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異本 蠣崎新三郎の恋 その三十六

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 いまになって、それを思い出した。
(あ、この子は、怖かったのじゃ!)
 さ栄は気づいて、自分の迂闊や情の薄さを悔いる気持ちになった。
(無理もない、一度は殺されかけた。その相手を討つというて、気勢があがるばかりではないではないか。たとえ相手を数段上回る鉄砲撃ちを仕込み、準備は怠りなかったとはいえ、命のやり取りじゃ。この勇ましいひとといえども、怖くなかったはずはない。せめて、このさ栄に縋りたかったのではないか? 女の躰に、おそれを忘れたかったのではないか? 天人さまなどというて、こんな女に……!)
 さ栄は、あの夜と同じ格好になっていた。男の上で、懸命に腰を上下させている。尻を掴まれ、前後に揺さぶられると、声が抑えられない。
 新三郎はこの姿勢で、さ栄の胸を眺められるのがよいのであろう。また愛おし気に胸を掴み、熱く充血した女の乳首を指と掌でいらった。さ栄は悲鳴をあげ、どうしたものか、大きく自分で腰を持ちあげ、落とした。
 唇を締めながら、つらくも見える表情で、腰を上下にゆっくりと繰り返した。まっすぐにあげ、落としては顔をしかめる。
(さ栄さま、それは違う?)
 新三郎は女の冷たい尻に手を置いて、また前後に揺さぶろうかと思った。そのほうが、さ栄の敏感な部分が刺激されるはずだ。だが、自分の肉を飲み込んだ姿を、まださほど「おかしく」なっていないさ栄さまがさらしてくれるのは、うれしかった。苦し気に励むさまが、愛おしく、まだ見ていたい。
 ただ、さ栄はまだ不器用だった。
「あっ?! ああ、あ……」
 さ栄は悲し気に呻いた。新三郎の肉は、固く張り詰めたまま、さ栄の躰の外で跳ねた。
「抜けてしもうた……。」
 さ栄は驚いたようだが、すぐに、赤く上気した頬にはにかんだ笑みを浮かべた。
 新三郎は起き上がろうとした。さ栄の肩を抱き、そして、今度はまた自分が覆いかぶさろうと考えた。
 だが、さ栄は笑い顔でそれを制した。自分の腹の前で屹立している新三郎の尖った肉を、おずおずとした様子で掴む。
 姫さまの方からそれを触るのははじめてだったので、新三郎は驚いた。
 さ栄の顔はまだ赤らんでいたが、笑みは固いけれど、崩れない。細面の顔の印象とは違い、少し丸みの目立つ、柔らかい手で掴んだ新三郎の肉の尖りを、自分の茂みの奥に近づけていく。躰をやや浮かせる。そこで気づいて、消え入りそうな声で、
「頼む。……お目を閉じて。……見ないで。」
と呟いた。今夜の新三郎は、女の願いに応じてやれる。昂奮の中で目をつぶると、自分の下半身の感覚がかえって際立って、やさしい手に、濡れた温かみの中に導かれていくのがよりはっきり分かった。
 腰の上に、鈍いけれど確かな感覚がある。さ栄さまの長い吐息とともに、また快い体重がかかった。新三郎は女の動きに任せた。

 
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