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「あら?河崎さんじゃない?」
透碧とランチを食べて買い物を楽しんでいる時だった。透碧から少し離れた場所で商品を見ていた蛍に聞き慣れた声が耳に入った。名前を呼ばれて振り向くと、白と赤、そして緑色の草を持った40代ぐらいの女性が小さく手を振りながら蛍に駆け寄ってきた。
「あ。ブーケ教室の関口さん」
蛍が通っている花屋で行われるブース教室の生徒仲間である関口だった。
趣味が花のブーケやリースを作ることらしく、ドライフラワーのブーケを販売しているそうだ。シンプルな服装にカラフルな花のピアスをした、おしゃれな格好で買い物をしていたようだ。
「河崎さんもお買い物かしら?」
「はい。河崎さんは教室用のお花、それとも趣味用のお花ですか?」
「趣味用ー!クリスマスのリースを手作りしようと思ってて」
「クリスマス………」
そう言えば、年末にはクリスマスがある。蛍にとって無縁に等しいイベントだったのですっかり忘れていたが、そう言えばも街中もクリスマスの総力で一色だった。プレゼントやクリスマスのコスメ、おもちゃやアクセサリー、小物などがお店にも並んでいる。当たり前に見ているだけで、自分が何かしようとは思っていなかった。
クリスマスの雰囲気のリースをやブーケを作るのも楽しそうだな、と関口の話しを聞きながら考えていると時だった。
「ほたるさん?何処にいます?」
小さな声で自分を呼んでいる彼女の声が耳に入った。先ほどまでいた場所と少し離れてしまったため、透碧が探しているようだった。蛍が「ごめん、ここだよ」と、呼ぶと彼女は嬉しそうに微笑み近くが知らない人物が近くにいる事に気づき、小さく会釈をした。
「こんにちは」
「あらあら、綺麗なお嬢さんと一緒だったのね。こんにちは、邪魔をしてしまったみたいで、ごめんなさい」
「いえ、クリスマスリースの話しを聞いて、自分も挑戦したくなりました。またこの今度教室で教えてください」
「私も先生に質問しようと思ってたのよ。じゃあ、今度の機会に聞きましょうか」
「そうですね」
「ほ、ほたるさん、お花のブーケ作れるんですか?」
話の内容を理解したのだろう。透碧は驚いたように口からを開けた。
すると、関口は自分の事のように嬉しそうに「そうなのよー」と本人をよそに話しを続けた。
「河崎さんはね、そのブーケ教室の中でも1番上手でセンスがあるのよ。1度、その先生のお店にも出したブーケ教室のは即売れたんだから」
「それは、俺の職場の人間が買ってくれただけで」
「あら、SNSでも人気だって言ってたわよ」
「え、見てみたいです!」
「これよー!写真持ってるわ」
いつの間にか2人で盛り上がっている女性組には入っていくことが出来ず、蛍はおろおろとするだけだっが、透碧は楽しそうだ。
「これをほたるさんが作ったのですか?素晴らしいです!」
「そうでしょう?私たちも名品が出来たって思っていて、いっぱい写真撮ったのよ」
「関口さん、どれを見せているんですか?」
「紅葉をイメージしたブーケよ。コスモス中心にした」
「あぁ……」
数か月前に蛍が通っているブーケ教室で、秋のブーケを作ったのだ。赤や橙色のブーケを使いながらもオフホワイト色を入れてみたり綿をアクセントしたものを作ったが、教室内でかなり好評だったのだ。それをブーケ教室のSNSに載せると、真似したいといった声や、購入したいという人もいたようだった。
人に好かれるような作品が出来たのは嬉しかったが、蛍は自分が満足できる作品を作りたいだけだったので多少は戸惑った。けれど、ブーケ教室の先生も喜んでくれて、「しばらくお店に飾ってもいいかな」と言われた時は、やっていてよかったなっと思えたのだ。
「河崎さんと一緒にブーケ教室にいらっしゃったらいかが?」
「……え」
「はい!ぜひお伺いしたいです」
「………え!?」
「まあまあ。じゃあ、先生には私から伝えておくわ。日程は河崎さんにお聞きになって」
「わかりました」
「待ってください。透碧、ブーケ教室に通いたいのか?」
「日程が合えば、ぜひ。だめだったでしょうか」
「いや、ダメじゃないけど」
とんとん拍子で決まってしまい、唖然してしまう。
彼女が興味があるのなら、ブーケ教室につれていくのもいいが、どこか気恥ずかしく思ってしまう。
ブーケ教室には蛍以外の男性はいない。やはり、まだ女性に人気のある趣味なのだろう。そんな所に通っているのを恥ずかしいとは思わないものの、どこか似たような気持ちになってしまう。
それでも透碧は「楽しみですね」「次はお正月用ですって」と、関口と別れても期待しているようだった。それならば、彼女の笑顔のためにもブーケ教室に連れて行かなければいけない。恩人の彼女にも話をしておこう。
いつも以上にその日が待ち遠しくなった。
そのはずだった。
けれど、そのブーケ教室当日。
彼女は蛍の前に姿を現す事はなかった。
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