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13話「初恋の始まり」
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吹雪と周は、ソファでふたりで座っていた。寄り添うぐらい近くに座る2人はどちらともなく手を繋いでいた。
これは甘えなのか、それとも素直に「手を繋ぎたい」と思っただけなのかはわからない。けれど、彼もそれを嫌がっていないのが、繋いだ手越しに伝わってくる。彼の優しいぬくもりがとても心地よくて、吹雪は自然と口を開いていた。
横に並ぶというのは、安心する。
同じ視線で同じものを見ていると、人は安心するそうだ。お互いに向かい合って座ると、視線を感じ合い緊張してしまうのもあるのだろう。彼はそれをわかっているのか、自然とやっているのかはわからない。たぶん、後者だろう。
彼のぬくもりが「大丈夫だよ」と言っているのを感じ、吹雪は昔の事を頭に浮かべながら話しを始めた。
☆★☆
吹雪は、どちらかというと大人しい性格の学生だった。
けれど、他人の目を気にしてしまう部分があり、なるべくは友達と合わせるようにしていた。それに、クラスで何か決まらない事があれば、どんなに嫌な役割でも率先してやるようにしていた。そうしないと、自分は役に立たない人だと思われるのが怖かった。
人に嫌われるのが怖かったのだ。
吹雪の友達が、他の友人や先生、彼氏などの悪口を話し始めると心がギュッとしめつけられる思いがした。
自分もこのような事を言われているのだろうか。そう思うと、不安で仕方がなかった。
だからこそ、人の目をや口を気にして、穏便に過ごそうと、普通になろうと必死になりながら学生生活を過ごしていた。
けれど、吹雪は本が大好きで、中学高校の頃はいろいろな世界を見せてくれる小説にハマっていった。本当ならば休み時間も読みたいぐらいだったが、それを我慢して友人との付き合いを優先していた。けれど部活は文芸部に入り、ひたすら本を読み続けた。読んだ本の感想を記録するぐらいの部活だったので、自宅や図書館なので放課後を過ごしていた。
そんな吹雪を近所に住んでいる幼馴染みである桜堂星は「本当に本が好きだねー」と笑っていた。記憶がある頃から彼の一緒に過ごしていた相手。中学も高校も同じだったので、登校する時は一緒だった。彼はサッカー部に入部しており、中学高校と司令塔として活躍していた。顔も整っており、気さくな性格から男女からも人気だった。吹雪とは違う、本当の人気者。クラスのリーダーに相応しい人だった。
だからこそ、クラス委員を2人でやる事が多くなっていた。幼馴染みという事もあってか、吹雪には優しく、そして女の子扱いもしてくれる優しい幼馴染みだった。
「これ、おまえの好きな作家の本だろ?本屋で新刊出てたぞ。しかも、レア物!サイン本だ!」
「え、本当?!」
「店で最後の1冊だったから買っておいた」
高校2年の頃だった。
いつものように朝に家の前で会い、星と共に学校に向かう。その時に、彼が吹雪のお気に入りの作家の本を本屋で見つけて買ってきてくれたのだ。しかも、サイン入りだというから驚きだった。
「ありがとうー!星………本当に嬉しい」
「本のプレゼントが、そんなに顔がニヤけるぐらい嬉しいか?」
「うん!とっても!」
そう言って、吹雪は満面の笑みで星から本を受け取った。袋から出してみると、確かに本には透明のカラーがかけられており、「サイン本」と書かれた紙が貼られてた。
「どんなサインだろー?あ、手袋してから開けた方がいいかな?それとも飾っておくべき?」
「………いや、読んだ方がいいだろ」
それをキラキラした瞳でそれを見つめた吹雪だったが、ある事を思い出してハッとする。
「ごめん。夢中になってたけど、お金渡すの忘れてた」
慌ててバックから財布を取り出そうとする吹雪だが、星はそれを止めた。
「いいよ」
「え、でも……」
「おまえのめっちゃ笑った顔、久しぶりに見れたから、それでいい」
「………何それ……」
なんてキザな事を言うようになったのだろう。その時はそう思った。けれど、しばらくしてその言葉を思い出しては顔を真っ赤にしてしまった。
この瞬間に、吹雪は星が好きになったのだろう。恋に落ちるとはこういう気持ちなのだな、と吹雪はその時初めてその感覚を知った。
好きなったとしてと、吹雪は彼との関係を変えようとはしなかった。今のままが幸せだと感じていた。幼馴染みとしてならずっと関係は続いていく。1度告白をしてしまい、恋人になれなかったら。なれたとしても、別れてしまったら。星との関係がぎくしゃくしたものになってしまう。そう考えたのだ。
けれど、事態は彼の一言で変わった。
「吹雪って俺の事好きなの?」
「………え………」
突然の言葉に吹雪は固まってしまった。
自分の気持ちがいつ彼にバレてしまったのか。ちょっとした彼の言葉に喜んで頬を染めていた事か、それとも授業中や部活中に彼の横顔や背中を眺めていたのに気づかれてしまったのか。
焦り、どう返事をすればいいのかわからずに、あたふたとしていると、星はそれを見て笑った。
「それじゃあ、肯定してるってわかるな。別に責めてるわけでも、からかってるわけでもない」
「……………」
「俺も吹雪の事いいなって思ってたし。付き合ってみる?」
「…………え?」
彼の言葉に驚き、恥ずかしさを感じて目を潤めていた瞳のまま星の顔を見つめた。
すると、そこには優しく笑う彼の表情があり、吹雪はドキンッと胸が鳴った。
「付き合ってくれるの?吹雪?」
「え、あ………うん。よろしくお願いします?」
「何で、疑問系なんだよ」
「だって………告白って、こんな軽い感じなのかなって思って」
「幼馴染みからの恋なんて、そんなもんだろ」
そう言って、吹雪の頭を撫でながら微笑んだ。
「まぁ………なんだ、幼馴染みから恋人になっても、よろしくな?」
「うん………」
彼の頬と耳が赤い。
いつもとは違うはにかんだ表情を見て、目の前の星が恋人になったのだと吹雪は実感出来たのだった。
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