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5話「話せない秘密」
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いつもは気さくに話しかけてくれるのに、いざホストのように女性を喜ばせようとすると言葉が出なくなる周。
周は不思議な男だった。
2回目に会った時も「君の笑顔は花のように可憐で美しい」と言われ、吹雪は笑いそうになってしまった。けれど、周はいろいろと言葉を考えているようで、吹雪は前回のように笑ってしまうのは失礼だと感じ、笑みを必死に我慢したのだ。
「んー………どうしてダメなんだろう?こういうの女の子は好きだと思ったんだけど……」
「それは何で見たの?」
「ネットとか」
確かにそういう登場人物がいる物語もあるだろう。だが、今では珍しいなと思ってしまう。最近の女向けの漫画でも見ないような気がする。
そう考えて、ハッとした。
「………そうだ!少女漫画!」
「え………」
「女の子に人気の漫画見てみるのもいいんじゃないかな。私も人気作ぐらいは知ってるよ」
女の子がきゅんっとする男の子の行動や言葉。それを学ぶにはうってつけの教材になるだろう。
「読んでいてドキドキしたり、感動したり、こんな事されてみたいなーとか思えるから。いい勉強になるかも」
名案が思いついたと張り切った調子でそう言い、周に意気揚々とした様子で彼の方を向く。
すると、彼はボーッとした様子で吹雪を見つめていた。
「周くん?どうしたの…………?」
「あっ!ご、ごめん……ついボーッとしちゃって」
「え………」
「いつも緊張してるみたいだったから。そんな素っぽい笑顔見れたの初めてだったから。そんな笑顔も出来るんだなって」
「………ご、ごめんなさい。いい案だと思ってしまって」
「その表情いいね。もっと見たいって思う」
「っっ!」
また、不意打ちでドキッとした事を言われてしまい、吹雪は顔がにやけてしまいそうで、咄嗟に顔を背けた。
すると、後ろから「あ、ごめん!少女漫画で勉強するの、すっごいいいと思うよ?!」と、吹雪が怒ってしまったのだと思っているようだった。
そんな鈍感な彼に今だけは感謝しつつ、吹雪は顔の赤みがひいてくるまで、彼に顔を見せることが出来なかった。
「本当にごめんっ!!」
出会って開口一番に彼女は頭を下げながら、謝った。目の前の彼女は、切原麗(きりはられい)。吹雪の高校からの友達だった。金色のボブの髪がよく似合う、サバサバとした女の子で、吹雪とは性格は似ていないが、2人はとても仲が良かった。
「大丈夫、気にしないで。それに、麗ちゃんが謝る事じゃないよ?」
「ちゃんと調べなかった私の落ち度があるよ。まさか、あの人が婚約してるなんて……ってか、何で婚約者いるのに2人きりの食事に行けるのかな………信じられない」
「本当に気にしないで。しっかり断ったから」
麗を安心させるために吹雪は微笑みながらそう返事をした。
けれど、麗は納得がいかないようで苦い顔をした。
「………その顔は、何もなかったわけではないみたいだね」
「え………そんな事は………」
「嘘ついたら、私怒るからね………」
「麗ちゃん………」
「さっ、まずはお詫びにケーキセット奢るからカフェ行こう!おすすめのお店見つけたんだ。そこで話を聞くわっ!」
そう言うと麗は、吹雪の手を取ってズンズンと歩き始めてしまう。こうなると、彼女を止められないのは吹雪も知っている。けれど、彼女が自分の事を心配し気にしてくれているのは確かだった。本当の事を話そう。そして、周の事も。
吹雪はそんな事を考えながら彼女の後を追って歩いた。
麗が案内してくれたお店は、窓からけや木並木が見える少し古びたビルの3階にある紅茶のお店だった。木目調のアンティーク家具が並ぶ店内はとても落ち着いた雰囲気だった。夜という事もあり、他の客も少なく、窓際の席に座る事ができた。
2人はそれぞれ紅茶とケーキセットを頼むと、さっそく麗が口を開いた。
「で………ダメ男とは、どんな感じだったの?」
「………麗ちゃん……言い方……」
ダメ男とは、光弥の事だろう。
麗は目をつり上げながら聞いてくるので、吹雪は「麗ちゃん、落ち着いて聞いてね」と前置きした後に光弥との出来事も話した。
話しをしていく内に、麗の表情はどんどん険しくなっていき、吹雪がお金を渡して帰ったというところまで言うと、ダンッとテーブルを叩いて立ち上がった。
「何それっ!?最低っ!!」
「ちょ……麗ちゃん、しーっ!!」
落ち着いた店内に麗の怒声が響き渡り、吹雪は慌てて周りの客や店員に頭を下げて、何とか麗を座らせた。
「だから、私は大丈夫だから」
「そんな事ない。絶対に傷ついた。吹雪、泣いたでしょ?」
「…………少しだけ、ね」
「あいつ、次に会ったら張り手してやる」
「…………もし、麗ちゃんが会えたら、光弥さんの事止めて上げてね。婚約が嫌なら無理にする必要はないと思うし。………誰も幸せにならない結婚なんておかしいと思うから」
あれから、吹雪は考えていた。
光弥は、どうしてあんな行動をしたのだろうか、と。それはやはり結婚に焦りが会ったのではないかと考えたのだ。
好きではない相手との結婚生活から逃げたかったのかもしれない。どうにかして、やめてしまいたかったのかもしれない。
してはいけない行動だったけれど、それには理由があるのだろう。そんな風に考えていた。
けれど、その考えを話しても麗は同意はしてくれなかった。
「吹雪ちゃん………その考えは吹雪ちゃんらしいけれど、この世の中には本当に自分の利益とか気持ちしか考えていない人がいるんだから。吹雪ちゃんは優しいから心配だよ」
「………うん。気を付けるね」
本当は麗に相談をしたかった。
けれど、その言葉がまるで周の事を言っているように聞こえてしまい、吹雪は何も言えなくなってしまった。
周の事はいい人だと思うし、騙すような事をする人だとも思えなかった。
けれと、考えの本当の考えが読めないのは事実なのだ。
だからこそ、麗の言葉が胸に刺さった。
彼とは親密にならない方がいいのだろうか。
けれど、周と次に会う日を楽しみにしてしまっている自分の心を思い、もう遅いかもしれないな、と感じたのだった。
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