34 / 39
32話「嵐の前の幸せ」
しおりを挟む32話「嵐の前の幸せ」
泉は緋色と再会してから、何度となく図書館を訪れては、彼女の姿を探した。
仕事が終わる時間はわかっていたので、その時間に毎日図書館に出向いては、彼女を待った。その図書館の雰囲気も好きだったので、空手の稽古が終わった後、図書館で白碧蒼としての執筆をしている事もあった。
3回目に声を掛けて、ようやく近くのカフェで話しをする事が出来た。ファンタジー小説の好みは昔と変わっていなかったので、緋色と泉はすぐに意気投合した。
好きな事を語る緋色はとても生き生きしており、笑顔がますます輝いて見えた。
その後に連絡先を交換し、すぐにデートに誘った。緋色は今まで恋人がいた事がないと言い、とても緊張した様子だった。「自分も同じです」と伝えると、驚きながらも安心してくれたようだった。
その日のうちに、泉は彼女に告白をした。返事は「まだ出会ったばかりだから」と、首を横に振られてしまった。
けれど、それで諦められるような恋ではないのだ。泉は、その後も何度も何度も彼に想いを伝え続けた。
そして、5回目のデートで泉は、近場のカフェで半日だけ会う約束をしていた。仕事が忙しく、なかなか連絡も出来ず、でも会いたいと思ったので、彼女との予定を入れた。
帰り際に、いつもと同じように告白をした。
「緋色さん。何度も告白してしまって、すみません………。でも、あなたをどうしても諦められないんです。……好きなんです。付き合っていただけませんか?」
帰り道の人気のない公園で、泉は5回目の「好き」を伝えた。
また、申し訳なさそうな顔をして、「すみません」という言葉が返ってくるのだろう。そう思っていたのに、その日の反応は全く違うものだった。
緋色がポロポロと泣き始めたのだ。
泉はギョッとして驚いてしまう。
泣くほど迷惑だったのだろうか。彼女に悪いことをさせてしまった。泉はオロオロしながら、彼女に近づいた。
「ご、ごめんなさい………。泣かせてしまって……」
「ち、違うんです。その、安心したら涙が出てきてしまったんです…………驚かせてすみません。」
緋色は手で涙を拭うと、ニッコリと笑った。
ホッとしながらも、泉は彼女の言葉の意味がまだわからなかった。
「安心……ですか?」
「はい。あの、しばらく連絡が来なくなったので、私が断りすぎたからもう嫌になったのかなって………。」
「………それって………」
緋色は頬を染めながら、恥ずかしそうに泉を見上げる。それだけで、泉の胸はドキッと高まった。
「泉さんとお話しするようになって、毎日楽しみになりました。本の話しをする事を今までほとんどなかったし、あなたはとても優しくしてくれる。けれど、その………今まで付き合ったこともなかったので自分に自信がなくて。断ってしまってました。………けど、泉さんから連絡が来なくなって、後悔したんです。………もっと会いたかったなって。それで気づいたんです。………私はあなたが気になっている、と」
緋色は、照れ笑いを浮かべながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ、泉を見つめた。
泉は、唖然としてしまっていた。
今まで叶う恋だと思っていなかった。年下の自分が彼女に認められるなど思っていなかったのだ。
そして、そんな風に思ってもらっているのも気づかなかった。
「じゃ、じゃあ………俺の恋人になって貰えるんですか?」
「………はい。よろしくお願いいたします」
恐る恐る聞いた言葉に、緋色は小さく頭下げて答えてくれる。
泉はその瞬間、嬉しさがこみ上げてきて、思わず涙が流れそうになった。それを隠すように、緋色は泉の腕を引き、抱き寄せた。
「………あっ……あの………」
「………やっと、やっと俺の彼女になってくれたんですね」
「………はい」
彼女の声が震えて身体に伝わってくる。
抱き寄せている身体が温かく、彼女はこんなにも柔らかくていい香りがして、抱きしめると気持ちよくて幸せになれる存在なのだ、と初めて感じた。
「すごくすごく幸せです。………だから、少しだけ、抱きしめさせてください」
「…………私も嬉しいです。その………だから、しばらくこうして貰いたいです」
こんな可愛い事を言ってくれるのが彼女というものなのだろうか。
いや、緋色が特別なのだろう。
そんな、惚気のような物を感じながら、泉は彼女と恋人になった幸せを噛み締めていた。
それからは、毎日が幸せな日々だった。
仕事帰りに食事に行く事もあれば、休みの日に泉の車で遠出のデートをする事もあった。緋色との時間はとても楽しくて、会えば会うほどに彼女に惹かれていった。
付き合い始めてすぐに、彼女から「暗すぎるところや、時計の音、火は苦手なんです。」と、申し訳なさそうに言われた。もちろん、望から聞いていた事は内緒にしていたが、泉はそれを受け入れつつ、デートの中でそれらを目にしないように細心の注意を払っていた。
そして、望にも彼女と恋人になれたと伝えると、彼はとても喜んでくれた。そして、ある事も教えてくれたのだ。
「実は、緋色が誘拐された後から、彼女にボディガードをつけているんだ。」
「え………」
「もちろん、緋色を誘拐した男が出所した後からだよ。随分、彼女が気になっていたようだから、また事件が起こらないようにと思ってね。」
「いつ出てきたんですか?」
「数年前だ。あの男の会社は潰れたが、まだ金はあるだろうからね。緋色を調べようと思えば調べられる。これからも、ボディガードはつけるつもりだよ。ただ、泉くんも空手をやっているだろう。君とデートの時ぐらいはボディガードは取り止めてもいい」
「そう、ですね………。では、デートの時ぐらいはゆっくりと過ごしてもらいます」
「緋色には知らせてはいないが………ではそうしよう。私に連絡をするのもよくないだろうから、ボディガードの会社の連絡先を教えておこう」
そう言って、泉にその情報を伝えてくれた。2人で過ごして欲しいという彼の配慮だろう。泉は彼に感謝しつつも、気が引き締まる思いだった。
いつ誘拐男が緋色を見つけ出すかわからないのだ。油断出来ない。
だからと言って、ずっと室内でのデートにするわけにもいかない。彼女には、楽しく過ごして笑顔で居て欲しいのだ。
自分が緋色を守るしかない。
そう、心に決めたのだった。
それから、数ヵ月間は何事もなく平和に過ごしていた。
緋色が暮らしていた家にも彼女は来てくれるようになり、そして泊まってくれるようにもなっていた。彼女と同棲をしようとも考え、2階の空き部屋を緋色の部屋にしようかなと伝えると、とても喜んでくれた。ベットも置きたいかと問うと、「喧嘩をしても一緒のベットで寝れば、きっと早く仲直り出来るよね」と言ってくれた。それから、大きなベットを買い2人で眠るようになった。
暗い部屋は嫌いだと言っていたので、彼女が寝る時は間接照明を多めにつけていた。けれど、「泉くんと一緒なら大丈夫な気がする」と言い、最低限の明かりだけでも寝れるようになっていた。
そんな風に彼女も少しずつ克服しながら生活をしていた。
そして、泉は彼女と共に過ごす日々の穏やかさと、温かさ、そして幸せを知ってしまった。
もう決して離れたりなどしない。
そう思っていた。
けれど、運命というのは時に残酷な再会をさせてしまうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。
藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう……。
私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。
そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した……
はずだった。
目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる