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8話「初デート 後編」
しおりを挟む8話「初デート 後編」
白に買ってもらったグッツの袋を持って、2人はショッピングモールをゆっくりと歩いていた。
白は見つけたものをすぐに「あそこに可愛い洋服がありますよ!」「あ、眼鏡似合いそうですよね。かけてみましょう。」など、声を掛けていろいろな店に誘った。
彼の知識は豊富で、「今年の流行は水玉模様とパステルカラーなんですよね?」「あの花の花言葉は・・・。」などと女の子が好きそうな話題もよく知っていた。
途中、昼食を食べた後、店を出ると向かい側が本屋になっていた。
「あ、本屋さんですね。さっき見た映画の原作ありますかね。」
と、白はしずくを本屋に誘った。
マンガコーナーに行くと、劇場版が公開されているとあってか、店内には見てきた映画の原作がずらりと並んでいた。
本編とは別の、ショートストーリーが書かれている小説まであり、白としずくは手に取り2人で眺めていた。
見てきた映画が楽しかったため、他の話も読んでみたいという事になり、白は小説を手にとって「買ってきます!読み終わったらお貸ししますので。」とレジに向かった。
しずくは、今度こそ自分で買おうと思ったが、また先を越されてしまった。仕方がなく、店内を歩いているとマンガコーナーの横には絵本のコーナーがあった。
職業柄、絵本には興味があった。見やすい位置には、今の時期らしく春や子どもの日にちなんだもの、そして新刊が並んでいた。
しずくがその中で目に付いたものがあった。
「あ、この人の新刊出てたんだ。」
そう言って1冊の絵本を手に取った。
淡い色がベースで書かれている絵本で、今回も色鮮やかな絵が描かれていた。作者の名前は平仮名で「さつき」と書かれている。
ページを捲って1ページには、花畑の中に一人で佇む少女が書いてある。
「その絵本、買うんですか?」
そこに、買い物を終えた白が戻ってきた。しずくが持っていた絵本を興味深そうに覗き込んでいた。
「そうね。よく買ってる作者の絵本なんだけど。読んでから決めていい?」
「はい。あ、僕に読み聞かせしてくれますか?」
「・・・いやよ、恥かしい。」
「やっぱりですよね。すみません。」
白は笑いながらも、しずくの傍から離れる様子はなかった。しずくは、ゆっくりとページを捲っていく。白が読み終わるだろうペースに合わせて。
その絵本は、弟が生まれた小さいお姉ちゃんのお話だった。両親がかまってくれなく寂しい思いをしていると、庭に咲いていた花から妖精が現われた。そして、泣いているわけを少女から聞くと妖精は魔法を使って少女が小さかった頃を見せてあげる、と言ったのだ。
そして、その少女が生まれた日、両親は泣いて喜び名前をつけてくれた。熱を出した日は、2人は寝ないで看病をしてくれて、次の日は3人で一緒にお昼寝をしてしまった事。
誕生日の日にケーキを母親がつくってくれ、少女は始めてのろうそくを見て、間違って火傷をして両親はとても心配していたこと。3人で公園でお弁当を食べたこと。
そんな少女が忘れてしまっていた記憶を見せてくれた。
少女は、ますます両親が大切になり、そして大切にしている弟にも同じようにしてあげたいと思うようになる。
気づくと妖精は消えていた。
少女は妖精が出てきた花の名前を母親に聞く。すると、母親は「桜の花よ。あの木はね、あなたが生まれた日にお父さんが買ってきたものなの。だから、あなたと一緒に大きくなっているお花よ。」と教えてくれた。
それを聞いた少女は「じゃあ、赤ちゃんのも桜の隣に植えよう!何の花がいいかな?」と提案をした。
その日の夜、少女と母親と父親は赤ちゃんの寝顔を見ながらどんな花の木にしようかと、考えながら過ごした。
そんな素敵な話だった。
絵本を閉じると、笑いながら庭から家を見ている妖精が描かれていた。
「素敵なお話しですね。」
「そうだね。」
「買いますか?」
「んー・・・今はいいかな。今度買うよ。」
その言葉が意外だったのか、白は「すごいいい顔で読んでいたから買うのかと思いました。」と驚きながら言った。
しずくも、この話をとても好きだった。兄弟が生まれた時の子ども達はとても不安定で、甘えたい事も多い。そのいう時に、ぜひ読んでみたいと思った。
それに今回もイラストがとても可愛らしいものだった。どのページにもたくさんの花が描かれているし、何より妖精がとても可愛らしく魅力的だった。
桜の妖精が、少女を大切に思っている事がよく伝わってくる。
「でも今は0歳児クラスだから、ちょっと難しいかなって。」
「なるほど・・・。」
そうなのだ。しずくは、今年度は0歳児クラスを担当していた。今の時期は泣いて、寝て、ミルクや離乳食を食べて、また寝る。そんな生活だった。
絵本を読んだとしても、とても簡単な物ばかりで、この絵本のように長い文章の物を読んでも、まだ理解できずにすぐに飽きてしまう。
白もしずくの言葉を聞いて、納得したようだった。
「あ、でもね、この人の「ころんじゃった」は、今のクラスの子ども達も大好きなんだよ。」
そう言って数年前に発売された同じさつきという作者が書かれた絵本を手に取った。
正方形の小さな絵本で、親が子どもを抱っこしながら読ませやすい大きさになっている。
赤ちゃんイヌが転んでいると、すぐに転んでしまう。「ドシンッ!」と何回も転ぶが、その度に様々な動物が助けてくれる。赤ちゃんイヌは、最後は自分で立ち上がれるようになり「僕は大きくなったよ。」と言う。
そんな単純なストーリーだった。
「このドシンッ!っていうのを何回も繰り返すでしょ。ここを子ども達がまねするの。みんな笑いながら。とても楽しそうなのよ。」
「へー、そうなんですね。いいなぁ、楽しそうです。」
「ええ。」
白は、その話をとても嬉しそうに聞いていた。しずくの話を聞いて、その姿や笑顔を想像しているのだろう。
しずくが持っていた絵本を持ち、もう1度絵本を見始める。
そこには、懐かしそうにそして、子ども向けの絵本なのに楽しそうにじっくりと読んでいた。
「僕、これも買ってきます。」
「え、でもその絵本・・・・。」
「気に入ったので。教えてくれてありがとうございます。」
そう言って、大切に絵本を持って、白は歩いて行ってしまったのだった。
その後、車に戻るとまたその絵本を取り出して、白は眺めていた。
しずくには理由がわからないが、白は気に入ったようだった。
「子どもみたいね。」
その姿をみながらしずくが言うと、白は得意げに笑った。
「だって、しずくさんは子ども好きですよね?」
予想もしない返事にしずくは、言葉を詰まらせてしまった。もちろん、子どもは好きなのだが、ここで好きと言ってしまうと、何故か彼に言っているようになってしまう。
そのためなかなか言えずにいると、白はそれがわかっているのか、意地悪そうに笑いながらしずくを見ていた。
「・・・好き。」
「やっぱり。じゃあ、僕は子どもでいいです。」
白はそうはにかみながら笑う姿は少年だった。
そんな笑顔が見たいのだ。小さい頃の白の記憶、その頃の笑った笑顔が。
思い出せるか、と集中するが、早いそんな光景は頭に入ってこなかった。
「あ、そういえば、ヒントは?」
帰り道、運転をする彼に、すっかり忘れていたヒントの事をしずくは質問した。白も忘れていたようで、「そうでしたね。」と言った。
信号で止まったとき、白はしずくの方を向いて、得意げな顔をしながら人差し指を掲げて「ヒントです!」と言った。
しずくは、少しだけ緊張感を持って次の言葉を待った。そのヒントで、もしかしたら彼の事を思い出せるかもしれないのだ。
重要な瞬間になるかもしれない。
「僕は、しずく先生の卒園児ではありません!」
いつもより大きな声で、そう宣言する白。
しずくは、何の反応ができずに、ただ白を見ているだけだった。
「・・・そんなの知ってるよ!」
そうしずくが言った瞬間、後ろからクラクションを鳴らされ、白は「ええええ!?」と2重で驚きながらハンドルを握ったのだった。
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