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11話「突然の告白」
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自分の部屋に戻ると、翠は泣いていた。
色と一緒の時は、我慢もしていたし、彼が優しくしてくれていた。フラれた相手に慰められるというのも変な話だけれど、色と一緒にいると安心出来た。
だか、家に帰ると今日の出来事が一気に頭の中をよぎった。
色に怒鳴られたり、押し倒された事、告白して断られた事。それでも、変わらなく優しい色の事。
でも、頭の中に強く残っているのは、キラキラとした初めてみる色の顔だった。それはとても綺麗で、かっこよくて、そして、素の冷泉色だった。
いつもは、クールで少しだけ怖いイメージがあった。だが、仕事の時は紳士的な人だった。けれど、あの輝いた笑顔はとても幼く、寝ているときの色に似ていた。
自分には向けられない笑顔だと翠は知ってしまったのだ。
それが悔しくて切なくて、翠は色にもらったギリシャの写真集を抱き締めてながら、ベッドで涙が枯れるまで泣いた。
次の日は、仕事があり腫れた目はとても目立ってしまっていた。寝る前は冷やしたが、それだけではダメだったようだ。伊達眼鏡をして誤魔化し、スタッフのみんなには「映画で感動して号泣しちゃって。」と嘘をついた。
けれども、岡崎には気づかれたようで、お店がオープンして来客が少ない時に呼び出されてしまった。
「一葉さん。大丈夫ですか?冷泉様と何かありましたか?」
「え?」
「どうかしましたか?」
「いえ、てっきり怒られるのかと思っていたので………。」
高級ブランドショップの店員としての身だしなみは、とても厳しい。メイクや髪型なども指導が入る事が多いのだ。そのため、泣き腫らした目で働くのも怒られてしまうと思っていた。自己責任であるし、実際に見ていて気になる方が多いのか、お客さまにも「大丈夫?病院は行ったの?」と心配されてしまい、翠は反省していた所だった。
「スタッフだって人間ですし、私生活がありますから。泣きたくなるような事だって、あるでしょう。……そんな事で怒るほど、私は怖いイメージなんでしょうか?」
「いえ!そんなことはありません!私自身が気にしていたので。すみません。」
焦って早口で言うと、岡崎は静かに笑った。彼が自分をリラックスさせようと冗談を言ったというのは、すぐにわかった。岡崎らしい配慮だなと、翠は嬉しくなった。
「気にしてませんよ。それで、冷泉様と何かありましたか?」
「それは………。」
翠はどう説明していいのかわからなくなり、少し戸惑ってしまった。告白してフラれたという話はしなくていいと思いつつも、それ以外でどう説明すればわかってくれるのかと、考え込んでしまったのだ。
すると、困った顔を見せた後に岡崎が「もしかして。」と、話しを続けてくれた。
「もしかして、失恋しましたか?」
「………え、えぇ!!なんで、わかったんですか?!」
「やはりそうでしたか。」
翠の反応で、納得した様子の岡崎を見て、「また自分で話してしまった!」と、手で口を抑えたが、それは後の祭りだった。
「一葉さんが、冷泉様に好意をもっていたのは気づいていたので。いつも、可愛らしい格好をしてお会いしてましたよね?」
「それは、料亭に行くからで!」
「スタッフの間では、綺麗になったと話題でしたし、この間もお客様に連絡先を聞かれていましたよね。恋をすると綺麗になるといいますし。」
岡崎の言う通り、最近何人かのお客様に連絡先をを聞かれたり、食事に誘われる事があったのだ。昔からスタッフに対して、そういう誘いがあることは多かったし、翠も何回かはあった。だか、最近は頻度が多かったのだ。
VIPルームで二人きりになった時に迫られた時は、とても驚き怖い思いもした。その時に物音を聞いて駆けつけてくれたのが、岡崎だった。
それから、心配して接客中も気にして見てくれていたのだ。
「ーっっ!!……岡崎さん、それ以上は恥ずかしいので、止めてくださいー!」
「すみません。…では、話してくれますか?」
「………わかりました。」
岡崎はたどたどしく話す、色の話を頷きながら真剣に聞いてくれた。信頼できる上司であり、唯一職場で冷泉様とのことを知り、応援してくれた人だ。 誰にも相談せずに悩んでいた事でもあったので、岡崎が話しを聞いてくれたことで、翠は心が少し落ち着いてきていた。
「なるほど。そんなことがあったのですね。」
「はい………。」
簡単にだが、色との出来事を話すと、岡崎は真剣な表情から一転、にっこりとした微笑みで翠を見て問い掛けた。
「ですが、もう大丈夫なのですね?」
「………え?」
「家庭教師は最後まで続けると決めたんですよね?」
「はい。冷泉様にギリシャへ出店するお手伝いをしたいですし。……でも1番の理由は、私が冷泉様に会いたいからなんですけどね。」
上司に自分の好きな人や何があったのか、そして失恋してしまったことを話すのが、妙に照れくさくて、翠は顔を赤くしてしまう。
それを微笑ましそうに岡崎は見守っていた。
「一葉さんなら大丈夫でしょう。しっかり者で、可愛いのですから。」
「可愛いって、そんなことないですよ!」
「そうなんですか?」
「はい!…………岡崎店長に聞いてもらってよかったです。なんか、ホッとしました。」
「それはよかったです。」
「なんか、お兄さんみたいですね。」
そんなことを言うと、岡崎は驚いた顔をした後に苦笑いを浮かべた。
「これでも、私は冷泉様と歳はあまり変わらないのですよ?」
色は31歳で、岡崎は37歳だ。大人の6歳はあまり変わらないのかもしれないが、やはり色の方が感情を表に出しやすい性格の分、幼く見えてしまう。
と言っても、翠は28歳なので2人とも十分すぎるほど大人の男性だ。
「年上の男性が好きならば、私もいますよ。」
「………え?」
予想もしない言葉に、翠は驚き固まってしまう。
そんな様子を見てか、いつものようににっこりと笑いながら、立ち尽くす翠にゆっくりと近づいた。
すれ違い際に、触れるか触れないか優しい感触で、岡崎の手が肩に乗ったのがわかった。
「失恋して弱っている相手につけこむような事はしませんが……私は、泣かせない自信がありますよ。」
そう耳元で囁く岡崎の声は、今まで聞いたことがないぐらいに艶があり、翠はドキリと胸が鳴り体が震えそうになった。
真っ赤になる顔も隠さないまま、すぐ隣にいる岡崎を見つめると、色気のある男の表情に見えたが、すぐにいつもの爽やかな笑顔に戻っていた。
そして、颯爽と部屋を出ていこうとする岡崎さんに、翠は咄嗟に声を掛けた。
「岡崎店員は、ご結婚されてますよね………?」
「話してませんでしたか?最近、離婚しましたよ。……では、あなたは落ち着いてからお店へ出てくださいね。その顔では、また何か言われてしまいますから、ね。翠さん?」
いつもとは違う呼び方で翠を呼び、嬉しそうに笑う岡崎を、翠は唖然とした顔で見送り、その後にその場に座り込んで、しばらく動けなくなっていた。
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