19 / 250
信用は、出来ない
しおりを挟む馬車代の3万ウーラは僕達が払う。2人分で6万ウーラだ。因みにムルザバ~オック間は1万ウーラ。コツコツと貯め込んで来た全財産だった。
「なあ、あんた達、冒険者かい?」
街道を進み出し、衝撃で痛むお尻にカバンを敷いてケアしだす頃、荷車の奥側に座ったおじさんが背嚢に座り直すと同時に口を開いた。
「私商人。コッチのは奉公人よ」
「んだ」
「それっぽい服着てるから勘違いしたよ、すまんね。俺はスコフィールドに居る息子が嫁取りでな。祝いに行くんだ」
「なら10日って所ね」
「詳しいね。商材でも仕入れてるのかい?」
「アソコから来るのは雑貨だけよ?ゲル版もあるって聞いてるけど、買う機会は無いわね」
「へー」
「俺の息子な、スコフィールドで商いをやってるんだ。もし町に寄ったなら見てやってくれ。ハコー商店って言うんだ」
ハコー商店の売り物を聞いたりしていたが、セーナは帰りに寄れたらと言う曖昧な返事でお茶を濁していた。セーナは町でも顔が広い方だと思う。商人の家族でセーナを知らないとなると、つまりは余所者だ。余所者に情報は渡さないと言う事なのだろう。魔法使いに偽装した商人と、雑なエプロンと武器を着けた奉公人。セーナは名乗りもしないおじさんにその情報を与えた。僕は寝た振りをして外を眺める。もう1人の乗客は女性だったが、一言も発しなかった。
夕方になり、街道横に設置された休憩地が今夜の寝床となる。そこで乗客は2つの選択をする事となる。馬車で寝るか、外で寝るかだ。一言も発しなかったが女性の乗客が居ると言う事で、男2人は外で寝る選択を強いられた。
「で、なんであンたがいるのかしら」
「まあまあ、ご相伴に預かろうと思ってね」
「遠慮してちょうだい。私、あンたに施す程持ち合わせが無いの。奉公人、槍で突いてしまいなさい」
「へい」
僕が槍を取り出して構えると、男は素早く逃げて行った。中段構えでは無く上段構えだ。投げる事も視野に入れた構えを取られては離れざるを得ない。
「ふふっ、あンた、冒険者に見えるわよ」
「今夜は不寝番だね…」
「今夜から、よ」
「先が思いやられる」
夕飯は干し掛け野菜のスープで済ませる。これはセーナが作って配膳までしてくれる。働かなくては食べて行けない奉公人の僕は寝床を用意する。セーナも馬車で寝るのかと思ったら、なんか嫌だから固まって過ごそうって。セーナは強いけど、詠唱時間くらいは僕が稼がなきゃならない。だから2人で過ごす事に同意した。
休憩地の外に出て、草や低木を集めて来る。中剣を振り回して低木を切るのだが、剣ナタも買えば良かったと少し後悔した。それでもナタより重い剣なので斜めに剣筋を入れると途中で折れる程度には切れてくれた。
低木と草をたっぷり集めたら僕達の陣地を作る。2人の荷物と体、焚き火のスペースを確保したら少し枝を払った低木をスペースを囲むようにぐるりと刺したら、低木が壁になるよう草を横にして編み込んで行く。ブフリムの背丈くらいの高さにしたらひとまず壁の完成。
次は背嚢を使って寝床を確保する。僕とセーナの背嚢を支え合わせて三角を作り、三角の一方に低木を刺して軽く穴を塞ぐ。その上に刈り取って来た草を乗せる。とにかく乗せる。ちょっとした山になる程草を集めて寝床の完成だ。草の中に入り、背嚢同士の隙間に顔を出して寝るのだ。本当は干し草で作りたいけどとにかく時間が無い。
「まだ終わらないの?」
「寝るだけならコレでも」
「そ。なら食事にしましょ。あンたが言ってた茹で野菜だけど、コレで良かったのかしら」
スープ作ってたんじゃなかったみたい。確かに水は馬車にも積まれているが、あれは基本馬用だし貴重だからな。お椀に盛られた汁少なめスープは、具が少し硬かったが、暖かい食事を取れたので充分だ。そして細く切った干し肉と、数粒の干し果物を背中で隠すように並んで食べた。
20
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~
犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。
塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。
弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。
けれども違ったのだ。
この世の中、強い奴ほど才能がなかった。
これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。
見抜いて、育てる。
育てて、恩を売って、いい暮らしをする。
誰もが知らない才能を見抜け。
そしてこの世界を生き残れ。
なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。
更新不定期
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~
秋鷺 照
ファンタジー
強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる