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14話「初恋の雨」
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光哉との話はとても懐かしいものだった。
幼稚園時代のおゆうぎ会の話や、小学校の七不思議の話や友達の事。その時に住んでいる場所の風景。話せば話すほど、その光景を思い出すことが出来ていた。
驚くことに光哉は、いろいろな事を細かいところまで覚えていた。
話を聞くと「あぁ、そんな事もあったな。」と、昔の出来事なのについ最近のように思えてくるのだ。
「すごい。よく覚えているね。そんな昔の事なのに。」
しずくがそう言うと、光哉は少し照れ笑いを浮かべた。
「恥かしいんだけどさ、昔からずっと日記を続けてて。この間実家に戻って昔の日記を見てきたんだよ。雨ちゃんに会えるから、思い出しておこうと思って。」
「恥かしくないよ!昔から続けているなんて、すごいなぁ。私なんていつも続かないから。」
「そうかな。雨ちゃんに褒められると、なんか嬉しいよ。」
ニコリと笑う顔を見て、笑顔も昔と変わらないと幼い頃の彼をついつい思い出してしまった。光哉もよく笑う男の子だった。
光哉、も・・・。
そんな事を思い出すと、何故かここにはいない彼の事が頭の中をよぎる。さきほどから、ずっとそうだった。
光哉が笑顔を見せるたびに、彼を考えてしまうのだ。
羽衣石白の事を。
「雨ちゃん、どうしたの?」
「あ、ごめんなさい。雨ちゃんって呼ばれるの懐かしいなって思って。」
他の事を考えているとばれないように、咄嗟に話題を出す。光哉はそれに気づいてないようで、懐かしそうに相槌をうってきた。
光哉がしずくの事を雨と呼ぶのには理由があった。
自分の苗字の「栗花落しずく」の「つゆり」が梅雨になる前の事だと、光哉に得意げに教えた時だった。
光哉は考え込んだと思うと、何かを思いついたように目を広げて、にっこりと微笑んだのだ。そして、勢いよくしずくに言った。
「梅雨のしずくって事は、しずくちゃんは雨なんだね。」
「・・・うん。そうかな・・。」
光哉のあまりの迫力に、曖昧にしずくが頷くと、さらに嬉しそう「やっぱり!」と笑う。
「じゃあ、これからは雨ちゃんって呼ぶね。」
彼だけしか呼ばない、特別の呼び方。
それがとても嬉しくて、しずくは「うん!」と微笑み返したのだ。」
「あれから、雨ちゃんって真似して呼ぼうとした友達には「雨ちゃんって呼んじゃダメ。」って言ってまわってたんだ。」
「え!?そうなの?」
「うん。雨ちゃんは、可愛かったから男の子に人気あったんだよ。雨ちゃんって呼んでみたいって奴多かったし。」
「えー・・・そんな事なかったと思うけど。」
「本当だよ。」
口をへの字にして、むつけたように光哉は言った。
しずく自身は、自分がそんな風に思われていた自信は全くなかった。女の子らしくなく、ドッチボールが大好きだったんだ。確かに、読書が好きだったり、鉄棒の前周りの怖がるような所もあったが、活発な方だったと思っている。
そんな女子が人気があるはずもない。
「そんな事言ったら、光哉くんの方が人気あったと思う。すっごくモテてたよ。」
「確かに!あの頃は、女の子にモテまくりだった!」
「否定しないんだ。」
「事実だからね。」
誇らしそうに言う彼を見て「やっぱりそうだったんだ。」のしずくは心の中でつぶやいた。
バレンタインでは、たくさんのチョコを持って帰っていたし、しずくと光哉が一緒に帰ろうとすると、男女問わずにいつも「今日遊ぼう」と声を掛けられていた。
「みんなの初恋の相手は、光哉くんだったんだね。」
何気なくしずくがそう言うと、光哉は返事をせずに何故かしずくをじっと見つめていた。
何か変なことを言ってしまったのだろうか?
そういえば、白ともこんな事があったな、なんて苦い事を思い出してしまう。調子に乗ると、変なことを口走ってしまうようだ。特に今日はお酒も入っている。
ちゃんと考えて言葉を出さないと、としずくは内心で反省していた。
「みんなって、雨ちゃんも入ってるの?」
「え・・・。」
「俺の初恋は雨ちゃんだったよ。」
光哉の顔は真剣そのものだった。冗談を言っている様子もない。
そんな顔を見て、しずくは教科書をピンと伸ばした両手で持ち、堂々立ち上がり文章を読み上げていく、幼い頃の光哉の横顔を思い出していた。
そして、その時に胸が弾んだ、「かっこいいな。」という初めての恋という感情も一緒に。
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