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11話「驚きの誕生日」

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   11話「驚きの誕生日」





 椋から「好き」と告白された日はなかなか寝つけなかった。
 結婚しているのに告白というのもおかしな話だが、それでも「好き」という気持ちを伝えてくれたのだから、告白になるのだろう。


 彼から好きだと言われ、全部が欲しいと伝えられた時、花霞はとても嬉しいと思った。
 椋が、幸せな時間と悲しみを消してくれて、一緒にいる事が心地いいと思わせてくれた。自分から彼にもっと近づきたいと願う事も多かった。
 それなのに、何故かすぐに彼に返事を伝えることが出来なかった。

 それを考えている内に、寝れなくなったのだ。そんな花霞を椋は心配してか、遅くまで傍に居てくれた。「寝れない?」と、小さな声で言われ頷くと、椋はいろいろな話をしてくれた。


 「小さな頃から警察に憧れていたんだ。誰かのヒーローになりたい。誰かを守りたいって思ったんだ。」

 と、幼い頃の夢を叶えたと、椋は教えてくれた。小さい頃の彼はやんちゃで椋は「悪餓鬼だったよ。」と、笑った。けれど、いたずらをしていた椋に「カッコ悪い。」と言い続けない友達が居たという。


 「俺より年下の癖に、カッコ悪いカッコ悪いって言われるんだ。すごーく悔しくて、その友達もいじるようになったんだけど、そいつは何をしても泣かないし、「カッコ悪い」ってしか言わなくて。」
 「………すごい子だね。」
 「あぁ。まぁ、変わってたよな。俺がある日「何がカッコ悪いんだ!俺は強いんだぞ。」って言ったんだ。そしたら、あいつ何て言ったと思う?」
 「………いじめてるから?」


 花霞が答えると、椋は首を横に振った。そして、嬉しそうに微笑みながら言った。


 「強いのにいじめてるからカッコ悪い。強くて頭もいいのにカッコ悪い事してるから、カッコ悪すぎるんだ!って……。」


 椋は思い出しながら、クククッと楽しそうに笑った。彼にとってこの過去はとても大切なのだと花霞に伝わってきた。


 「バカみたいだろ?言ってる言葉もむちゃくちゃで、年下が言う負け惜しみだったかもしれない。けど、そいつは本気の表情で。………俺も、その時にハッとしたんだ。本当にカッコ悪いなって………。ヒーローもののアニメでも強い悪者もかっこよく見えるけど、本当はかっこよくないなって思ったんだ。単純だろ?」


 それから、椋は本当に強くなりたいし、ヒーローになりたいと思ったと教えてくれた。そしたらその年下の友達に「警察官が1番かっこいいよ。」と、言われたというのだ。


 「それからだよ。単純な少年が警察官を目指したのは。そいつがいなかったら、俺は警察になってなかった。」
 「そうなんだ。………じゃあ、その人に感謝しなきゃね。」
 「あぁ…………。そうだな。」


 彼の昔話を初めて聞いた花霞は、とてもほのぼのとした気持ちになった。
 椋は自分の事をあまり話そうとしないため、こうやって彼の事を知れたのが、花霞は嬉しかった。


 「目がとろんとしてきたな。………眠くなってきたか?」
 「うん………。」
 「………はぁー………今の顔を見て、我慢できる俺もすごいよな。」
 「ん………?」


 彼の呟きは、うとうとしてしまった花霞の耳には届かなかった。椋は苦笑しながら、花霞の頬に唇を落とした。そして、「おやすみ。」と頭を撫でてくれたのだった。
 

 日付が変わる前に寝てしまった花霞を見つめながら、椋は「誕生日おめでとう。」と、彼女に1番早くお祝いの言葉を届けた。







 朝1番に、椋が花霞を起こしそして、おはようの変わりに「誕生日おめでとう。」と、まずは言葉で祝福された。
 起きてすぐにお祝いされたことなどなかっま花霞は感動して涙が出そうになってしまった。

 そして、起きてすぐに花が綺麗に飾られたリビングで椋がいつもより豪華な朝食をご馳走してくれた。
 パンや果物にスープなどがテーブルに並んでいる。朝日を浴びてキラキラと光る、花や食器、そして食べ物を花霞はじっと見つめていたくなった。


 「椋さん、ありがとう!こんな素敵なプレゼントを貰えるなんて………とっても嬉しい!」
 「花霞ちゃん。今日は始まったばかりだよ。もっと笑顔にしてあげる予定だから。早くご飯を食べて出掛けよう?」
 「………うん!」


 花霞は、今日という日がどんな1日になるのか。こんなにもワクワクした朝は久しぶりだなと、朝からテンションが上がっていた。


 デートだから、とお化粧をして髪をセットして……と、準備をするつもりだったけれど、椋は、「今日はそのままでいいよ。楽な格好にしよう。」と、花霞の持っているゆったりとしたワンピースと厚手のニットカーデを指定して、それに着替えただけで、そのまま花霞を車に乗せた。

 予想外の出来事に、花霞は驚きを隠せなかった。


 「椋さん、どこに行くの?」
 「んーキラキラしてる所かな。」
 「キラキラ?」
 「まぁ、着いた時のお楽しみ。」


 ニコニコしながらハンドルを握る彼はとても楽しそうだった。
 花霞は行く先の事がまったく予想できず、こんな軽装に素っぴんでいいのだろうか?と、不安を感じてしまったのだった。


 そして、ドキドキしながら車に揺られる事、数十分。大きなホテルに着いた。そこは高級ホテルとして有名な場所で、部屋が豪華だと言う話や、レストランの夜景が綺麗だとか、食事が美味しいなどの話は聞いたことがあった。
 けれど、花霞には全く縁がないところで、敷居が高すぎる場所だった。

 ホテルの駐車場に車を停め、椋は花霞の手を引いて、当たり前のようにホテルに入ろうとするのを、花霞は慌てて止めた。


 「待って!」
 「ん?どうしたの?」
 「…………今からここのホテルに行くの?」
 「うん。もちろん、そうだけど…………。」
 「私、綺麗にしてきてないし、服だって……場違いすぎるよ。」
 

 花霞は不安そうに彼に帰ろうと訴えるが、椋はキョトンとした顔を見せた後、クククッと笑った。


 「何で笑うのー………。」
 「いや、可愛いなぁーと思って。」
 「可愛くないですよ!」
 「いや、俺は素っぴんの方が可愛いと思ってるよ。」
 「っっ!!」


 抗議しているはずが、何故か褒められてしまい、花霞はついドキッとしてしまう。
 頬が赤くなったのを見て、椋は嬉しそうに微笑み、今度は優しく言葉を紡いだ。


 「ほら、俺もラフな格好でしょ?」


 確かに、椋もダボッとした長袖に細身のズボンという、正装とはいえないものだった。


 「だけど……。」
 「さ、行くよ!」
 「待ってくださいーっっ!」


 椋に手を引かれて、花霞はずるずると手を引かれるように歩いて行った。
 花霞は観念しながらも、ホテルを見上げて、不安をつのらせていた。


 
 そして、ドキドキしながらホテルの中を案内され、椋の後ろを着いて歩く。
 すると、ホテルの中にあるお店に連れて来られた。


 「お待ちしておりました、鑑様。」
 「今日はよろしくお願いいたします。」
 「はい。それでは、鑑花霞様、こちらへどうぞ。」
 「え?」
 「じゃあ、花霞。後でね。」
 「え、ちょっと………椋さん?」
 「妻をよろしくお願い致します。綺麗にしてあげてください。」

 
 そういうと、椋は手を振って花霞を見送った。
 花霞は「え、まだ教えてくれないんですかー?」と椋に訴えるが、またしても椋は笑顔で手を振っているだけで、花霞はスタッフに手を引かれて店の奥へと連れていかれるのだった。


 その後は、スタッフにされるがままだった。
 服を脱がされ、そのままふかふかのベットに寝かされて、香りのいいオイルで全身をマッサージされたり、顔も念入りほぐされていく。
 それが終わったら、髪を綺麗にセットされ、メイクを施される。


 あれよあれよという間に、花霞は自分でも驚くぐらいに変身をしていた。


 「………これ………私じゃないみたい。」

 
 花霞は、鏡に映る自分の顔に驚き何度も見てしまう。
 華やかになった自分の姿を見て、花霞はつい笑顔になってしまう。


 「花霞様、旦那様がお待ちですので、お着替えをしましょうか。」
 「着替えですか?」
 「えぇ。こちらになります。」
 

 そこから案内された場所。
 そのドアを開けられた、瞬間。花霞は言葉が出なくなるぐらいに驚き、そして胸が熱くなった。

 そこには、沢山のウエディングドレスが並んでいたのだった。



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