24 / 48
23話「不安な傷跡」
しおりを挟む23話「不安な傷跡」
☆☆☆
ガチャッと扉が開く音がした。
花霞はその音を聞くと、すぐに玄関へと向かった。
「おかえりない!」
「あぁ、花霞ちゃん。まだ起きててくれたんだ。ただいま。」
椋は、花霞の体を引き寄せて、短いキスをする。それはいつもの挨拶。少しずつ慣れてきたとはいえ、やはりドキドキするものだった。
「椋さん、ご飯食べてきた?」
「食べてきてないよ。でも、こんな時間だから、少しだけ食べようかな。」
「わかった。温めておくね。………それと………。」
花霞は言いにくそうに、彼が持っている紙袋を見つめた。それを見て、椋はクスクスと笑った。
「これを楽しみに待っててくれたんだよね。はい、どうぞ。」
「ありがとう!椋さん。」
花霞は満面の笑みでそれを受け取り、パタパタとスリッパの音を鳴らして小走りでリビングへと向かった。
ソファに座り、その袋から小さな箱を2つ取り出した。これは、花霞がずっと待ちに待っていたもので、今日椋が持ってきてくれると連絡が来てからずっと楽しみにしていたのだ。
箱の蓋をゆっくりと開ける。
そこには、新品のようにキラキラと輝くダイヤが多数埋め込まれている結婚指輪があった。
「わぁー………とっても綺麗になってる!新品みたい!傷も泥もない!」
「あぁ……よかったね。無事に綺麗になって。」
「うん。椋さん、ありがとう。」
「はい。つけてあげる。」
そう言うと、椋は綺麗に磨かれた指輪を手に取り、花霞に左手の薬指にはめてくれた。
何度されても、男の人に指輪をつけてもらうのは緊張するな、と花霞は思ってしまった。
「やっぱり、つけてると落ち着く。」
「そうよかった。じゃあ、俺も着けようかな。」
「うん。」
花霞は、自分のネックレスを外し、彼の、結婚指輪を渡した。
久しぶりに2人揃って指輪をしているのが、嬉しくてお互いに微笑んでしまった。
こんな些細な事が幸せだなと思ってしまうのが、結婚なのだと花霞は思うようになった。
そんな事を考えつつ、one sinの袋を見ているとフッと気づくことがあった。その袋の中には箱が2つも入っていたのだ。
結婚指輪だから2つなのかと思っていたけれど、よく考えれば椋の指輪は花霞が持っておりクリーニングして貰っていないのだ。
「あの………もう1つの箱って、何が入ってるの?」
「あぁ、そうだった。それも花霞ちゃんのだよ。というか、俺が勝手に欲しくて、君にお願いしたい事があるんだけどね。」
「え?それはどういう事?」
「まぁ、いいから。取り敢えず、開けてみてよ。」
花霞はよくわからないかったけれど、彼がプレゼントをくれるという事だろうか?そんな風に考え、箱を取り出した。
蓋をゆっくりとあけると、そこにはシルバーの小さなリングが入っていた。中央にはスクエアの赤い宝石がキラキラと輝いている。そして、花霞はすぐに気づいた。
そのデザインは、彼の首元に光る花霞のピンキーリングと似ていたのだ。
「これ、私の指輪に似てる………。」
「うん。俺も見たときにビックリしたんだ。俺、この花霞ちゃんの指輪、気に入っちゃって。もしよかったら、その指輪をプレゼントするから、これそのまま貰ってもいいかな?」
「え………。でも、それただ雑貨屋さんで買った安いものだし………。それに、これone sinの高価なものだし。こっちを椋さん使った方が………。」
「俺が欲しいのは、この花霞ちゃんが使ってた指輪だよ。俺が交換して欲しいんだから、ね。」
「………じゃあ…………。」
「やった!じゃあ、これは俺にくれるんだね。嬉しいなぁ。」
椋は嬉しそうに笑いながら、指で指輪に触れてニッコリと笑った。
彼が、そんなにも喜んでくれるならプレゼントしてよかったなと思ってしまう。自分の手の中にはまたしても高価な指輪がある。
本当に貰ってもいいのだろうか、と悩みながらも、満面の笑みの彼を見ていると断るのも忍びなくてありがたく受けとる事にしたのだった。
「あ…………椋さん。怪我してる?」
「え………。」
「ほら、この右手の指のところ………。」
「あぁ、これ………。」
花霞が気づいたのは、椋の右指が全体的に赤くなっているのだ。所々内出血なのか、青っぽくもなっている。
花霞はすぐに立ち上がり、「早く冷やさなきゃ!」と冷蔵庫から氷を取り出して、ビニールに入れて彼の右手に氷を当てた。
「…………こんな痛そうになってるなんて。……………椋さん、どうしたの?」
「大事だよ。こんなの怪我の内に入らない。」
「でも………。」
「これは、俺がやりたくてやった事だから。」
「仕事で?」
「………違うよ。………花霞ちゃんは心配しなくて大丈夫だから。」
「……………うん。」
椋は、この傷の事を聞かれたくないのが花霞には伝わってきたので、その話しをするのを止めた。
彼はどんな事をしてこうなったのかはわからない。けれど、これと似たような傷を花霞は見たことがあった。
それは、少し昔の話。
花霞と玲が恋人だったとき。玲を怒らせてしまった時に彼が思いきり壁を殴ったのだ。
花霞は驚き、怖くて震えてしまった。その後、彼の手を見ると指の関節の部分を中心に赤く腫れていたのだ。
それと、今の椋と全く同じ傷のように見えたのだった。
「あれ?香り変えたの?」
「あ………気づいてくれたんだ。」
まだ、椋の不眠は治ることはなかったけれど、花霞は食事やアロマなどを続けていた。食事は椋が作ってくれるので、不眠に効くといわれる食材を彼に教えて、どれかを入れてもらったり、ピーナッツなどを2人でつまむようにしていた。
そして、花霞は彼のためにアロマを始めてからすっかりハマッてしまった。
お店の人に聞いたりしながら、不眠に効くものを教えてもらったり、自分の好みの香りを探したりしていた。
「これは白檀、サンダルウットの香りで、体の不調や不眠にもいいんだって。私、この香りが気に入ってて…………。それに………。」
「それに?」
「椋さんの名前も、木の名前でしょ?何か似てる気がしていて。」
「………なるほどね。確かにそうだね。…………俺も好きだな、この香り。なんだか、安心する。」
「本当?よかった。」
花霞は、この香りが選んでよかったと思った。白檀の香りがする部屋で、大きく息を吸い込んだ。清涼感がありながらも、どこか神秘的で少し甘い香りが、体をリラックスさせてくれる。そんな気がした。
「ん………何だか、今日はそのまま寝れるかも。………どうも疲れたんだ。」
「そうなの?」
「うん………。」
椋は小さく息を吐くと、ベットの中でゆっくりと目を瞑っていた。その様子を見て、花霞は少し嬉しくなりながらも、心配なって彼の手を見つめた。
赤くなった右手。
彼は一体何をしてきたのだろうか。
それが気になってしまうのだ。
「花霞ちゃん?寝よう…………?」
「あ、うん。電気消すね。」
花霞は部屋の電気を消して、ベットに入る。
すると、椋が優しく花霞を抱きしめくれた。そして、「おやすみ。」とキスをしてくれる。花霞も「おやすみなさい。」と返事をし、ゆっくりと目を瞑る。
その日の花霞はなかなか眠れずに、椋が少し寝てから起きる頃にようやく寝つけたのだった。
0
お気に入りに追加
1,010
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる