剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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買い叩いて、懐へ

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「それは絶対にしなければならないの?」

「ギルドとは仲良くして欲しいですねー」

 レイさんは買取り嬢の言葉を聞いて何か思う事があったようだ。僕も面倒だと感じたし、ギルドに出さずに適当な店に売るんで良いと思ってた。

「そ。なら売らないわ。鑑定結果だけ見せてくれる?」

 なのでその選択肢になるのも納得出来た。買取り嬢の、貼り付けたような笑顔が気持ち悪い。相手を下に見る物言いはわざとやっているんだよな。

「良いのですかー?」

「良いわよ?良いわよね?」

「良いんじゃない?」「良いと思うよ」

 レイさんの提案に即答する。商談は終わりだ。しかし買取り嬢は終わりたくない様子。鑑定結果の書かれた紙とペンダントトップを渡そうとしないのだ。

「返したくない程良い物なのね」

「そう言う訳ではぁ。ソッチこそ本当は盗品なんじゃないの?疑わしいわねー」

「今はあンたが盗っ人ね」

「何か面倒臭いねこの人」

「誰か!この3人捕まえて!?盗っ人よ!」

 僕の言葉にカチンと来たみたい。買取り嬢の大声を聞き付けて、他の職員に野次馬冒険者が集まった。

「どうしましたか、騒がしいですよ?皆業務に戻りなさい!」

 部屋の奥から出て来た女性が声を上げ、職員達が道を開ける。僕達を見て、騒いだ女を見て、もう一度僕達に向き直った。

「貴方達、見掛けない顔ね。弁明はある?」

「ユカタ、説明してあげて」

「え?…ブフリムの袋から出たのを鑑定してもらったら落とし主の確認とか言われて面倒になって。町に着いたばかりでお風呂や買い物行きたいから面倒になって返してもらおうとしたんだけど返してくれないんだ。で、泥棒扱いされた」

「はぁ…。貴女、品物を返して鑑定書を渡しなさい」

「え!?だって主任、盗品かも知れないんですよ?」

「貴女、盗品なら盗品らしく、それなりの売り場があるでしょう。わざわざギルドに来て鑑定させる意味は?それに、その品物が盗品として、ギルドがソレを確認する必要無いわよね?そんなつまらい事で騒ぎ立てないで」

 買取り嬢はブツブツと愚痴りながらもレイさんにペンダントトップと鑑定書を差し出した。レイさんは鑑定書を見てふぅんと鼻を鳴らした。

「何でそんなに確認したり買取りしたかったの?」

 僕の問いに、ギルドからは誰も答えてくれなかった。

「もしかして、安く買い叩いて自分のにしようとした?」

「お前っ!」「お止めなさいっ」

「さ、仕舞ったらお風呂と買い物よ」「そうね、行きましょ」

 図星を突かれて怒った女の前に立ち塞がる主任、同時にセーナとレイさんも僕を挟んで引っ張ってく。それから宿屋で部屋を取り、余分な荷物を置いて公共浴場に行き、買い物して宿の部屋に戻って来た。部屋はやっぱり3人部屋で、やっぱり真ん中のベッドだった。僕が端で寝た方が着替えとかしやすいと思うんだけどな。主に僕が。

「ユカタ、さっきの鑑定書、見る?」

「高そうな事書いてあるの?」

「そうね。あの女が固執する程度にはね」

 レイさんが見せてくれた鑑定書をベッドに伸して、文面を改める。セーナも僕の横に座り、前のめりで読み始めた。

「へえ、魔力が枯れてて気付かなかったけど魔道具だったのね」

「オシャレなアクセサリーにしか見えなかったよ」

 セーナの言葉に応えると、人が作った魔道具は意匠を凝らしたりして価格を上げたりするのだそうで、自作の魔道具を見せてくれた。

「確かに、指輪だと輪っかの意匠が全てな感じがするね」

「そ。そのペンダントトップはカメオと台座の間に魔石を仕込んでる感じかしらね。因みにこの指輪はブラウンジェムと銀よ。キレイでしょ?」

「透けてる石なんだね」「色的には土の付与かしら」

 指輪は小さいからレイさんが寄って来る。香油の甘い香りがする。

「着けるだけで発動が楽になるのよ」

 魔法を使えない僕からしたらよく分からない話だったけど、魔法使いの2人には分かる話みたいで、僕のベッドに乗り上げて話に花を咲かせてた。





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