだろうか…。

「私達は面通し済だし、大丈夫よ。ロシェルも…ユカタ君の言う通りなら大丈夫でしょ」

「そうだね。とにかく疲れたしどこかでのんびりしたいよ」「アタシもー」

 のんびり出来て昼食も摂れる場所として連れて来られたのは学舎の奥側にある建屋の更に奥。野外活動の授業に使われる森の中。踏み固められた道を行った先にある小さな湖だ。始め池かと思ったが、流れ込みがあるから湖だ。多分出口もあるハズだ。

「ココ魚いるんだよねー」

「ミズゲルの代わりに飼ってるんでしょ?」

「そなの?」「どうでしょう?」「気にもしてなかったわ」「同じく…」

 この場所は森や湖、草地なんかが人の手で造られてて、歩き回ったり寝泊まりしたりの訓練をするそうだ。魔物が居ないなら熟睡出来そうだな。

 畔の草地に大の字になったロシェルの周りに皆が座るので僕も倣う。水辺だからか湿度があるな。カバンを枕にして横になる。

「ユ、ユカタ君、お弁当が潰れます…。ロシェルも」

 大事な食料を潰してしまう所だったぜ…。潰れてても食べるんだけどな。




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