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10話「迷子とウサ耳」
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☆★☆
昨夜の天気予報は的中していた。
もう秋の半ばで、薄手の上着が必要な天気が続いていたが、今日は陽の光も強く歩く人たちは皆上着を着ていなかった。
しずくもジャケットを脱いで、長袖ワンピースで大学祭に向かっていた。
オフの日のデートは、特に服装や髪型、メイクに力が入ってしまう。
今日は沢山歩く予定だからシューズにしようと決めていたが、それでも可愛い格好したいと思い、カーキ色のロングのレースワンピースを着ることにした。色やレースの模様が可愛すぎず、大人っぽいのでしずくは気に入っていた。シューズでも可愛いのは昨日の一人ファッションショーで確認済みだった。
このワンピースは、白と会う時にまだ着ていないので、白がどう思ってくれるか、少しだけ緊張してしまう。いつも、「可愛いですね。」「綺麗ですね。」と褒めてくれるが、カジュアルよりワンピースなどの綺麗めが好きなのでは?と、白の反応からしずくは予想していた。
しずく自身も、ワンピースが好きなので、彼もそれを喜んでくれるのは嬉しかった。
そして、今日は特別な事がもう1つあった。
しずくは、大きなショーウィンドに映る自分の姿をさっきから、チラチラと見てしまう。いつもは、髪をおろしており、アレンジをするとしても、軽く毛先を巻くぐらいだった。しずくは、髪のアレンジが苦手だった。
だか、今日は綺麗にアップしており、編み込みまでしてある。パールのヘアアクセもあり、とても上品なヘアセットだ。もちろん、しずくが自分でやったのでも、お店でやってもらった訳でもない。
美冬が、仕事前にわざわざ家に着て、ヘアセットをしてくれたのだ。しずくが白にしっかりと気持ちを伝えると言うと、「勝負の日なら徹底的に綺麗にしなきゃね!」と意気込んでしまい、朝早くいろいろな道具を持って自宅にやってきたのだ。
大切な友人に感謝しながらも、いつもと違う自分の姿を見ると、どうも浮き足立ってしまう。デートが更に楽しみになる。
そんな気持ちからか、買い物する予定だった時間も、あまり集中出来なかった。早く白に会いたいという気持ちになり買い物を早々に止めることにした。カフェで読書をしても集中できないと思い、しずくは一足先に大学へと向かっていたのだった。
大学で白と一緒に回らないところや雰囲気を楽しみながらゆっくり歩き回ろうと思っていた。
大学への道は、すぐにわかった。たくさんの人が向かっていたため、それについていくだけでよかったからだ。そして、大学に到着するとしずくの想像は早くも崩れていた。
有名大学なので広々とした敷地で、悠々と歩けるものだと思っていた。だけどもそれは違い、大きな大学の敷地には大勢の人で溢れかえっていたのだ。
「え!?すごい、、、。」
そう一人で呟いてしまうぐらいだった。入り口付近だけかもしれないが、かなりの人数だった。
人の流れに合わせながら、しずくはゆっくりと歩き続けていき、しばらくすると少し人が少なくなっており、人の邪魔にならない場所を見つけて、パンフレットを取り出した。
キノシタイチ先生のグッツを売っている場所は東館という場所だった。白とも東館中心に見てみようと話していたのだ。なので、反対側の西館をぶらぶらしようかと考えていた。
が、人について来てしまったため、今、自分がどこにいるのか全くわからなくなっていた。パンフレットには簡単な地図はあったが、自分の場所がわからなければ意味がないのだ。
何か、目印になるものはないかと、しすぐは周りをキョロキョロと見渡してみる。周りには、食べ物の出店が沢山出ており、可愛い格好をした女子学生が大きな声を上げてお客さんを呼んでいた。
半年前まで、白はこの場所にいて、周りにはこんなにも若くて可愛い女の子たちが沢山いたのだ。それを目の当たりにすると、しずくは胸がちくりと痛んだ。その感覚がとても苦しくて、すぐにそちらを見るのを止めて、他に目を逃がした。
すると、「キノシタイチサイン会、グッツ販売!!」と書いた看板を持って歩く人が目には行った。人混みでよく見えなかったが、優しそうな男子学生に見えた。
しずくは、見失わないように看板を目印に人混みの中に駆け込んで男子生徒を追った。
客引きのため、男子生徒はゆっくりと歩いていたため無事に彼にたどり着いた。
「あの、すみません。お聞きしたいのですけど。」
「はい!」
人混みの中、後ろから肩を軽くたたいて伝えると、その男子生徒は笑顔でこちらを振り返ってくれた。少し切れ長の目は少し鋭く見えたが、人懐っこい笑顔があり、とても爽やかなイメージがある男性だった。しかし、目がいってしまうのは頭の上にある可愛らしいウサ耳だった。
綺麗な顔立ちにスーツ姿、それなのにふわふわの白いウサ耳というアンバランスさに驚きながらも、なぜか似合っているように感じる。
「どうしましたか?」
「あの、すみません。今の場所がわからなくて。地図だとどこらへんが現在地ですか?」
「えっと、、、ここですね。うちの大学わかりにくいですよねー。」
パンフレットの地図を指差して親切に教えてくれる男子生徒を「かっこよくて優しいなんてモテるだろうなー。」と心の中でついつい思ってしまう。
「ありがとうございます。午後にキノシタ先生のグッツ、会にいく予定なんです。楽しみにしてますね。」
そう伝えると、更に笑顔になって「来てくれるんですねー!」とキラキラした目で嬉しそうにしていた。
「キノシタ先生のグッツ、どれもよかったので是非!サイン会はなくなってしまったんですけど、、、。あ、お姉さんは絵本王子のサイン会には興味ないですか?」
「絵本王子?」
爽やかな男子生徒がそう質問してくれたが、そんな人の事は全く知らなかった。若い人には、人気なのだろうか、、、と思ってしまう。
「キノシタ先生の弟子の生徒さんなんですけど、かっこいいのでそう呼ばれてるんです。さつきさんっていう絵本作家なんですが、知ってますか?」
「え!?さつきさんですか?女の人だと思ってました!」
さつき先生は、しずくもよく知っており好き作家のひとりだった。絵本も数冊持っていて、保育園の子どもたちも大好きだった。名前から、勝手に女の人だと思っていたが、確かに男の人の名前でもあるな、と申し訳ない気持ちになってしまう。
「さつき先生のサイン会だったら、学生以外の一般の参加券が数枚余っていますよ。」
しずくは、一瞬悩んだが、すぐに「1枚ください。」とお願いしていた。
さつき先生は、初めてデートしたときに白がとても気に入って購入した絵本の作家だった。
きっと、白にプレゼントしたら喜ぶだろう。そう思って、サイン会に参加しるのを決めた。
「ありがとうございます!じゃあ、会場の教室に案内しますね。」
その男子生徒と話をしながら、会場へと向かう事になった。
名前は青葉くん。キノシタ先生の作品や技に一目惚れしたらしく、いつも研究室に遊びに行っているそうだ。今回、キノシタ先生からのお願いかわあり、手伝いをすることになったようだった。まだ2年生だが、卒論はキノシタ先生に見てもらうともう決めているそうだった。
青葉くんの話を聞いていると、あっという間に東館に着いた。3階にあるというので、中に入っていく。外よりは人通りも少なくなって、しずくはほっとした。
サイン会というイベントに参加したことがないしずくは、今更緊張してきてしまっていた。絵本王子と言われるぐらいなので、きっとかっこいい人なのだろう。そんな人気のある人に会うだから、ドキドキするのは仕方がない。
それでも、白が喜んでくれる姿を想像してしまうと、頑張ろうと思える。
廊下にあった鏡で、化粧や服装、そして綺麗にしてもらった髪型をさりげなくチェックする。
美冬にヘアセットしてもらった事で、少しだけ勇気が出たような気ので、ウサ耳の青葉くんとの距離が少しだけ空いたので、その差を小走りで縮めた。
しずくの足取りはさっきより軽くなっていた。
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