26 / 32
26話「恋敵」
しおりを挟む26話「恋敵」
光哉が案内した場所は、清潔感があるおしゃれなレストランだった。
白は知ることはなかったが、そこは光哉としずくが再会した場所でもあった。
店内に入ると通されたのは店の奥にある個室だった。VIPルームと標示があったを見て白は少し驚いたが、見て見ぬ振りをして誤魔化した。
「おすすめはピザなんですよ。ちゃんと窯もあるんですよ。」
光哉はメニューを見ないで数品を店員に注文をすると、白に視線を向けた。
「さて、話をしましょうか。白さん。」
「名前、知ってるんですね。」
「雨・・・しずくちゃんに聞いたのでね。あ、俺は伊坂光哉です。」
「・・・しずくさんの、初恋の相手ですよね。」
白は直球をぶつけるが、光哉本人は笑顔で「そうです。」と返事をされてしまう。光哉の余裕を感じてしまい、白の気持ちが荒れていた。
何故自分の前に、彼が会いに来るのか。
理解はしていたが、それを知りたくはなかった。
もう彼女は彼のものになっているのかもしれない。
自分は彼女から距離を置こうとしていた。
でも、それが出来なかった。
だからこそ、夜遅くまで公園にいる彼女を見守っていたのだ。
公園で待っている姿を見て、自分を待っているのだとわかっていた。
何度も彼女に話を掛けようと迷った。
だが、それを躊躇ってしまう。
それには理由があった。
しずくが待っていてくれるのは、自分とのけりをつけたいのではないかっと、白は思っていた。
初恋の相手と付き合うようになり、白との関係を終わらせたいからではないかと。
しっかり者の彼女の事だから、自分の事を考えてくれているのはわかる。
自分の事を好きでいてくれると思っていた。
だけれども、初恋の相手との話を楽しそうに話す彼女を見て、それは勘違いだったと思ってしまった。
キラキラとした笑顔を見せるのは自分だけではなく、違う男だと思うだけで、自信がなくなってしまうのだ。
10歳も年下の男は相手にもされないのか。
彼女を信じたい気持ちが、自信と共に消えていきそうになるのを感じていた。
「俺も本題から話します。俺は彼女が好きなんです。諦めてくれませんか?彼女は、あなたに囚われすぎている。」
光哉は、先ほどからのニコニコとした表情から一転、真剣でするどい眼で、白を見ていた。
白はその強い視線から、目をそらさずに見据えながらも、彼の言葉を驚いた気持ちで聞いていた。
彼の言葉を聞く限りでは、まだ彼と交際をスタートしたとは思えなかったし、しずくが自分をまだ想ってくれているのではと思わせるものだった。
考え込んでいる白を、少しの間待っていた光哉だったが、すぐに話を続ける。
「彼女の事を心配で見守っているのはわかりますけど。見ているだけでは、何も進まないと思いますよ。」
「それで、僕と彼女が付き合う事になったらどうしますか?」
「そんな自信があるのかな?」
「僕は・・・少し自信がなくなってました。けど、彼女を信じてるので。」
光哉の鋭い視線に応えようと、白もしっかりと彼の目を見ながらそう強く言った。
すると、光哉は驚いた表情を見せて、そしてすぐにその顔が変わった。
何故か、苦しげに笑っているのだ。
それは切なさも感じられるものだった。
「信じてる・・・か。」
そう独り言のように呟くと、苦笑しなから下を向いて何かを考え込んでいた。
少しの時間、そうしていたが、顔を上げるとそこにはその悲しげな顔は見られなかった。
「確かに俺は雨ちゃんを信じてられなかったな。」
白は、もちろん、その意味をわからずにいた。
だが雨ちゃんというのは、しずくだと理解出来たし、何かしずくに対して罪悪感を感じているというのもわかった。
ただ話しを聞くことしか出来ずにいたが、しずくを諦めるはずもなかったので、この場を去るわけにもいかなかった。
「雨ちゃんを尾行する時間があったんだ。俺の昔話に少し付き合ってくれないか。」
そういうと、光哉は過去をゆっくりと語り始めた。
恋敵の過去話など聞くのは嫌だったのが正直な話だった。
だが、彼女をもっと知りたい、という気持ちにが勝り白は、その話を付き合うことにした。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
雨宮課長に甘えたい
コハラ
恋愛
仕事大好きアラサーOLの中島奈々子(30)は映画会社の宣伝部エースだった。しかし、ある日突然、上司から花形部署の宣伝部からの異動を言い渡され、ショックのあまり映画館で一人泣いていた。偶然居合わせた同じ会社の総務部の雨宮課長(37)が奈々子にハンカチを貸してくれて、その日から雨宮課長は奈々子にとって特別な存在になっていき……。
簡単には行かない奈々子と雨宮課長の恋の行方は――?
そして奈々子は再び宣伝部に戻れるのか?
※表紙イラストはミカスケ様のフリーイラストをお借りしました。
http://misoko.net/
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる