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馬は、無事
しおりを挟む水浸しから少しして水気が引くと、服と体が乾いて行く。さっきまで臭ってたブフリムの血も消えている。臭いはちょっと残ってるけど問題無いレベルに抑えられた。どうなってんだコレ。
「貴方、水魔法が使えるのね」「良いわね、便利じゃない」
「それ程でも」
魔法で水が出るのなら、わざわざ水筒を持って川に汲みに行かなくて済む。とても便利だし今の洗う魔法も凄い。
「とにかく助かったよ。アレじゃ敵の的になっちゃうからね」
「ええ。此方にも被害が及びそうですから」
「違うわ。頑張ったユカタさんへの報酬よ」
水魔法の女性の言葉を貴族っぽい女性が否定する。嬉しい言葉だがそっちの言葉も間違ってないんだよな。水魔法さんはそのまま僕が戦ってた場所とセーナが殺った場所、そして死んだ魔物に同じ魔法を掛けて、匂い消しの足しをしてくれると離れて行った。
「それよりも、困ったわね」「ええ、そうね」
「歩いて向かわなきゃいけないのかしら」
女性3人から声が上がる。村までは何とか歩けるし、下り勾配だから町に戻っても良い。馬車に荷物を置いてないからどちらにも進める。僕は歩けるけど女性達はどうだろう?馬車が戻って来るかなんて分からないし…。
「取り敢えず、休みましょ。あンた少し寝ときなさい。私達はあんな魔法の1発2発じゃへたらないから」
まだ交代には早いけど、セーナの言葉に甘えて寝る事にした。セーナはちゃんとお肉を炙ってくれるだろうか…。
「ユカタ、起きなさい。起きないとレイがイタズラするわよ?」
「何するのさ…」
聞いてみたが、もう1つの寝床から内緒よ、と帰って来た。レイさんも一緒に不寝番をしていたようだ。僕が寝てるとセーナが寝られないので外に出る。お肉の様子は…焦げてないだけまあ良いか。肉の存在に気付いてなかったみたいだ。
その後数回交代して空が白んで来ると、街道をガラガラと鳴らす馬車の音。立ち上がって目を凝らすと、山頂に向かって進んで来る馬車が見えた。帰って来たんだ。
「セーナ、馬車が帰って来たよ」
「喜ばしいわね」「見付かって良かったわ」
見付かって?聞くと、5人組の斥候が1人で探しに行ったんだって。流石だな…。あ、車から降りて走ってテントに戻ってく。あっちも嬉しそうだ。
「お客さん、済まなかった。限界まで我慢するよう躾けちゃいるんだが、限界超えちまったみたいでな」
旅客運搬業の馬は当たり前だが襲われる事も多々ある。ビビって動けなくなったり、勝手に逃げ出しては仕事にならないので出来るだけ我慢するよう調教してあるそうなのだが、一頭がとても高いので、本当に危険な時は逃げるようにしてるんだと。今回は2度も火を見て泣いちゃったみたい。お馬さんは繊細なのだ。
行き帰りでの接敵は無かったそうで、取り敢えずしばらくはゆっくり出来そうだ。炙り肉をパンに挟んでスープで流し込み、撤収すると馬車に乗り込んだ。
ガラガラと音を立て揺れる車内で、斥候は横になって完全に寝ている。車内が満員だったらこうは行かなかっただろうな。つづら折りになった勾配を降りながら、登りよりだいぶ早く山を下ってく。車内は静かで、対面の3人は水魔法さんじゃない方、設営を手伝ってた方の女性だけが起きていて、コッチは僕だけ起きている。寝たかったけど両脇から圧が掛かって、狭っ苦しくて寝られないのだ。
「ふっ」
設営さんが小さく笑う。僕は困った笑顔を返した。
「失礼。甘い言葉でも囁いてみては?恥ずかしくなって離れてくださいますやも」
「う~ん…」
僕は少し考えて、甘い言葉をレイさんの耳元で囁く。
「アカナスに、芽の生えて売れなくなった糖の実の削ったのを掛けて食べるとね、少し苦いけど果物みたいに甘くなるんだよ…」
「ぷっ」「くっ」「んん…」
前と出入口からは笑われて、右隣からは抱き着かれた。
「ふぅ~」
左隣からはため息が漏れる。何故だ?
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