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10話「昔とは違う」
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△△△
「どうして早くに起こしてくれなかったのー?」
「ごめん。虹雫が疲れてるみたいだったから」
「宮まで来てるなら起こして欲しかったよー!せっかくの食事会なのに……」
「ピザもお前の好きなもの頼んで、今来たところだから」
「んー……準備も終わってるし」
「宅飲みの時は虹雫がいつもやってくれてるんだ。今回はいいだろ」
「……食べたかったサラダもフルーツもあるし……完璧すぎて何か悔しい」
そう小さく呟くと、2人は顔を見合わせて笑っていた。その言葉は本心だが、それでもそんな宮と剣杜の笑顔が見られたのなら、いいなかっと思ってしまう。
剣杜の部屋は宮の部屋とは違いものが多い。
好きなCDや漫画本、ゲームなどが、リビングの大きな棚に並べられ、テレビ台には沢山の写真が並べられている。仕事関係のものもあるが、やはり虹雫と宮、剣杜の3人のものが圧倒的に多かった。いつの間にか撮られたのか、知らない虹雫や宮の隠し撮りまであり、恥ずかしがりながらも嬉しさがふつふつと沸き上がってくる。剣杜は私たち幼馴染みを本当に大切にしてくれているのだと伝わってのだ。
そんな剣杜をちらりを見つめる。
本屋で体調が悪くなった原因。それを彼は気づいただろうか。長い付き合いだ。それに剣杜は過去を知っている。だからこそ、わかってしまったのではないか、と思っていた。そして、それを宮に話したのではないかとも。
2人はいつもと同じように話、食事をしながら楽しそうにしている。そんな姿を見ていると、剣杜は気づかなかったのかもしれない、とも思った。それならば、1番いい事なのだ。
忘れよう。なかったことにしよう。
そう言ってお願いをした本人がいつまでも忘れられないなんて、いけないことなのだから。
気づくと2人には隠れてスマホの三角のストラップを握りしめていた。
「虹雫?どうしたの?」
「え………」
「おまえ、まさか酒飲んだのか?だから、飲まない方がいいって言っただろ?」
「の、飲んでないよ!今日はさすがに止めておいたよ」
考え事をしてしまっていた虹雫は、2人の視線と言葉に気づきハッとした。なるべく、平然な雰囲気で返事をすると、剣杜も宮も笑うだけだったので、ホッとした。
「あ、そうだ。その間、見たいって言ってい本、帰りに俺の家に行って貸そうと思って。新刊も読み終わったから、どっちも貸すよ」
「おー、よかったな。宮の家にいけるな」
「け、剣杜!?」
「え?何の話?」
「宮の家に行きたかったんだと」
「剣杜ー……」
先程ポロリと言ってしまった事柄を、剣杜が口にしてしまったのだ。剣杜を睨みつつも、宮の反応が見れずに恥ずかしくなってしまう。
視線を下に向けたまま、「それは冗談だから、気にしないで……というか………」と口ごもっていると宮は「虹雫」と、いつものように穏やかな口調で虹雫の名前を呼んだ。
「何回も来てくれてる、………あぁ、そういう事か」
「ごめん、直接言えなくて……」
「気にしてたなんて、気づかなくてごめんね」
「宮は謝らなくてもいいの。理由もわかっているし」
「じゃあ、今日行こうか」
「宮、お酒飲んだでしょ?」
「宮は飲んでない。俺だけが寂しく飲んでるんだ」
「明日、仕事があって早くてね。遅くなっても家に帰りたかったから飲んでなかったんだ」
「じゃあ、私もお邪魔するわけには」
「送るつもりだったんだ。いいよ」
宮は虹雫の頭をポンポンと撫でる。
それだけでいつも安心してしまう。自然とストラップを握りしめる手も力が抜けてくる。
「よかったなー」
「もう、剣杜ったら………」
酒の入ったグラスを片手で持ち、ニヤニヤしながらそう言う彼に、虹雫は呆れ、怒りながらも心の中では感謝してしまったのだった。
「はい。これが約束した本ね。返すのはいつでもいいよ。むしろ、虹雫が持っててもいいぐらい」
「ありがとう。でも読み終わったらちゃんと返すよ」
幼馴染同士の食事会が終わった後、宮の車で彼の部屋にやってきた。何度か来た事があるが、目的が泊まる事となるとやはり気持ちが落ち着かない。
宮から本を受け取る時に、指が触れ合うだけで体がびくっと震えてしまう。
本来の恋人同士がどちらかの自宅に行く事の意味とは違うというのに。
「虹雫、先にお風呂入って。さっきつけたかもう沸いてると思うよ」
「あ、ありがとう」
「洋服は俺のを準備しておくよ」
「う、うん……」
「緊張してる?」
「そんな事ないよ」
「……虹雫。わかっていると思うけど」
「お試しの期間は、何もしない、でしょ?」
宮の言葉を先に口にしてしまうと、宮はゆっくりと頷いた後に「そうだよ」と眉を下げながら同意した。やはりそうなのだ、と虹雫も同じような表情をしてしまう。
お試しの期間だというのはわかる。
けれど、彼の気持ちはまだ変わらないのだとわかり、シュンとしてしまう。
「でも一緒には寝よう。昔みたいだね」
「………昔、みたいじゃいやだよ」
「……そうだね。ごめん、違った」
「うん」
「抱きしめて寝るはしてもいい?」
「してほしい……」
虹雫の言葉を聞いて微笑んだ宮は、ゆっくりち虹雫に近づき、前髪に触れた。
そして、優しく髪を指でとかしたと思うと、額に小さなキスを落とした。
「宮………」
「さ、お風呂をどうぞ。待ってるよ」
「うん」
虹雫は、準備をした後に脱衣所まで向かった。
この時に宮は心の中で「我慢だな」と呟いていた事に虹雫は気づくわけはない。
大きなベットで2人でくっついて眠る。
大人になり、宮の事が好きだと自覚してから、彼と一緒に眠るなど想像出来ただろうか。
2人でベットに入り宮に抱きしめられて、彼の胸の中に自分の体が収まる。初めは緊張のあまり体が硬直してしまっていたが、彼が頭を撫でてくれたり、ゆったりとした呼吸と鼓動が聞こえてくると、安心してしまう。
宮は好きな人であり、幼馴染であるんだ、と改めて実感した。
「宮、好きだよ」
彼の寝息が聞こえたと思い、幸せのあまりそんな言葉が自然ともれた。
あまりにも小さい声。それなのに、夜の静けさの中では大きく感じられる。
けれど、宮は起きないだろう。そう思って、自分だけの秘密にしようとした。
が、それは違った。
彼の腕の力が強くなり、グイッ頭を押され顔が彼の胸に密着する。
突然の事に驚き、虹雫は小さく彼の名前を呼んだ。
「俺も、虹雫が好きだよ」
耳元で聞こえる、吐息混じりの声。
大好きな男の人の夜の声。それを聞いて鼓動が早くならないわけがなかった。
虹雫の緊張はすぐにおさまり、安心して眠る事が出来たのだった。
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